緊急連絡
間が空いてしまい、申し訳ありません。ちょっと短編に浮気してしまいました…
「事故は二艘の大型船同士の衝突事故です。」
「片方の船から火の手が上がっています!」
「南東の風に煽られ、炎を上げたままの船が港内に侵入、他の船や街に火の粉が!」
次々と緊急連絡が入ってくる。
同時に、国の西側のエッケ港で高潮の被害が確認された。
双方を管轄するそれぞれの貴族たちから、ひっきりなしに報告が届く。最優先は人命救助だが、高潮の場合は周囲の塩害について考えなければならない。
すぐに専門家を手配し、騎士団の他に王都内の国立学院に通う医学生や医師たちを派遣する用意をする。
クラヴェハーフェンはリンダブルク最大の貿易港だ。この大陸の流通拠点の一つであり、他国の船も数多く入港している。
単独事故ならともかく、他の船にまで飛び火しているとなると国際問題になりかねない。
外務大臣を呼び出し、宰相や側近たちと共に対策を立てていく。クラヴェハーフェンは現在嵐で火災はすぐに収まりそうだが、海が荒れているので救助が難航している。
役人や貴族たちは沢山いるが、いかんせん王族の数が足りない。母上に頼むにしても緊急時にはどうしても手が足りなくなる。母上からの進言でセシリアにも対応に当たってもらうことになってしまった。とは言え、まだ国内で披露目をしていないため、1人でやるわけではなく、母上と一緒なのでまだいいだろう。
私の次の王位継承者を引っ張り出すことも考えたが、祖父の妹の嫁ぎ先の公爵家となると、余りにも縁が遠い。
一つ一つはそうでもないが、大きな事象が二つあると、息つく間もなく次々と問題に対処しなければならず、とにかく忙しい。
セシリアに会える時間が少な過ぎる。彼女が来るまでは確かにそんな風には思わなかったのに。母上が気を利かせて、私は回す書類などを彼女に持たせるくらいでゆっくり話す暇もなかなか無くなってしまった。
だが、こればかりは誰も責めることはできない。まずは目の前の問題をなんとか収めるのが先決だ。
普段王宮内に執務室を持たないアンゼルムもイェルクのところに押し込み、今士官している文官や武官をフル稼働させている。
こんな時、甥の側近たちが縁者を巻き込んで消えたのが腹立たしい。通常業務なら問題ないが、人手不足だ。特に騎士団長の息子が断罪の場にいて、連座で団長が退任、優秀だった5人の兄弟たちが要職から退いたのが痛い。一兵士の数は多いが、彼らをまとめられる度量と腕と身分がある者が一気に減ってしまった。緊急時だから、一度団長と兄弟だけは呼び出すか、とイェルクや新団長たちと協議する。
国の東の国境がきな臭い、との報告も上がっている。東西南北の国境はそれぞれ辺境伯がいるが、東側の辺境伯は身体を壊しており、跡取りが娘2人しかおらず、早急に婿を取りたいので、縁を取り持って欲しいとの書状が来ていた。
ーー指示系統が弱いところを狙われているか。
協議の結果、背に腹は代えられない為、一部の騎士と共に前騎士団長の次男を行かせることにした。やらかした弟とは違い、次期団長も夢ではないとの有望株だったのだ。人望があり、一部の騎士たちから復職の嘆願が出ていたし、丁度いい。
本当に次から次へと問題が出てくる。甥のせいで周辺国から王族が弱くなっていると思われているんだろう。腹立たしいことだ。だが、これらの問題を解決できなければ最悪攻め込まれる。
やっぱり子が生まれたらすぐに譲位するかな…
ため息を吐き、そんな無謀な考えを吐き出し、頭を切り替える。
アンゼルムも騎士団長もイェルクも隈ができている。自分もさぞ酷い顔だろう。
「アンゼルム、イェルクは交代で2時間ずつ寝てこい。」
「ですが殿下…」
「お前たちが戻ったら私も少し休む。幸い、並の王侯貴族より鍛えているからな。イェルクはともかく、アンゼルムは死にそうな顔色だぞ。」
渋る2人を執務室を追い出そうとすると、慌ただしくドアがノックされる。
「殿下!イェーガー元王太子がおりません!」
「伝令です!ツェツィーリア様が!」
問題はまとめてやって来る。




