女の戦いround 3
長らくお待たせしました。亀更新になりますが、可能な限り執筆してお届けしたいと思います!
使者一行を迎えた次の日、歓迎の夜会が開かれた。今回は和平の使節団が来ているためかなり大きな規模の夜会だ。今回は次期王妃としてセシリアも正式に主催者として関わっている。
ここまでに使節団にいた女性についての情報が上がってきた。なんでも、不祥事を起こした公爵とは別の筆頭公爵家の令嬢のようだ。特に今まで外交に関わってきたという情報もなく、おそらくセシリアの読みの通り、側室候補として送られてきたのだろう。さらに不確定ながら、もともとは美貌で知られる子爵家の娘が、公爵家で引き取られ養育されたらしいとの情報が入ってきていた。それが本当だとするなら、隣国はリンダブルクに妃を送るべく以前から準備をしていたのかもしれない。
『ご苦労様』
セシリアは自室で影をねぎらうとちょうどジルベスターがセシリアを迎えにきた。
「セシリア…素晴らしい…。とても美しい…。」
ジルベスターがうっとりとセシリアを見つめる。もうこの視線にも慣れてしまった。今日のドレスはまさにジルベスターの色彩だった。金色に輝く光沢のある生地をマーメイドラインのドレスに使い、裾の広がった部分には下に行くにつれて布が濃い紺色へと変わっている。アクセサリーは上質なパールのネックレスとイヤリングだ。今回のドレスはジルベスターが吟味し贈ったものだ。また、ジルベスター自身は銀色の、これもまた上質な生地でできた礼服を着ている。カフスやブローチにはセシリアの瞳によく似たアクアマリンが使われている。
「殿下もお似合いですわ。」
そういうと彼はこどものように笑った。最近気づいたのだが、セシリアはジルベスターのこの素の笑顔が好きだった。いつも人好きのする笑みのジルベスターだが、ふとした瞬間にセシリアに見せる笑顔は少し違う。ジルベスターはセシリアに近寄るとそっと腕を回した。化粧や装いに配慮してくれているのだろう。
「違うだろう?」
「…とてもよくお似合いです。ジル。」
未だに弟たち以外の男性を呼び捨てにするのは慣れない。少し頬が赤くなるのを気づいているだろうジルベスターが小さく髪にキスを落とした。
「セシリアは本当に美しい。その姿も、心も、そのすべてが…。今日のドレスは夜明けをイメージさせたんだ。まさにこのリンダブルクにふさわしいだろう?」
セシリアの美しさに打ち抜かれたデザイナーは、不眠不休の勢いで部屋にこもっては新しいデザインを考え、王城でジルベスターと打ち合わせを繰り返していた。ほとんど他の仕事は受けておらず、セシリア専門になっていると影から聞いていた。
(疲労に効くハーブティーを差し入れしようかしら。)
セシリアはジルベスターと共に会場へと向かった。ジルベスターの身分が一番高いので、入場は一番最後だ。二人は笑顔で入場しジルベスターの挨拶で会が始まった。
さっそくジルベスターのもとへ使節団の公爵令嬢と王女がやってきた。
「本日は盛大に歓迎いただき、ありがとうございます。」
王女はいささか青白い顔で挨拶をした。それでもやはり王族としての教育が行き届いているのだろう。緊張を見せながらもきちんとした受け答えをしている。着ているドレスもかわいらしい色のものではなく、モスグリーンの落ち着いた、年齢に対してやや大人びたデザインのものだ。
「ジルベスター殿下。」
マリアンナ王女とあいさつし終えたところで、例の公爵令嬢が話に入ってきた。
「こちらは我が国のショーデン公爵家のアデリーナです。」
「改めましてごあいさつ申し上げます。ショーデン公爵家次女、アデリーナでございます。」
アデリーナがカーテシーをする。濃い金色の髪を豪奢に結い上げ、濃いチョコレート色のドレスは胸元と臀部を強調するようなぎりぎり下品ではないが、かなりセクシーなデザインだ。影の報告によればセシリアとそんなに年齢は違わないはずだが、蠱惑的な表情でジルベスターを見上げている。
「遠いところ、よくお越しいただいた。今宵はあなたたちの歓迎会。楽しんで行ってください。」
そういうと、ジルベスターはセシリアの手を取って次の貴族へ挨拶をしようとした。
「お待ちください!」
「何か?」
ジルベスターがあっさりと挨拶を終わらせたことが予想外だったようだ。立ち去ろうとすると、アデリーナに引き留められた。だがこれはマナー違反だ。本人も気づいたのだろう。
「いえ、お引き止めして申し訳ありませんでした。」
そのまま頭を下げ、王女の後ろに下がった。今度こそ、ジルベスターとセシリアは次の貴族の挨拶へと移っていった。
「アンゼルム。」
「ご機嫌麗しゅうございます。ジルベスター殿下、ツェツィーリア様。」
盛装に身を包んだアンゼルムがこちらにやってくる。今日は一人だ。そもそも、今回のことは隣国の王弟がローザに横恋慕したことが原因なので、アンゼルムはもともとローザの出席を断固拒否していた。また、先日ローザが身籠り、体調が安定しないこともあって渡りに船とばかりに欠席の書状をもってきたが、アンゼルムだけは出ろと宰相から圧力がかかったのだった。
「ごきげんよう。ローザ様のお加減はいかが?」
「おかげさまで体調も落ち着いてまいりました。食欲が増したようで、むしろ健康になっているやもしれません。」
「それはよかった。またあとでお手紙を届けてくださいませ。」
「かしこまりました。」
「また出産が終わったら王宮に遊びに来るよう伝えてくれ。セシリアが喜ぶ。」
最後のジルベスターの言葉に、わずかに顔をひきつらせたように見えたが、きれいに隠してアンゼルムは去っていた。
「殿下、ツェツィーリア様、本日はお招きいただきましてありがとうございます。」
続いてやってきたのはエルフリーデとその父侯爵だった。簡単に挨拶を交わす。
「ツェツィーリア様、先ほどお話をいただいた件につきまして、こちらでも動きますわ。」
ジルベスターと侯爵が話す隣でエルフリーデが端的にセシリアに告げた。
「ええ。お願いね。」
セシリアはほんの少し、悪さをたたえた笑みをこぼした。それですら周りの視線を釘付けにするほどの美しさで、気が付いたジルベスターはすこしムッとしたような、困ったような顔をした。挨拶を終えると、やや強引にダンスに誘われてしまう。
「セシリア、踊ってくれるだろう?」
「もちろんですわ。」
2人はフロアの中央にでる。音楽の始まりに合わせてスローテンポのワルツがはじまった。
「それで、何か悪巧みでもしているのかい?」
踊りながらジルベスターがセシリアにしか聞こえない声で聴いてくる。
「悪巧みなんて…心外ですわ。」
セシリアはとびきりの笑顔をジルベスターに向けた。頬を赤くしたジルベスターに腰をきつく抱かれ、ふわりとターンする。
「殿下?」
「だめだ、セシリア。」
「え?」
むすりとしたジルベスターにリードされ、何度も体を密着させてターンさせられる。結局そのまま曲が終わってもフロアから出ることなくもう一曲始まってしまう。
「殿下、どうされました?」
「婚約者なのだから何曲踊ろうとかまわないだろう?」
確かに二人は正式な婚約者同士なので問題ないのだが、使節団の王女と踊らなくてもいいのだろうか。
「王女はまだ幼い。無理にダンスをする必要もないだろう。」
何も言っていないのに答えが返ってきた。セシリアの考えが読まれることなど家族以外にはないので純粋に驚いてしまう。
「あなたもそんな顔をするのだな。」
やっと少しだけ笑うとジルベスターはより密着するように腕を回してくる。
「セシリアが魅力的過ぎて、私はとても心配だ。」
「わたくしは殿下の婚約者ですからほかに目移りすることなどありえませんよ?」
「セシリアがそう思っていても群がってくる奴らがいるからな。喫緊にはあの使節団がいる間は今まで以上に気を付けてほしい。」
「もちろんです。」
そこでちょうど曲が終わったので、フロアから出ようとしたが、ジルベスターは手を離してくれない。そのままセシリアの唇に軽いキスを落とした。
「で、でんかっ」
さすがにあせるセシリアに「虫よけだ」とそのまま満足そうにジルベスターは笑った。その日はそのまま二人はほとんど離れることなく、アデリーナの何とも言えない視線を感じながら夜会を終えた。
明日18時、更新します!




