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テイオスの剣  作者: C:drive
獣の歌
35/36

35

 中断は短く、裁判はすぐに再開した。ざわめきが収まらないままに、六つの眼光が次なる獲物を求めてマルタを射貫く。

「審議を再開します。マルタ殿、聞くところによると貴方は当時行方不明になっていたベスティア殿率いる調査団の発見と責任者の捕縛を命じられたのですね?」

「そうだよ。結果はご覧の通りさ」

「<真なり>」

「貴方はユピテル殿の主張をどうお考えですか?」

「ユピテルの言った通りなんだろうね。そこで寝ている奴も自分で言っていたよ。<教国>と取引をしてエテニティに混乱を起こそうとしていた」

「<真なり>」

 すでに情勢はベスティア等<教国>側の有罪で決まったようなものだった。この裁判においては話術も権力も介入のしようはなく、ただ事実が明らかになっていく。


 確認のためにと聞かれた問いも全てが真であると証明され、もう審理は終わりを迎えようとしていた。観衆にいくらかいた最初に連行された男以外の<教国>関係者たちも旗色が悪いと察したのか、裁判所から逃げるように退出し始めている。アクリヴォスはそれを咎めるでもなく見送った後、ぐるりと辺りを見渡して頷いた。

「ふむ、では最後に聞かなければならないでしょう」

 アクリヴォスの意を酌み、そばに控えていた兵が気絶していたベスティアを無理矢理に叩き起こした。いささか乱暴ではあったが、この場に誰一人としてそれを咎めるものはいなかった。



「ぐう、なんだ!」

 起きたベスティアはしばらく事態が呑み込めていないようだった。しかし支配した気になっていたメイデンに無様に張り倒されたという最後の記憶、そして目の前にいる錚々たる人物に気付き理解する。今何が行われているか分からないほどベスティアは馬鹿ではなかった。法の象徴たるアクリヴォスが肩に二羽の鳥を乗せている意味など一つしかない。だが小賢しい知性がそうして得た理解は焦燥こそもたらすものの、決して光明を与えない。マルタでさえ倒せなかったというのに、超越的存在とユピテルが睨みを利かせているこの状況でどう逃げ出せるというのか。よく回る思考はただ一つの事実のみを突きつけ続け、ベスティアは愚かでない故にどうしようもなく絶望を味わい続けた。

「ベスティア殿、一つだけ問おう。貴方は<教国>からの命令を遂行する間者かな」

「あ、あああ!」

 アクリヴォスの無慈悲な問いは下された。答えは是。しかし答えてしまえば死罪は免れない。だからとて偽証も許されない。そもそも隣にいるマルタによってベスティアの答えは既に示されたも同然だった。悪知恵にばかり使われていた脳が次々に退路を断つように理解する。やはり逃げ道はない。


 問いに答えるよりも前にベスティアは泡を吹いて倒れ伏してしまった。連れていけ、という号令とともに兵によって連行されていく。ようやく一件落着、というには滑稽な終わりにマルタは何とも言えない気持ちになったが、それでも終わりは終わりに変わりはない。なかなか抜けなかった緊張をようやく消して、思い出したかのように疲労や痛みが身体中を駆け巡った。

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