問題は解決したのか
活動報告や感想に温かいお言葉をありがとうございます。お篭り生活が続き、なかなか更新ができませんが、お楽しみいただけたら幸いです。
今回は砂糖を吐く回。
「セシリア、気に入らなかったらツェツィーリアと呼ぶ。いくらでも贈り物をするし、毎日愛してるという。だから、ほかの女を妃になど言わないで欲しい。仕事だってセシリアがやりたくないならやらなくたっていいんだ。」
「それは困りますわ。」
セシリアがそっと自分を抱きしめるジルベスターの腕に触れた。
「わたくし、お役目を果たすことが好きですの。今の生活も悪くないと思っています。それに毎日贈り物などされたら、それこそわたくしのせいで国が傾いてしまいますわ。」
もちろんセシリアは高価な贈り物など欲しいわけではないが、毎日セシリアに贈り物などしたら、周りから見たら隣国の婚約者に骨抜きにされ、貢いでいるとしか思えない構図だ。セシリアはリンダブルグを傾けたいわけではない。
「セシリア…。」
「名前も、殿下がそんな風に思ってくださっていたなんて知らなくて…。」
「セシリア、私はあなたと2人の時はただのジルベスターだ。」
「…ジル。」
ささやくようにセシリアがジルベスターを呼ぶと、そのまま抱き上げられてソファへと座らせられた。もちろんジルベスターが体をピタリと寄せてくる。
「私はセシリアだけがいればいい。あなたに名を呼ばれるだけでとても幸せになれるのだから。もし子どもができないなら、遠縁の公爵家の子を1人もらってくればいい。確か昨年嫡男が結婚したから、何人か作らせる。母上や宰相たちにはそのように話を通してある。」
ジルベスターに肩を抱かれ、髪にキスを落とされる。何度も髪や頬に口づけられてくすぐったい。
「愛してるんだ、ずっと。手に入らないと思っていた貴方と婚約できて心から嬉しいし、今でも夢の様なんだ。あなたが私の妻になるなんて。」
ジルベスターにぎゅ、と強く抱きしめられた。思った以上に自分はジルベスターに愛されていたらしい。互いの国の利益もあるが、両親のような愛し愛される(ただし父の愛情過多)夫婦になれる希望ができたのは嬉しかった。
「本当はずっと2人で離宮にでも閉じこもっていられたらいいけど、王になってしまう以上それができないのが残念だ…」
(とても愛してくださっているのは嬉しいけれど、これは気をつけないと、執務室のことといい、寝室のことといい、何だかジルはおかしな方向に行ってしまいそう…)
そこでセシリアはあることに気づいた。すっぽりと自分を抱き込むジルベスターの頬にそっと触れた。
「ジル。なんだか、貴方が私を愛しているからそれでいい、という風に聞こえます。私が愛を返したら受け取ってはくれませんの?」
ジルベスターがぴしりとかたまり、抱き込んでいた腕を緩めて少しだけ体を離す。
「セシリアの…愛…?」
セシリアは少し首を傾げるようにして見上げ、ジルベスターの金色の瞳と自分の青い瞳を合わせた。
「わたくし、両親のような愛し愛される夫婦が素敵だなとずっと思っておりました。でも、わたくしは高位貴族の娘。家を守るだけの冷たい結婚になることも覚悟しておりましたのよ。」
「愛し…愛される…」
ぶわりとジルベスターの顔が赤くなった。
「ですから、ジルが誠実にわたくしを愛してくださるなら、わたくしもお返ししたいと思いますの。」
珍しくジルベスターがセシリアから体を離すと、体ごと顔を背けてしまった。黒い髪の間から覗く耳は真っ赤だ。セシリアはくすりと笑うと、ジルベスターの大きな背中にそっと手を置く。
「ねぇ、ジル。あなたの言う愛は一方通行でいいのですか?」
とどめのようにそっと囁くと、ジルベスターがゆっくり振り向いた。困ったような嬉しいような不思議な顔だ。
(精悍な顔が台無しね。)
それでもそんな顔をさせるのが自分だと思うと、気分は悪くない。もしかしたら、ジルベスターと公爵令嬢を見てモヤモヤしていたのは、嫉妬だったのか。とこのときジルベスターの顔を見ながら思った。
「セシリアが、私を?」
「ジルは私を愛してくださるのでしょう?」
「もちろんだ!」
「ではわたくしも…」
最後まで言えずに再びぎゅうぎゅうと抱きしめられる。自分を包む少し高い温度にすっかり慣れてしまったことに気づいた。
「そんな風にあなたは私を喜ばせて!」
「ではわたくしの愛はいらないと…「欲しいに決まっている!!!」」
いつも高めのジルベスターの体温が、もっと高くなった気がした。
「私は一生分の幸せを使い切ってしまった…」
心の底から出てきたような声に、セシリアは笑ってしまった。




