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マルタの魔力がおおよそ回復し、精神集中から抜けた時にはもう随分と長い距離を走った後だった。ちらりと後ろを振り返れば、薄闇にはかすかに光るものがいくつか見える。生み出した魔力光がギーレイの魔力探知範囲の限界に近付いたためか時折襲い掛かってくるものもいたが、迷わず突き進むことに決めた<果ての剣>は強かった。すれ違いざまの一瞬の攻防を捌き、潰す。一流の冒険者であるグリューズたちは息を切らせることなく走り抜けた。
変化は唐突だった。相変わらず暗く赤黒い道は続いていたが、目に見えて遭遇するギーレイの数が減っていた。常に視界に三体はいたギーレイはいつしか一体となり、やがて一体もいなくなる。そうなった頃にはマルタも自分の足で立ち、自然と皆の足はゆっくりとした歩みになっていた。
「どうやら一息つけそうですね、団長」
「ああ、ギーレイは弱いがきりがねえ。次の奴は強けりゃいいんだが」
そう言い合いつつも、変化に理由がないはずはない。あらゆる物事には理由、原因が存在する。遠くない先に何かがあるのだということなど、その場にいる誰もが予感していた。
そうしてそれは遂に現れた。
「なんだあれは」
誰ともなく言葉が零れる。続いていた道は終点になっていて、頑丈そうな鉄扉が僅かに見えていた。そしてそれを守るように一体のギーレイが塞いでいた。しかしただの一体の敵を前にマルタたちは果敢に攻めることはせず足を止めていた。予感が正しいことを示すように、そうせねばならないほどに対峙したギーレイは異質だったのだ。
ハジャルが手に持つランタンを高く掲げる。赤い火に照らされたそれは今までに遭遇したギーレイと変わらず赤黒い木目を持つ木製人形だった。それが球体関節と手に二つの木剣を持つところまでは変わらない。しかしそれは余りにも大きかった。巨人の血を継ぐグリューズでさえ見上げるほどに高いギーレイは、天井に当たらないように頭を下げてマルタたちを見下ろしていた。頭には他のギーレイにはなかった耳や目のような飾りがつき、あまりの大きさに窮屈で動きづらそうでさえあった。しかし後ろにある扉を開かせないという目的に絞ればこれ以上なく力を発揮してもいる。その巨躯は倒さずに通り抜ける隙を与えない。