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side ジルベスター

とうとう今日はセシリアがリンダブルクに輿入れしてくる。長かった。そして今日から毎日一緒だ。



仕事を3倍速で片付け、うるさいイェルクを置き去りにしてセシリアを迎えに行った。簡素な外出用のドレスは、煌めくプラチナの髪に白い肌、空のような青い瞳の彼女そのものの美しさがよく分かる。



誘えば、わざわざ着替えて馬に乗ってくれる。服の上から感じるセシリアの柔らかさを堪能した。



王宮に着き、最初の謁見をする。事前の打ち合わせの通りに進め、彼女を貴族たちに印象付けることに成功した。だが、彼女が男たちの視線にいつまでも晒されるのが嫌で、早々に退出した。



詳しい説明は明日以降にすることにして、まずは彼女の部屋に案内する。事前に調べておいたセシリアの好みを参考に部屋を作った。細かいところは彼女本人が来てからということになっている。彼女が部屋のドアを開けるまで、ジルベスターは上機嫌だった。










「イェルク…」



「なんです?殿下。」



「なぜベッドがあの部屋にあった?」



一緒に寝るために、セシリアの部屋のベッドは運び出しておいたはずだ。




イェルクが目を眇める。



「ばかやろう。いきなり同衾させるわけねぇだろ。王族の花嫁は王宮に入って3ヶ月、(とこ)は別にすることが決まってるだろうが。」





「わざわざ主寝室のベッドを新調したのに。」




「ちゃんと決まりを守れ!まったく!直前にチェックに行かなかったらどうなっていたか…」




「それに、鍵があるなんて聞いていない。」




「お前の考えていることに予想がついた。ツェツィーリア様の部屋の鍵は信頼できる人物に預けてある。もし誰が持っているかわかってもお前の手には渡らない。観念しろ。結婚式までの我慢だ!」




「いやだ!」




「即答かよ!とにかく最低でも規定の期間はダメだ!ツェツィーリア様なら問題ないとは思うが、後々痛くもない腹を探られるようなことはやめろ!」




イェルクの言いたいことはわかっている。過去、他の男の子を宿したまま輿入れしてきた女がいたからだ。

だから現在では、他の男の子が腹にいないことを確認してから結婚することになっている。





「まぁ、多少は目をつぶってやるから。だが、一線は守れよ。」




ため息まじりにイェルクがつぶやいた。





「とりあえず、明日は少し時間が取れるようにしてあるから、ツェツィーリア様をご案内してやれ。」




「ああ。」













ふとイェルクの顔が仕事のそれになった。



「それと、例の件だが…相変わらずクラーラ・ヒューンはお前と会いたい、話をさせろと牢で喚いているらしい。どうする?」




あの廃嫡した元王太子の寵愛を受けていた男爵令嬢は、牢に入った後、なぜかジルベスターへの面会を求めているとの報告が上がっていた。




「本来なら会う必要はないのだが…。何が目的かがわからん。一度牢に行くか。」




さっきまでの幸せが目減りする気がした。だが、セシリアとの結婚前に男爵家については処理し終える必要がある。イェルクが直ぐに手配を始めた。























冷たい地下牢に入ると、すぐにキャンキャンと甲高い声が響いている。最初は静かにするように看守からも言われたようだが、全く聞き入れないという。






「だまれ、クラーラ・ヒューン。恐れ多くもジルベスター殿下の御前だ。」



ジルベスターが鉄格子の前に立つと、、牢の中には1人の少女が座り込んでいた。一応貴族用の最下層の牢なので、鎖に繋がれてはいるが、粗末な椅子と机がある。


手入れをしていないだろう少女の髪は艶を失い疲れが見えている。

だが、声が聞こえていた通り元気はあるようだ。


ジルベスターの姿を見ると、目を輝かせて鉄格子に手を掛けた。




「ジル様!よかったです。助けに来てくれたんですね…」



目を潤ませ、上目遣いでこちらを見る少女は、なる程きちんとした身なりをしていれば、それなりには見えるだろう。だが、飛び抜けて美人という訳でもなく、マナーや教養は無いに等しいようだ。


セシリアという大粒の真珠を見てしまった後では、そこら辺に落ちている石と大して変わらない。なぜ婚約者の公爵令嬢を捨ててまで元王太子が入れ込んだのか、正直よくわからない。



「ジル様、お願い。早くここから出してください。」



「貴様!馴れ馴れしいぞ。」




イェルクが殺気を込めて言葉を掛けた。




「あなた誰?私はジル様に話しているの!ね?ジル様。」






「私は君と面識はないが。」




イェルクの怒りを感じとり、一歩前に出たイェルクを手で制してジルベスターはクラーラに声を掛けた。




「え?沢山おはなししたではないですか!」




「少なくとも私には記憶はない。」




「国王様の誕生祭の時におはなししたじゃないですか。もう。忘れるなんてひどいです。でも許してあげますね。早く鍵を開けてください。」



両手を胸の前で組み、少し首を傾げるようにして少女はこちらを見る。



「貴様…!」



もう一度イェルクを手で制する。




「もしここを出られたら君はどうする。」




「え?勿論ジル様のお妃になります。」




クラーラは何でもないような風に言った。イェルクが怪訝そうな顔になる。



「お前はイェーガー元王太子の恋人だっただろう?」



「そうです。でも、ジル様が望むならジル様のものになります。だからイェーガー様を王太子に戻してあげてください。」



聞いていた男たちの頭の中は疑問符でいっぱいになる。



「なぜ君が私のものになるとイェーガーが王太子に戻れるんだ?」



「だって、私と結婚すればジル様は幸せでしょう?だからイェーガー様が王様になればみんな望みが叶って幸せですもの。それが正しいのでしょう?」




全く訳がわからない。イェルクも困惑している。





「意味がわからないが、私が君を望むことは有り得ないし、イェーガーの廃嫡も揺るがない。君の取り巻きたちも皆処罰を受ける。原因は君だ。」




「どうしてそんなひどいことを言うんですか?」




そう言って今度はしくしくと泣き出した。




「自分が何をしたかわかっていないのか?」



「王子様が好きな人を恋人にすることの何がダメなんですか?愛のない結婚こそ不幸です。私、悪いことなんて何もしてないのにこんなところに閉じ込められて…」



その姿は確かに人々の同情を引けるかもしれない。ただし牢の外であれば。




「王妃様ならきっとわかってくれます!」




「王妃?義姉上は昨年亡くなったが…」



「イェーガー様のお母様です!前の王妃様が亡くなったから、イェーガー様のお母様が王妃になるって言ってました!」



側室は元々の身分が余り高くない。その為、王妃になることはできない。それは当たり前のことだった。しかし本人の中では違ったようだ。




「もういい。」



ジルベスターは目を細め、そう言うと、元来た道を引き返そうとした。後ろからクラーラの声が響く。




「ジル様待って!出してくれないの?!ここから出たら私、貴方のものになるのよ!」



振り返り、今までとはうって変わったような厳しい声を出す。



「なれなれしく呼ぶな、クラーラ・ヒューン。私にはすでに最愛の恋人がいる。お前程度の女はいらん。お前はただの罪人だ。」



いい加減頭に来てそう吐き捨てると、引き留める声に応えることなく地上に出た。










「何なのですかね。あの女は。」





「自分によほど自信があるのだろう。報告によると、男に取り入るのがうまいそうだから、愛されて当然だと考えているのかもしれんな。」





元々平民として母親と市井で暮らしていたようだから、平民の感覚が抜けないのかもしれない。平民としては可愛らしいので、街に住んでいた時も男たちにチヤホヤされていたらしい。


成人前の女性なので、処刑まではできまい。修道院に入れるのが妥当か。





「話が通じない気持ち悪さを感じました…」




イェルクに同意し、ジルベスターは目減りした幸せを取り戻すべく、セシリアのところへ向かった。


















ちょうどセシリアは部屋で寛いでいたようだ。すぐに返事があり、室内に通された。イェルクや侍女たちを外に出す。




先程と同じように、セシリアの肩を抱き、隣に座った。



「殿下、どうされました?」



セシリアは困惑気味だ。



「私はいつだってセシリアと一緒にいたい。それと、もう名前を忘れたのか?」



そういうと、セシリアは少し困ったように眉を下げた。



「まだ、慣れておりませんので…練習します…。」




「じゃあ今練習しよう。」




そう耳元で囁くと、セシリアが小さく震えた。セシリアは耳が弱いようだ。



「呼んで?」



「ジル…」



「もう一度」



「ジ、ジル…?」



困ったような顔で上目遣いにジルベスターを見上げる。その愛らしさは先程の女とは大違いだ。



「セシリア可愛い…」



少しだけ首を傾け角度を調節すると、見つめ合ったまま顔を近づけた。




「ん…」



ちゅ、と小さな音を立ててセシリアの唇に触れるだけのキスをする。拒絶の声はなかった。少しだけ漏れたセシリアの声が堪らなかった。


もう一度顔を近づけると、今度はセシリアは瞳を閉じた。そのままキスをする。すぐに離れずに少し長くセシリアの唇を味わった。




「ジル…息が…できません…」



そう言って真っ赤になったセシリアが可愛すぎて、晩餐の声が掛かるまで、彼女を腕の中から出せなかったのは、断じて自分のせいではない。とジルベスターは思った。

そろそろストックが切れそうです…泣

明日の更新を目指します…

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