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マルタたちの警戒も空しく、更なる地下に続く階段にくるまでに新しい発見はなかった。
「本当にこの先に何かあるの?」
ロゼは不審を隠そうともせず言った。隣にいるココもどこか不安そうな表情を隠せずにいる。そんなまだ冒険者となって日の浅い二人と比べて男三人は冷静だった。この先に何かあるのか、ないのか。それを確かめるために来ているのだと、グリューズは無言のまま階段へと向かう。
何事もなく階段を降り、地下二層を探索しても一層と同じような構造でさしたる発見もなかった。これはマルタに事前に聞いていたこととはいえ流石のグリューズも肩透かしを食らったようだった。あるいは自分たちならば何か発見をできると思っていたのかもしれない。しかしそう簡単にいくものではない。当時地下三層を見つけられたのも偶然の出会いと発見によるものだったのだ。
マルタは百年前、生まれ育った村を出た後にとある植物を探して様々な文献を読んだ末にこの遺跡に行き着いた。一人旅は自然とある程度の自衛力を身につかせたが、遺跡探索などしたことがないため調査が進まず途方に暮れていた。そんな時に同じく地下三層の存在を知ったが見つけられずいた<果ての剣>と出会ったのだ。マルタがの持つ情報は幾人もの人が踏み込んだはずの遺跡が何故今なお傷一つなく出来たばかりのように綺麗であるかの理由だった。そして<果ての剣>の持つ情報は道もないのに存在するさらに下にある空洞、地下三層の存在と位置だった。
「本当に地下三層はあるのか?」
地下二層の一番奥、一層であればさらに下へと続く階段がある位置にマルタたちはいた。そこは一見すると行き止まりで白い壁があり、とうとう行き止まりについてしまったことに疑問の声を発したグリューズだけでなく、他の団員達も少なからず地下三層の存在を疑っているようだった。しかしマルタはそんな様子を気にせず行き止まりの壁に手を添える。
「まあ、見ててよ」
マルタは行き止まりの石壁から皆を離れさせた。いや、そこは行き止まりではなく石壁でもないのだ。そもそもこの遺跡は石材で出来てなどいない。マルタは白く冷たいそれに手をつき、内に秘めた力、魔力を解放する。
「<開け>!」
マルタの発する力の言葉はすぐさま効果を発揮した。白い壁はずるずると音をたてて上へ下へと蠢き、正体を露わにする。
白い石壁と思われていたそれは植物だった。極めて高度な魔法によって生きたまま隠し扉として加工された植物だったのだ。それどころかこの遺跡全体が植物であり、傷一つないことも生きたままであるが故の修復能力であることをマルタは知っていた。
すっかり開いた隠し扉の先には地下三層へと続く階段があった。しばし呆然と見ていた冒険者たちも今では更に奥へと続く薄闇を前に落ちかけていた士気を持ち直す。
「なるほど、鍵はマルタ自身だったわけか」
「そうだよ。だから<果ての剣>はお荷物の僕を連れて行かざるをえなかったんだ」
マルタは魔法によって植物を操ることを得意としていた。緑色の髪をした精霊人であることから森の精霊の加護を受けたと言われて育ってきて、それゆえかマルタの言葉は意思を示さない植物を操り魔力はさらにそれを助けた。それは目の前の隠し扉も例外ではなかったのである。
グリューズはいち早く遺跡の変化を感じていた。本能的に感じた違和感を確かめるように周囲をじっくりと見渡している。二度目であるマルタは変化を確かめるように壁に手をつく。隠し扉を開くことは同時に眠っていた遺跡を目覚めさせることでもあった。冷たかったはずのつるりとした白い壁はほのかに暖かく、壁一面には難解な紋様が一斉に浮かび上がる。地下三層に続く暗い階段からは低く吠えるような音が響いていた。