思い思われ…
だいぶ間が空いてしまい申し訳ありませんでした。よろしくお願いします。
あの後、ジルベスターとセシリアは今まで口に出してこなかったいろいろな思いを伝え合った。温かいジルベスターの腕の中で時折キスを落とされながらする他愛のない話は、セシリアにとって今までで一番幸せな時間で、晩餐の声がかかるまで2人でそうやって過ごし、晩餐を終えると渋るジルベスターをマルクとイェルクが公務へと連れて行った。食後、珍しく王太后から声がかかる。先日から季節の変わり目の空気に中てられ、少し体調を崩していた彼女だが、今日は気分がいいようで、少しセシリアと話をしたいとのことだった。
呼ばれた王太后宮殿の談話室に入る。
「ようこそ。こんな姿でごめんなさいね。」
彼女はここ最近の体調不良で少し顔がやつれたようだった。ゆったりとした簡素なドレスを身にまとい、髪を軽くまとめただけの軽装だ。
「いえ。お加減はいかがですか?」
「ええ。もうだいぶいいのです。でも、歳ですからね。少しの気候の変化に体がついて行かなくなりました。あなたはどうですか?慣れぬ気候で体調を崩してはいませんか?」
「おかげさまで、風邪ひとつ引かず元気です。」
「そうですか。それはよいことです。」
そこで、王太后は少し間をおき、セシリアの顔を見た。
「わたくしはね、ここよりも寒い国からちょうどあなたと同じ年のときにリンダブルクへ嫁いできました。最初の何年か、暑さに中てられてよく体調を崩したものです。」
王太后はセシリアを見ているようで少し遠くを見ながら話し始めた。
「この国に輿入れしてきたときには夫には既に複数人の側室や妾がいて、ずいぶんと苦労したものです。言葉も文化も大きく違う国でしたしね。そのうち夫が早くに死に、側室やその子どもたちも次々に死んでいきました。」
セシリアが見えていないかのように王太后は話し続ける。
「あの頃はたくさんの女たちが後宮で笑いさざめく裏で、いつも死の影が付きまとっていた。生き残ったわたくしの長男も、毒のせいでままならない体になってしまった。王妃となったアンヌもよく支えてはくれたけれど、いかんせん子をなすことができなかった。そして跡継ぎをなしたのは側室だったわ。ようやくできた孫も道を誤ってしまった。」
そこで、ぴたりと王太后の目がセシリアを捉えた。
「あの子は、ジルベスターは貴女だけを生涯妻とすると宣言しました。それが王としていいことかどうかはまだわからない。でも、私は一人の母親として、ジルベスターの幸せを願わずにはいられないの。どうか2人で支え合って、この国を頼みます。」
そういうと、王太后はそばに控えていた侍従に合図を送り、箱を持ってこさせ、セシリアに渡した。
「これは?」
「開けてごらんなさい。」
促されて美しい装飾の施された箱を開けると、そこには大きなアクアマリンのあしらわれた首飾りが入っていた。
「これは王妃に代々受け継がれてきた国宝です。」
セシリアはその重さとともにその重責を確かに感じた。
「本当は結婚式の直前に渡すべきなんでしょうけど、先に渡しておきます。貴女がこの国の王妃となることは揺らぎません。これはその印です。」
そういって王太后は大きく息を吐くと、憑き物が落ちたような表情で、ほほ笑んだ。
「ジルベスターと宰相には伝えてあります。これでわたくしの仕事は終わりですね。頼みましたよ。」
そういうと、少し疲れたといい王太后は部屋へと戻っていった。
セシリアはその箱を大切に持つと、自分の部屋へと戻った。これで本当に逃げることはできなくなった。箱を見つめ唇を引き結んだ。今夜の夜会、どのように決着しようとしているのかは影を使ってさえもよくわからない。だが、何度もジルベスターが安心しろと言っていた。侍従を呼び、宝玉を金庫にしまうように指示し、セシリアは気を引き締めた。




