13
目の前のギーレイの宝石のような眼はただ薄ぼんやりとした青白い光を放っていた。マルタたちを認識したらしい大型ギーレイは両の手を天井まで振り上げる。低く唸るような音、そして関節の擦れる音はぎしりと不快な音になって大きく響いた。途端にマルタは外套の襟を掴んで引きずられ、目も開けられないほどの風が冒険者たちを襲う。
どう、と二つの木剣が地を穿ち、砕けた木片が四方八方に飛び散りはっきりと打ち付けられた跡が床に残った。
「大丈夫か?」
引っ張っていたマルタを放したグリューズは背から大剣を抜き放ちつつ言った。それにマルタは手をあげて答える。そうしている間にもギーレイは再び腕を振り上げていた。当然、冒険者がただ指をくわえて待つわけもない。
「ハジャル、準備はいいか!」
「当然です、団長も遅れないでくださいよ」
突風を生みつつ振り下ろされる巨大な木剣を前にして<果ての剣>の誰もが冷静だった。前衛を務めるグリューズとハジャルはひたすらにギーレイとの距離を詰め、後ろの三人は一撃目で見切った剣の範囲外に下がっている。どう、とまた剣が地に落ちた時に前衛たちは既に振り下ろされた左手の真横にまで来ていた。ハジャルは目の前にある手首に向かって縄を飛ばす。その縄の両端には太い釘が付いていて、手に持つ小さな槌で端の釘を軽く地に打ち込んだ。
「団長、頼みますよ!」
「おうよ!」
意気とともにグリューズが力を籠めると体は膨張を繰り返し、発する熱は蒸気を生み出していた。一回り大きくなったグリューズの振る大剣は気が付いた頃には地を穿ち、音は遅れてやってくる。只々力強い振り下ろしは、太い釘を深々と地に打ち込んでいた。それをもう一度、左の釘にも叩き込む。
グリューズの放ったギーレイの一撃にも劣らない振り下ろしは、後ろに下がった三人に作戦の成功を確信させた。迷わず前衛たちのもとに近付いていく。ギーレイの右手は変わらず健在だったが、左手は見事縄によって動きを封じられていた。ハジャル特製の縄は千切れることなく左手を抑え込み、釘は地に深く根をさしている。ゆっくりと残る木剣が振り上げられるうち、マルタたちは合流を果たした。
マルタは未だ動かせずにいるギーレイの左手に手を添えた。赤黒い木目のそれは予想外にひんやりとした感触を伝えてくる。そこに少なくない魔力を言葉に乗せてマルタは高らかに命令を下した。
「<実れ>!」
マルタの魔法は植物に宿る魔力と生命力を搾り取るように強制的に果実を実らせる。