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テイオスの剣  作者: C:drive
忘れじの遺跡
6/36

6

 未だに酒が抜けないまま、マルタはハジャルが御者をする四頭立ての大型馬車のなかでぼんやりと揺られていた。今まさに向かっている遺跡は都市からそう遠くない森、その森深くにある。近くにあるとはいえ実入りのない遺跡に向かう冒険者などそういるはずもなく、遺跡へと続く道路はなく見渡す限りの草道だった。


「馬車が通れる道じゃないわね」

 呆れたような声でそう言ったのは同じく馬車に揺れていたロゼだった。事前の計画ではマルタが馬車で遺跡まで行けると言っていたのだ。目の前の森はとても馬車が通れるはずもない。しかしマルタは止まった馬車から躍り出た。

「まあ、見ててよ」

 ただ手を前にかざす。それだけの動作で木々は根から動き草は枯れる。森を割くように一筋、馬車が通れるだけの道が現れた。それはまさしく魔法だった。それも桁違いに強力な魔法。見慣れていたグリューズと魔法使いのココはともかく、ハジャルとロゼはその魔法の規模にしばし呆然としていた。一歩道を外れると見上げるほどに高い木々やうねる根、色鮮やかな野草があるというのに、その裸の土道はずっと遺跡まで続いていた。


 作り出した道を進んでしばらく経ったのち、マルタたちは目的地を見つけた。遺跡は森の奥の奥、浅く広くすり鉢状に抉られたような場所にあった。穴の中心には苔にまみれた小さな白い石造りの入り口が木のうろのように開いていて、そこに木洩れ日が差すさまは古い墓のように独特の空気を醸し出す。


 酔いで僅かにふらつきながらも馬車から降りたマルタは森からあふれる清涼とした空気を体を解しながら大きく吸い込んだ。繰り返せば酔いも消え思考は冴えていく。

「ここがそうか?」

「うん、百年前と変わらないね」

 マルタは古い記憶を思い起こすように目を細めた。白い遺跡の冷たくつるりとした手触りさえも今では昨日のように思い出せる。ふとマルタは後ろを振り返った。そこには四人の<果ての剣>の精鋭が簡易拠点を築き準備をしている。百年前と違うのはこうして頼もしい仲間がいることだと改めて感じる。


 拠点を設営し、装備一式を着込んだ五人はそれぞれの準備を整えていた。

「準備はいいな。行くぞ」

 グリューズの号令で各々の思いのままに動いていた<果ての剣>は瞬時に隊列をとる。前衛にはグリューズとハジャル、中衛はマルタ、後衛にロゼとココという形だ。グリューズはマルタ用に拵えたような小さな入り口を必死に身を縮めて入っていった。その後をなんだか得をした気分になったマルタが難なく入っていく。


 ハジャルの持つランタンによって照らされた遺跡の中は過去に入った多くの冒険団と同じくさしたる危険はないようだった。入り口は地下へと続く階段になっていて、降りたところにあったのはまっすぐに続く幅の広い通路と両脇に幾つかの扉、そして一番奥に僅かに見えるのはさらに下に続く階段だった。


 道を進むうち罠師のハジャルは罠を警戒していたようだったが、そう時間も経たないうちに無駄だと悟り始めていた。遺跡の中はどこを見てもつるりとした傷一つない白石の床と壁が不自然なほどに整っていて、もし罠があるのであれば一目で分かってしまうほどだった。脇にある扉を開けてみてもその先には小部屋があるだけで中には何もない。


 警戒を緩めず、しかし拍子抜けした様子でハジャルは呟く。

「こういっちゃあなんですが、やりがいのない探索ですな」

「分からんでもないが、気は抜くなよ。本命は三層からだ」

 愚痴るように言ったハジャルを冷静に諭すようにグリューズは言った。マルタは油断なく周囲を見渡すグリューズを見る。普段の<果ての剣>団長は確かに豪快で大雑把な性格ではあるが、危険な冒険でどんな時でも冷静さを保てるのはグリューズであることを経験からよく知っていた。

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