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テイオスの剣  作者: C:drive
忘れじの遺跡
3/36

3

 マルタが<果ての剣>に着いたのは昼を少し過ぎた頃だったが、呼んだ本人である団長は日が暮れても現れることはなかった。いつものことなのでマルタは時に気にしてはいないが、向かいで相手をしているバルカンは時が経つにつれて不機嫌になっていき次々マルタの杯に酒を注いでいく。しまいには店で一番高い酒を注いでは団長のツケだと飲ませる始末だった。


 更に時は経ち、夜の<果ての剣>は昼にも増して騒がしかった。決まっているわけではないが、冒険を終えた冒険者たちはたとえ朝に帰ろうとも夜に騒ぐことが恒例になっている。次々に人が入っていき、冒険の成功を祝い、あるいは失敗を吹き飛ばそうと酒を頼む。給仕は慌ただしく酒を運び、しかしバルカンはマルタの前で動かなかった。今もなお不機嫌な顔で高い酒をマルタと自分の杯に注いでは飲み干すのを繰り返す。当然それを見た多くのものが疑問に思ったが、マルタの特徴的な風貌を見ると途端に納得して自分たちの話題に戻った。緑の髪にすっぽりと外套で全身を覆う子供のような小さい冒険者という目立つ冒険者は<果ての剣>だけでなく、この都市中を探しても一人しかいないのは間違いなかった。兼業でありながら<果ての剣>現団長と幾度も冒険をこなし、見た目に反して数いる団員の中でも相当の古株であるマルタは名が知れている。成し遂げてきた偉業は知らずとも、うかつに手を出してはいけないということだけはみな先達からよくよく教育されていた。


 人の入りも限界に近付いてきたころ、騒ぎが一瞬にして止んだ。大きく重い入り口の扉を乱雑に力任せに開いた音が響いたからだった。態々そんな真似をするのは余程の馬鹿か大物か。皆一斉に音を立てた原因を見る。


 扉はマルタの倍以上の高さがあったが、開けた男は扉に見合った高さを持っていた。腕の太さだけでマルタの胴以上あり、背負う剣はそれよりも太く恐ろしいほどに長い。鋭い眼光で迷いなく進む男の後ろにはぞろぞろと物々しい装備に身を包んだ戦士たちが続いていた。それを見た酒場の客たちは口々に叫ぶ。

「団長たちが、<ポルミスティス>が帰ってきた!」

 先頭を歩く大男、団長は歓声を前に平然と歩みを進め、酒場の奥で静かに飲むマルタを見つけるとにやりと笑った。そして溢れんばかりの硬貨の入った袋を掲げて言い放つ。

「今日はオレの奢りだ!」

 その一言にわっと酒飲みたちが沸いた。みな自分の成果など忘れたかのように思い思いに酒を頼んで感謝の言葉とともに飲み干していく。半面仕事が増した給仕たちからは殺さんばかりの視線を受けつつ、豪快に笑いながら団長はまっすぐマルタの元へ歩んでいった。


 どかりとマルタの隣に腰掛けた団長をバルカンが睨む。

「ふん、相変わらず豪勢なことだがあんな袋ひとつじゃ今日の酒代は払えんぞ」

 そう言いつつバルカンはマルタと同じ酒を団長に注いだ。それを一息で飲み干した団長は酒の正体に気付いたらしく、値段を思い出して驚くように叫ぶ。

「こいつは竜酒じゃねえか!そこらの財宝より高いぜ。勿体ねえ、一気に飲んじまった」

「ふん、客を待たせるお前が悪いんだ」

 バルカンのその言葉で団長は思い出したかのように隣に座るマルタに向き合った。当たり前のように竜酒をまた並々注いでジョッキを掲げる。そしてマルタもまた自分のジョッキを掲げて二人はそれをがちりと打ち合わせた。団長はまた酒を一息で飲み干すと大声でおかわりを要求して言う。

「久しぶりだな、マルタ。冒険しようぜ」

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