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女の戦いround2

誤字脱字のご指摘ありがとうございます。いつも見直してから投稿してるのですが、あまりの修正の多さに自分でも驚いております…


披露目の夜会を終えたあと、セシリアの日常は一気に忙しくなった。王太后と共にお茶会を主催し、国内にネットワークを作る必要があるのだ。セシリアの祖父の妹がこちらの国の侯爵家に嫁いでおり、全く伝手がないわけではないのが心強い。嫁ぐにあたって、事前に連絡も取っており、セシリアの再従姉妹にあたる令嬢もお茶会に呼ぶことになっており、彼女に会えるのを少し楽しみにしていた。

今日はそのお茶会の二度目になる。一度目は比較的王家に近い貴族の家が多かったが、今度はそうではない。だが、一度目のお茶会に来ていた貴族たちも、求心力が大きく落ちた王家との距離を測りかねているようだった。一度目も二度目も変わらない。


お茶会があるとはいっても、呼ばれる側ではなく呼ぶ側なので、様々な準備がある。それらに指示を出しながら、セシリアは次期王妃としてやるべき仕事も同時進行で行っていた。今もマルクを呼び、先日提案した被災地支援に関する意見について議論していた。こうして関わるようになって、今までどれだけぎりぎりでこの国を回していたのかがよく分かった。国王の病、王妃の死去、元王太子による混乱、災害や東への騎士団の派遣など、次から次に来る懸案事項に対して処理していくだけで手いっぱいなのだ。そのあとの継続的な支援まで手が回っていない。なので、主に現在そういったものの草案をセシリアが、国の通常業務に関しては主に王太后が担当している。だが、もう少し上に立てる身分と教養、度量のある人物が欲しい。マルクは最近死にそうな顔色で目の下にはクマが常駐しているし、アンゼルムも二日に一度は登城し、先日ローザと離れて泊まり込んだ時は死にそうだった。


お茶会は前回と同じ、王城内の中央庭園を開放して行われた。主に貴族のご婦人やご令嬢だ。女性同士特有の派閥や情報網は侮れない。その中でセシリアはトップに立たなければならないのだ。顔に一番優雅な笑みを貼り付け、庭園に入った。


「皆様、本日はありがとうございます。こころばかりではございますが、オーラリアの茶器や飲み物、お菓子などをご用意いたしましたので、ゆっくりとお楽しみください。」


そう挨拶してお茶会が始まった。最初にこちらに来たのは大叔母の縁者だった。


「オイレンブルク侯爵家夫人マルセラと娘のエルフリーデでございます。本日はお招きいただき光栄でございます。」


そう言って優雅に頭を下げた二人は髪の色の違いくらいでよく似ていた。エルフリーデはセシリアと同じシルバーブロンドだった。おそらくロブウェル公爵家の色彩なのだろう。


「こちらこそおいでいただきありがとうございます。ずっとお会いしたいと思っておりました。」


「光栄でございます。」


主に夫人がセシリアとやり取りし、エルフリーデは黙って聞いている。簡単に挨拶を終えると、エルフリーデが口を開いた。


「ツェツィーリア様。ツェツィーリア様からご覧になってこの国はいかがですか?」


「いかが、とは?」


「率直に申し上げると、この国は今大変不安定です。それについてどう思われますか。」


セシリアとは違う紫色の瞳がこちらをまっすぐに見てくる。


「そうですね。不安定さの原因は主に王族の存続についてですので、それが解消されればだいぶ落ち着くと思われます。あとはジルベスター殿下が進められている新しい産業がどこまで軌道に乗るかですが、大きな貿易先は確保してありますので心配はないかと。オーラリアとの間に陸路を作れば宿場も栄えますので騎士を配置し、治安をしっかりとすれば大きな収入になります。優秀な文官の確保も大切です。他にもありますがここではお時間が足りなくなってしまいますね。」


そう言ってほほ笑むと、エルフリーデはセシリアに手を出してほしいと言ってきた。訳が分からず手を差し出すと、エルフリーデはその手を取って自分の額に当てた。これは騎士以外の女性が女性へ忠誠を誓う時の仕草だ。


「ツェツィーリア様、わたくしはここにあなた様への忠誠をお誓いします。どうかこの国の王妃として、国の安定にお力を。わたくしはわたくしの持つすべての力を使ってそれをお支えいたします。」


「あなたの忠誠を受け取ります。長くわたくしを支える柱となってください。」


セシリアがそう言うと、エルフリーデはセシリアの手を離し、きれいなカーテシーをした。周りのざわめきがやむ。高位貴族が直接忠誠を誓ったということはその派閥がセシリアの下についたということだ。


「それにあなたとはいいお友達になれそうですわ。」


セシリアはエルフリーデにしか聞こえないような声でそう言った。2人が普通に会話を始めれば、周りもだんだんと普通に戻っていく。そうして次々と多くの夫人や令嬢たちがセシリアのもとに挨拶にやってきた。エルフリーデによると、先日の夜会でローザと親しげな様子を見せたことにより、貴族たちの王家に対する不信感も多少払しょくされたらしい。これで今日のことが広まれば、今度は女性貴族も軟化するだろう。リンダブルクでは後継ぎがいない場合に限りだが女性も爵位を継げるので、少人数ながらも女性有爵者もいるのだ。彼女たちの力も侮れない。


そうやって茶会を進めていくと、見たことのある釣り目の女性がやってきた。


「ヒュンデル侯爵令嬢。」


「ご機嫌麗しゅう。本日はお招きいただきありがとうございます。」


言葉は普通の挨拶なのにやたらと語気が強い。


「先日お会いしてから、わたくしジルベスター殿下をお支えするために勉強を始めましたの!」


セシリアとエルフリーデが目だけを合わせる。セシリアは扇で口を隠した。


「どのようなお勉強を?」


「まずは歴史と政治学ですわ。」


セシリアはできるだけ挑発しているように見せながら話を続ける。


「まあ。すばらしいですわ。では、政治学者マルエンターレの『貴族論』に関するヴェロニカ様の考察を教えてくださる?」


「あの本が名著かどうかは意見が分かれますわね。わたくしとしては、政治と宗教の密接な関係性については疑問を持ちます。宗教があまりにも政治と結びつき過ぎればそれに左右されることも出てきましょう。それは国の不利益になることも考えられます。ですが、身分制度廃止による代替制度の提唱は興味深いものがあります。」


なおも話し続けるヴェロニカにセシリアの口が扇の後ろで三日月形に吊り上がる。ヴェロニカの言葉が切れたところで、セシリアは話題を変える。


「とても素晴らしいですわ!この短期間でそこまで勉強されているなんて!ところでわたくし、語学も好きで会話だけなら5カ国ほどできるのですが…。」


「わ、わたくしだって勉強すればできますわ!ではご機嫌よう!!」


踵を返したヴェロニカはそのまま取り巻きたちとその場を離れていった。


「ツェツィーリア様、あれは?」


「なんだかよく分からないけれど、わたくしが気に入らないようなの。でもこの短期間で貴族論に関するあの考察はかなり勉強していることでしょう。ちょっとつついたら頑張ってくれそうですし、ちょっと育ててみようかと思って。」


クスクスと笑いながらセシリアがエルフリーデに言った。


「教養深い人物にご興味が?」


「そうなの。今人手不足なので、ある程度身分があって文官としてやっていけそうな人が欲しいのよ。」


「そういうことでしたら、わたくしの知り合いに、殿方に頼らずに身を立てたいと努力している女性が数名おります。学園でも上位の成績を修めておりますので、お役に立てるかと。」


「あら、ではジルベスター殿下にご相談してみましょう。」


セシリアは本当にこの新しい友人とは気が合いそうだと思った。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ローザ嬢が頑張っていたことが巡って、セシリア嬢の手助け出来ている部分。 誘拐された時の恩返しが順調なのは、ローザ嬢が今まで行動してきたからだよね。 そのまま問題ないぐらいまで元気になるんだ…
[一言] ヴェロニカちゃん転がされとる…w 初めて見たときはテンプレの悪役令嬢かと思ってましたが、何か可愛く見えて来ましたw
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