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テイオスの剣  作者: C:drive
獣の歌
30/36

30

 響いたのは生々しい肉の音ではなく、木を斧で打ち付けたような澄んだ高い音だった。破れたローブからは砕けた木片が飛び散り、しかし槍はマルタに届いていない。それでも衝撃で堰込むマルタを再び槍が襲う。マルタはそれに全く反応出来ていなかったが、足から植物の根が蠢き引き倒す。


 辛うじて避けられたが、ローブは大きく破れていた。

「<ふうん。随分変なもの着ているのね>」

 マルタの破れたローブから覗いていたのは木製の鎧だった。それは石のギーレイが纏っていたものに近く、だが明確に違うのはマルタの命令もなく動いていることだった。槍によって穿たれた腹部の穴は塞がっていき、足にまで伸びた根がマルタを立たせる。心臓付近には脈動する種のようなものが埋め込まれていた。


 とくとくと小さな脈動をするそれは、<デントロ遺跡>の最奥でマルタが見つけて報酬代わりに貰った拳大の種だった。心臓近くで種のままに根を伸ばし、それが鎧のようにマルタの体を覆っている。持ち帰ってから散々に調べた結果分かったことは存外少なかった。これはマルタの危機を察知して自動で守る鎧であるということ。そして最大の特徴はそれではなく、マルタの魔力を蓄えることができることだった。


 鎧に蓄えられた魔力はマルタが自由に使うことができた。今鎧に残っている魔力はマルタと同等。つまりマルタは魔力量という一点に限ればメイデンに勝っていたのだ。


 戦いは長引く。マルタは魔力量で勝るがメイデンは半分の魔力でマルタの攻撃を相殺する。全くの五分と五分。本来ならばここで準備の差が出るのだが、二人はその準備のための時間もなく戦闘を始めていた。不毛な消耗戦であることは二人共に分かってる。だがそれでも戦いは続いた。


 マルタの生み出した燃え盛る大樹は水に包まれて抑えられ、メイデンの生み出した激流は特大の瓜から弾けて散った果肉が残らず吸収する。極大の木造人形は氷の巨人と組み合って、乱れ飛ぶ鉄の木の葉は氷の雨が叩き落とす。丘は無惨にも抉れてぬかるみ、次第に戦いの規模は魔力を使うほどに小さくなっていった。そして二人の魔力が人並みに減った頃には互いの武器のみでの戦いになる。メイデンの繰り出す槍はマルタの鎧が捌き、縛り上げようと伸ばされた鎧の根は槍によって打ち払われる。


 マルタはもう立っているのもやっとだった。元々体が強くなく、子供のような体つきで体力は子供以下なのだ。もう碌に動かない体を鎧によって無理矢理に引きずり、それでも人並み以上に働く思考は動き続ける。そして、その思考が唯一の答えを出す。正しいかどうかは分からない。ただもうこの不毛な戦いに終止符を打つにはそれしか道は残っていなかった。


 マルタはメイデンの攻撃を避けるようにして、ぐらりと体を倒した。転がったが最後起き上がる体力などあるはずもなく、当然そんな隙を敵が逃すはずもない。とどめを刺そうと近づいてくる。

「<ふふふ、大丈夫。殺しはしないよ。ここを水に沈めた後でゆっくりと治してあげるから>」

 メイデンは槍を振り抜いた。しかし、突き刺さったのは腹に集中して集められた木の鎧。一層分厚く重ねられた鎧はしっかりと槍を食い止める。そうして稼いだ時間で最後の策を開始した。今まさに自分を守った鎧の魔力も体に戻し、掌に全てを集めていく。

「はは、大丈夫。僕は死にはしないよ。きみはここで負けるからね」

 そう言いながらもマルタの思考は精々五分五分の勝負であると告げていた。だが、遅れてマルタの企みに気付いたメイデンは目に見えて狼狽をする。

「<駄目よ、それだけは駄目!>」

 メイデンは初めて焦った顔をしていたが、しかしマルタを止めるには時間がなかった。

「最初に言っただろう。ここから出ていくか、また封印されるかだって。出ていかないんだったらもうこうするしかないよ」

「<ああ、忌々しい。ワタシから時と海を奪ったアイツの笛!>」

 マルタの手に握られていたのは笛だった。土にまみれて、しかし依然として銅に輝く笛だった。

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