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テイオスの剣  作者: C:drive
獣の歌
34/36

34

 場の皆が否応なくこの世の理として脳に刻まれ理解させられた。物が高いところから低いところに落ちるように、生まれたものがやがて老いて死ぬように。この空間では何人たりとも偽証を許さない。


 一人慣れているアクリヴォスはゆっくりと間を置いてから裁判を開始した。まず始めに問われたのはどのような理由で裁判が開かれたかである。

「ユピテル殿、貴方の主張を今再び言っていただけますか」

「助教ベスティア、その助手スツール含む<教国>の思想を強く持つ大学教員の幾人かが共謀してエテニティに多大な不利益を及ぼし得る事態を引き起こしたゆえである」

 強く断定をしたユピテルの言葉に小さくないざわめきは起こった。しかし、それも長くは続かない。

「<真なり>」

 この時この場において鳩の言葉は絶対の証明。ユピテルの言葉に偽証はない。それをもう誰にも否定できはしなかった。

「その不利益を及ぼし得る事態とは?」

「<獣王の笛>という道具を使った学生の隷属化、そしてエテニティにの脅威となりうる存在の封印を故意に解放したことだ」

「<真なり>」

 いきなり裁判を開始されたマルタはついにため息を吐いた。やはりユピテルは見ていたのだ。でなければ<獣王の笛>のことやメイデンのことなど知るはずもなく、事前に知っていたならもっと戦力を向かわせていたはずである。それほどまでにメイデンは強かった。結果的にどうにかなったとはいえ、もっと早くに助けてくれてもよかったのではないか。そんなマルタの心中をよそに、観衆から一つの怒号が飛んだ。

「でたらめを言うな、我々がそんなことをするはずがない。この悪魔を用いた裁判を続ければ必ず神の裁きが下るぞ!」

 その言葉を発したのはいかにも<教国>の人間だった。彼らは神聖色と称して白を好む。それ故に服も真っ白なのだが、なぜか地位の高いものは派手な装飾を好み、大きく腹を膨らませているものが多かった。ベスティア然り、彼らは下のものに清貧を強要しておきながらどういう訳か肥えているものが多い。怒号を上げた男もまた<教国>で高位に属する人間なのだろう。そうやって不平を不満を声にしたならば思うままに正されるてきたのだろう。しかし今回ばかりは場が悪かった。<教国>でどんな無法が通じようとも、この場においては真実しか存在し得ない。


 しゃがれた鳴き声が一つ響いた。すると怒号を上げていた男から黒い靄のようなものが立ち上ぼる。

「<偽なり>」

 続けざまに低く錆びれた声が鴉から放たれた。ただそれだけで肥えた男は頭を抱え、苦悶の声を上げる。男の脳には鋭く鈍い痛みが走り続けていた。それから逃れるすべはただ一つ、この世の理を犯さないこと。欲望のままに生きてきた男には到底痛みに逆らい続ける心などあるはずもなかった。

「そ、その男が語ったことは事実だ、もうやめてくれ!」

「<真なり>」

 喘ぐように吐き出られた言葉はすぐさま認められた。それとともに靄は消え、しかし同時に罪もまた認められた。痛みが去ったことに喜ぶ間もなく男は控えていた兵に取り押さえられる。男は<教国>の人間ではあったが、だからといってエテニティの法から逃れられるはずもない。知らなかったのならばともかく男は策略を知っていると自ら認めた。自ら罪を告白したのだ。中立と独立を謳うからこそこういった者には厳罰を与えなければならない。男は弱弱しく抵抗したものの、鍛え上げられた兵に勝てるはずもなく牢へと連れていかれた。

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