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石のギーレイの攻撃は苛烈を極めた。人型であっても人としての限界を持たないギーレイは体勢も何もかもを無視して目の前の敵目掛けて拳を振り下ろす。ぐわり、と避けきれない拳を大剣の腹で受けたグリューズはいささかも仰け反らず受け止めると笑みを深めた。
「なかなか良い攻撃だなあ。だが!」
再び振り下ろされた拳に対し今度は刃を立て、ただ迎え撃つように大剣は添えられる。間もなく衝突した拳と剣は、鈍い音と共に勝敗を分けた。音をたて、二つに分かれた拳が地に落ちる。筋力のみによって固定され微動だにしなかった大剣は傷一つなく銀に輝き、当然の結果だとばかりにグリューズは笑った。
「まだまだ軽いな、効かねえぜ」
拳を一つ失い、流石のギーレイも僅かに態勢を崩す。その隙をハジャルが突いた。揺れるギーレイの足元に火薬を積めた玉を投げ込む。
「<種火>」
ハジャルの手のひらに魔力が集まり、蛍の光のような沢山の火が火薬玉目掛けて乱れ飛ぶ。それは小さな火だったが、火薬に火が付くにはそれで十分だった。轟音とともに足を砕きギーレイはうつ伏せに倒れ伏す。それを見たロゼはマルタの意を酌み倒れたギーレイの背を駆けあがった。練り上げられた魔力はマルタの手の内にある植物の種に注がれていく。
「<実れ>」
その小さな種はギーレイの背に落ちると瞬く間に成長を始めた。ギーレイを包むように大木のような根が伸び、地面を穿ちながら根を張っていく。そして最後に根の上にはひとつ儚げに、小さな白い花が咲いていた。
「流石だマルタ!」
「こんな大物には魔力を貯めてある核があるはずだよ。それを壊さない限り永遠に再生するはず」
「了解!」
マルタの助言にグリューズはすぐさま行動を始めた。優れた冒険者のなかには時として恐るべき直感を持つ者がいる。グリューズもそのうちの一人だった。無意識のうちに情報を判断し答えを得る力。動けずにいるギーレイの頭、二つの輝きを放つそれが怪しいと直感は告げていた。直感に身を任せるように、首の上に立ち頭目掛けて剣を振り下ろす。
ギーレイの頭は刃から逃げるように首を伸ばして避けた。狙いを変える間はなく、剣は頭ではなく首へと吸い込まれる。そして首が切れ反動で空中へ頭が跳ね上がった。ばらばらと頭の石装甲さえも剥がれ落ち、中からは青白く輝く石が飛び出す。しかし、空にはもう逃げ場はない。
「<火炎>!」
狙いすましたように放たれたココの火球は空を跳ぶギーレイの核を打ち砕いた。火炎は爆炎に変わり、辺りを轟音と青い閃光が包む。やがてそれらが止むと、天井近くにはマルタが生み出したような光球が浮かんでいた。核が離れてからも僅かに動いていた石のギーレイの体はしばらくもがいたが、やがて動きを止める。
「みんな、早く扉の奥に逃げるんだ!」
戦闘終了による安堵が場を包む中、いち早く危機を察知したのはマルタだった。急かすように己の足となったロゼを煽り、他の皆もすぐに事態を知る。今まさに空に光り輝く魔力につられ押し寄せる音。木人形のギーレイの群れが迫る足音は地を揺らしていた。