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テイオスの剣  作者: C:drive
獣の歌
25/36

25

 ベスティアの長話を聞いている間、勿論マルタはただ漫然と立ち尽くしていた訳ではなかった。魔法使い同士の戦闘は才能と準備の戦いと言われている。まず生まれ持った体質や魔力などの才能、そしてそれらを生かす準備が全てなのである。


 ベスティアが獣の守りを構築したように、当然マルタも準備を怠りはしていなかった。恵まれた魔力を持っているからといって準備を怠る者が一流の冒険者になど成れるはずがない。敵の手を読み、適切な手札を選び、いつでも使えるように十分な魔力を練る。懐から取り出すのは赤黒い果実。それに入念に練った魔力を注ぎ込んだ。

「<芽吹け、囁きの胎児>」

 力の言葉は確たる命令として果実に刻まれた。一瞬のうちに果肉は腐り落ち、中からはもう芽を出し始めた種がいくつも蠢いていた。水も光も土もなく、しかし万能の力である魔力が異常成長を可能としているのだ。それもベスティアの全力に近いの魔力が注がれていたというのに、マルタの放つ魔力に全く陰りは見えない。万全を確信していたはずのベスティアは自然と頬を伝う汗を拭っていた。


 種は地に芽吹きマルタほどの若木にまで成長すると次第に形を作り始める。赤黒い体表に人形を象るそれは<デントロ遺跡>で戦った木製人形のギーレイそのものだった。体の一部を武器に変化して、瞳なき顔が獣たちを向く。マルタは果実に変化させたギーレイを一つ手に入れていて、最奥で知った力の言葉にはギーレイを作り出すものもあったのだ。それによってマルタが作り出したギーレイの数は十。奇しくもベスティアが率いる狼のような肉食獣も十体だった。ただ睨み合うだけの時間が暫し流れる。そして唐突に戦闘は始まった。


「食い殺せ!」

「<獣を殺せ>」

 短く、しかし強い殺意の篭る命令が飛び交った。それだけで互いの十の戦士はぶつかり合う。獣は勝る俊敏さを生かして飛びかかり、それをギーレイは生来の頑強さで防ぐ。ギーレイの木剣は獣の速さを前に空を切り、獣の牙は食い込もうとも瞬く間に再生した。一進一退、己の前衛は拮抗している。であるならば残るは後衛、マルタとベスティアの力比べ次第となるのは必然だった。


 歯を食い縛る音はこの騒音に包まれた戦場においても存外響いた。必勝であったはずの布陣は早速一つ無力化されたのだ。これまで絶えず笑みを浮かべていたベスティアに怒りが混じる。

「ふん、流石は独立戦争の英雄と言われるだけはある。しかし所詮は獣に劣る植物使いだ。私には及ばん!」

「こちらは拍子抜けだよ。<獣王の笛>なんて言うから警戒していたんだけどね。所詮獣使いはこの程度か」

 そう言いつつも、マルタは欠片も油断などしていない。三日。それはこの男が泉で何らかの準備を行った時間だった。魔力は魔法使いの単純な力量を示すが、戦闘においてはより準備した方が勝つ。それは古くから言い伝えられてきた真理だった。それを証明するようにベスティアは余裕の表情を取り戻し、手に握られた笛を再び口元に運ぶ。

「ぐくく、大した知恵も力も持たない獣など捨て駒だよ。ここからが私の研究成果だ」

 そう言ってベスティアは再び笛を吹き始めた。ただそれだけだというのに笛の音は響きを増していく。共鳴するように石柱は揺れ動き、泉は波打ち始めていた。

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