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前衛たちの足元には手足を切り飛ばされてなお動こうと足掻くギーレイの山ができ、マルタの出した蔓とココの魔法は次々とギーレイを倒したが、それでもギーレイの数は一向に減ることはなかった。粉々になれば復元しないが足を失えば転がる足を繋げ、手がなければ手を拾う。余分な手足を手に持てば木剣へと変化して戦闘に復帰する。暗闇からは人影が増え続け、迫る音は大きくなっていく。次第にマルタから与えられた魔力が減るにつれて蔓の動きは鈍っていき、縛り上げてギーレイの動きを止めるので精いっぱいになっていた。皆時間が経つにつれて確実に消耗していく。それでも今あるすべてで何とかしなければならないのが冒険者である。最悪の事態になる前にマルタは打開のためにいち早く動き出した。
マルタの頭には一つの疑問があった。ギーレイは何故最後尾に位置するマルタとココを優先的に襲ってくるのか。動物にある目などの感覚器官をもたないはずのギーレイはどうやってこの暗闇の中マルタたちを探知しているのか。答えを確かめるためにマルタはウエストポーチから小さく茶色の種を取り出した。
「<実り、弾けろ>」
力の言葉はマルタの残った魔力を吸い付くして答えを示す。急激にマルタの腰ほどにまで育った植物は赤く可憐な花を咲かせた。そして花は実となり、言葉の通りに弾け飛ぶ。そして中からは無数の種のみでなく数多の白い光球、マルタの注いだ魔力が飛び散った。その光球はゆっくりと宙を上に向かって飛び、そしてそれをギーレイ達は追っていた。左に行けば左に、右に行けば右に。でたらめに光球目掛けて攻撃を繰り返す。その様子にマルタはついに確信した。ギーレイは魔力を探知し、より多くの魔力を持つものを優先して攻撃していたのだ。
マルタの機転により多数のギーレイを足止めしたとはいえ、全てを止められたわけではなかった。消耗したマルタとは違いココの魔力はまだ健在であるし、別の命令があるらしくギーレイは未だにマルタたちも取り囲んでいる。しかし肝心のマルタの魔力は度重なる魔法の行使で限界に近かった。このままではココもすぐに限界に達するのは考えるまでもない。
魔力の回復には長期の安静か強い精神集中が必要だった。マルタは近接戦闘など出来ないので、目を閉じて外の情報を遮断し精神集中を行う。自然と体からは力が抜けて崩れ落ちた。そしてそれを拾い上げたのはグリューズだった。
「走れ!」
マルタを抱えたグリューズの一言でハジャルを先頭にマルタを除く全員が走り出した。もちろん向かうのは出口ではなく奥である。前衛二人が露払いをした道をロゼは男顔負けの、そして一見華奢ココも並ではない速度で走り抜ける。マルタたちにとって幸いだったのはギーレイの持つ魔力探知が思いの外優秀だったことだろう。随分と長い距離を走ってもなおすれ違うギーレイ達はマルタの生み出した魔力の光球を追っているようだった。