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許さん(side ジルベスター)

セシリアとイェーガーがいなくなったと連絡が入った。


「イェーガー殿下が逃げるためにツェツィーリア様を?」


「いや、それはない。1人で逃げるならまだしも、なんの手引きもなく人を1人連れて逃げるのはあいつには無理だ。」


「そうすると元側室側の人間ですか?」


「わからない。」


そう。わからないのだ。どちらか1人ならまだしも、2人を連れていく理由がわからない。


そのとき、ルエーガー公爵家からローザが姿を消したとの連絡がきた。


「ローザ!」


部屋を飛び出そうとするアンゼルムをイェルクが引き止める。


「アンゼルム待て!タイミングが合い過ぎている!ツェツィーリア様たちと同じ犯人の可能性がある!」


「違う犯人かもしれません!ローザはまだ身体が癒えきっていない!足だってほとんど動かせないのです!私が助けなければ…!」


「ジルベスター殿下!クラヴェハーフェンからの伝令です!トーチ国の大使が!」


「東の辺境伯家に向かった部隊から報告です!」


「殿下、ご指示を!」


「テラゼム国から問い合わせが来ております。」


もはや執務室内も大混乱だ。誰も彼もが怒鳴り合うように声を張り上げている。






「だまれ」


その声はまさに鶴の一声だった。大きな声ではないが、低く低く抑えられた声に、室内は一気に静まり返る。


「アンゼルム、お前の義父はまだ王都内だったな。お前の義父をこっちによこせ。お前は公爵家に戻ってローザ嬢の捜索を手配しろ。ただし、セシリアたちと同一犯だったらこちらに合流。


イェルク、王太后に連絡し、王宮内の指揮は王太后の指示の元に対処しろ。外務大臣と財務大臣を呼んでクラヴェハーフェンの対処を。予算は緊急補正予算から。足りなければ元側室の離宮と王子宮から奴らの贅沢品を売ってでも。謹慎中のザナス侯爵も呼び出して国外との折衝に当たらせろ。


マルクは私と共にセシリアたちを追う。念のため、別々の事件であることも念頭に入れておこう。騎士団長、副団長と騎士隊の一部を借りるぞ。」


心得たとばかりに各々動きだす。

ジルベスターは早急に彼女の影に連絡を取るよう指示をした。


(ああ。やはりセシリアは私のそばから離してはいけない。)


セシリアを取り戻したら寝室と執務室の壁は取り除いてしまおう、などと不穏なことを考えていた。


知らせは思ったよりも早く届いた。

セシリアと共にリンダブルグに来た騎士隊が影からの伝令を持ってきたのだ。


「『夜』からの連絡です。ツェツィーリア様を追跡中。イェーガー元王太子殿下とルエーガー公爵令嬢らしき女性が拉致されているとのこと。現在地は王都から東南方面、廃墟のような古城に入ったそうです。3人とも外傷は無し。女性2人は何かで意識を奪われ連れて行かれているようです。」


「マルク!ルエーガー公爵家に使いを出せ!その後救出隊を編成し、1時間後に出発する!イェルクここは任せた。騎士隊と共に私が行く。マルクは私と共に来い。」


「殿下危険です!」


「最前には行かない。それに、イェーガーがいるならば私が行った方がいい。」


「は!『鳥』を先導に出します。」


「イェルク」


「…わかりました。ご武運を。もしツェツィーリア様に何かあればオーラリアから攻め込まれます。」



準備はすぐに整った。セシリアに忠誠を誓う騎士たちも救出部隊に入れ、馬を駆る。とにかく無事でいて欲しいとそれだけが頭の中を回っている。


その古城は廃墟のようだった。だが、城の周りは人が通った跡があり、無人ではないことがわかる。影によれば、セシリアとローザ嬢は石壁の地下牢に入れられていると報告があった。辺りに騎士隊を展開し、地下牢への救出と共に、犯人の取りこぼしがないようにする。


影が地下牢の入り口にいた見張りを昏倒させ、騎士隊が捕縛する。念のため中に敵がいないかの確認も兼ねて、そのまま影が牢の入り口を開けようとしたところで動きが止まった。

中から誰か来ると身振りで伝えてくる。


扉が開いた瞬間、出てきたのはセシリアだった。すぐに彼女を腕に閉じ込める。ローザ嬢は猿ぐつわをかまされていた。そのまま女性騎士に指示して、馬車に乗せる。どうせアンゼルムのことだ。実戦経験などないのに単身でも馬を駆ってくるだろう。


アンゼルムがきたらローザの馬車に連れて行くように指示を出しておいた。


「よかった!どうやって逃げてきたんだ?」


強く抱きしめる。


「殿下、ツェツィーリア様が折れてしまいます。それとこちらを。馬車の用意もできておりますので、そちらに移動してからにしてください。」


マルクがセシリアに毛布を差し出した。セシリアの代わりにジルベスターが受け取る。


「殿下、中にイェーガー元王太子がおりました。ちょっとお怪我なさってまして…」


それを聞いて、騎士たちが地下牢に入って行った。


「イェーガーと同じ牢にいたのか!」


「同じ牢というか、暴漢になり下がったと申しますか…まぁ、彼は自ら進んで逃げてきたそうですから。」


セシリアに暴行を?

そこで初めてセシリアのドレスが破かれていることに気付いた。毛布でセシリアを包むと無言で馬車へと抱いていった。イェーガーに対する怒りが沸々と沸いてくる。近くの騎士にイェーガーを罪人の牢に連行し、何かあったら馬車の中に声をかけるようにと言いつけて、ローザとは別の馬車の中に入る。


ジルベスターはセシリアを抱いたまま馬車の中に腰掛けた。


「殿下?」


「殿下じゃないだろう?」


「ジル…?」


「何をされた?」


「…え?」


言っていることがわからなかったようで、ぱちぱちと綺麗な青い目を瞬かせる。


「奴に何をされた!」


「何もされておりません。ドレスとコルセットの紐は切られましたが、指を折って顔に唐辛子液をかけてやりましたの。」


まさかのセシリアの反撃に驚く。


「縄も素人が結んだようですぐに解けましたし、痺れ薬を仕込んだ髪飾りもありましたし。」


だが、身体が小さく震えているのが抱きしめているジルベスターにはわかった。強がっているわけではないだろう。きっとまだ興奮状態なのだ。


「私の婚約者は勇ましいな…。髪飾りといい、唐辛子液といい、恐ろしいものを持っている。」


「ええ。ですから大丈夫ですわ。」


「でも、怖かっただろう…震えている…」


セシリアの背中を優しく撫でる。きっとしっかりしたセシリアのことだ。自分がローザも守らなければと気を張っていたのだろう。


「もう大丈夫だ。ここは安全だから。よくローザ嬢も守ってくれた。」


そう言うと、セシリアは安心したように涙を流した。柔らかい体を抱え直し、ぴったりと抱き込む。

涙で目が溶けてしまいそうだ。ジルベスターの言葉に安心して涙を流すセシリアはあまりにも儚くて、どこにも行かないようにと願いを込めてセシリアにキスをした。


何度も何度も唇を啄んでいると、そっとセシリアの指先がジルベスターの頬に触れた。口付けの合間に漏れる吐息にゾクゾクする。

さらさらとした極上の絹糸のようなセシリアの髪を撫でながら、彼女を労った。いや、正直にいうと彼女の抱き心地と唇の柔らかさを存分に味わった。


もう少しだけ、とその唇を舌でノックする。

ペロリと舐める。


だが、返ってきたのは規則正しい呼吸だった。気が緩んだのだろう。あどけない顔をして眠るその顔は、いつもの完璧な令嬢ではなく、16歳の少女だった。指で唇をそっとなぞるとくすぐったそうに唇を少しだけ開いた。薔薇色の唇からのぞくピンク色の舌がたまらなくセクシーだ。


…流石にここでこれ以上は人としてダメか。


そうして、彼女の心地いい温度を感じながら、いつのまにかジルベスターも眠っていた。

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