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テイオスの剣  作者: C:drive
忘れじの遺跡
5/36

5

 詳しくは昔過ぎて覚えていない、と注釈したうえでマルタは話し始めた。

「当時は今ほど僕も強くなくてね、<果ての剣>は冒険者でもない学者見習いというお荷物を抱えての探索だったんだ」

「どうしてだ?同じ団の冒険者でもないならわざわざ一緒に連れていく必要なんてないだろう」

「そこが複雑でね。<果ての剣>は遺跡に三層目があると気づいたんだけれど、どうにも三層に入るための仕掛けが見つからない。そんな中遺跡でたまたま出会ったのが僕というわけさ」

 そこでグリューズは気づいたらしく大きく手を鳴らした。

「マルタが仕掛けを知っていたのか」

「知っていたというか、まあそうだね。とにかく<果ての剣>は荷物を抱えての探索を余儀なくされた。その結果危険だと判断して撤退したのさ」

「なるほどな。しかしどうして今まで放置されていたんだ。仕掛けも分かっているんだから攻略に適した人材を選べて挑戦できただろう?」

 グリューズの疑問にマルタは渋い顔をありありと露わにした。マルタにとってあの探索はいい思い出ばかりではない。<果ての剣>との出会いは最高の思い出だったが、初の探索の失敗という最悪の思い出でもあった。そしてその冒険直後に起きたある出来事はそれらさえも吹き飛ばすほどの衝撃だった。

「探索をしたのは百年前。探索のすぐ後にあんなことが起きたんだ。当時の<果ての剣>は遺跡探索どころじゃなかった」

 グリューズもまたその言葉に百年前の大事を思い出したのか、納得したようだった。独立都市アナヴォスに住んでいて知らない者はいないその百年前の大ごとは、マルタたち冒険者から冒険を忘れさせるほどだった。


「それで、どうするんです団長」

 今まで聞きに徹していた三人の内、中肉中背で顔に特徴がなく影の薄い男が聞いた。この男、ハジャルは<果ての剣>でも薄い印象に反して広く名の通った男で、凄腕の罠師として有名だった。ハジャルの問いにグリューズは当然とばかりに笑う。

「行くに決まっているだろう。前任の団長が逃した宝が残っているんだぜ」

「その前任の団長が引き返したほどの遺跡でしょ?危険じゃない」

 長身で筋肉質の女、ロゼは否定的な意見を言った。それに同意するようにマルタは頷く。荷物を抱えていたとはいえ、前任の団長たちはその程度で遺跡に遅れをとるほど弱くはなかった。それに加えて百年という月日がどんな影響を与えているかは全く分からない。そのマルタの意見に同調するように隣に座る黒いローブを着た魔法使いの少女、ココもまた頷いていた。


 場は反対意見の方が多いというのに、しかしグリューズは打ち切るように言い放った。

「出発は明日だ。探索はここにいる五人でやる。いいな!」

 マルタは相変わらず強引なそのやり方にため息を吐きながらも、ここにきてしまった時点で拒否できないことを分かっていた。周りも同じ考えのようで、いつものことだと諦めて準備のために動き出す。反対だと表明した者も、みな知っていた。この団長はどんなに無謀な冒険であっても生き抜いてきた経験と実力を持つ猛者なのだ。どれだけ強引で横暴であってもここぞというときに勘の働くからこそ団長の座にいるのだ。口では強気に抗議を放つロゼも諦めざるを得ないほどの自信がそこにはあった。


 決定しては仕方がないとマルタの知識をもとに遺跡調査の計画をすると皆足早に解散していった。出立は明日、今すぐに準備をしなければならないからだ。

「グリューズ。僕もあの時よりも強くなったけれど、あの遺跡が危険なのは変わらないよ」

 マルタは残り団長室で二人酒を酌み交わしていた。ふと出たマルタの忠告にグリューズは不敵に笑って言う。

「ふふん、安全な冒険なんてないさ。そうだろ?」

 その言葉に違いないと二人は笑う。マルタが<果ての剣>に入ったのはとある植物を探しているためだった。しかしそれだけではなく、危険な冒険を求めていたからでもある。遠き記憶を思い出すように、ゆっくりと酒は身に沁みていく。

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