観劇にいきましょう
すみません。ちょっと他の話に浮気をしてました…
「セシリア!観劇にいこう!」
突然やってきたジルベスターにそう宣言されたのは、お披露目の夜会から2日後の午後だった。
「ええと…ちょっと今日は無理かと…」
「今日じゃない。明日だ。母上には言っておいたから明日の午後は準備に当てて、2人で出かけよう。」
そういえば、こちらに輿入れしてきてから4ヶ月、城の外にでるのは初めてだ。唐突だが、久しぶりの外出とリンダブルグでの初めての観劇に自然と嬉しくなった。
「ありがとうございます。」
「お忍びになるけど、セシリアに似合うドレスを用意しておいたから。」
ジルベスターが自然にセシリアに近づくと、手をとってキスを落とした。そうして翌日、2人で初めて外出することになった。
ジルベスターから贈られた新しいドレスは、海のような深い青だった。マーメイドラインのふくらみを抑えたドレスで、背中が開いているため、かなり大人っぽく見える。セシリアの瞳の色とよく合っていた。
ジルベスターは黒い礼服だが、所々ボタンや飾りに青い色があしらわれている。セシリアが指示したわけではないのだが、相手に自分の色をというのは、かなり恥ずかしいものなのだと知ったセシリアだった。
劇はとても素晴らしかった。人気の演者と豪華な舞台装置はそれだけでも見応えがあったし、国を巻き込んでのスペクタクルロマンは見ている者を舞台に釘付けにした。たとえ主人公が黒髪の国王で、お相手が美しいシルバーブロンドを持つ隣国の姫だとしても。姫の父が魔王と言われるような辣腕の国王でも。
(これはオーラリアに速達を出すべき…?こき下ろしてるとか悪意ある脚色はされていないからセーフ…?)
後半は別の意味でドキドキしていたが、劇が終わった後、ジルベスターは大層上機嫌だった。
いくらお忍びとはいえ、顔を隠してるわけでもない彼らは、劇場から出るとあっという間に貴族たちに見つかり、挨拶をされる。だが、劇場なので圧倒的に若い女性やご婦人連れの紳士たちが多い。また、あまり騒ぐわけにはいかないので、軽く挨拶する程度で済んだのもよかった。ジルベスターがセシリアの腰を抱き、時折甘く微笑む様子にご婦人たちの羨望の視線が痛い。そんな中、セシリアは見知った人間を見つけた。
「あら?マルクですわ。」
セシリアの声に、ジルベスターがセシリアの視線の先を追う。少し離れていたので、こちらには気づかなかったらしい。お堅い文官かと思っていたが、恋人らしき若い女性を同伴していた。
「あれは…」
ジルベスターは女性を知っているようだった。
「ご存知の方ですの?」
「あぁ。まあ。」
珍しく歯切れの悪い口調だったが、また新たな貴族に声をかけられているうちに、セシリアはすっかりそのことを忘れてしまった。




