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テイオスの剣  作者: C:drive
忘れじの遺跡
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10

 マルタたちの歩みは最初の襲撃から強くなった警戒に比例するように遅くなっていた。ギーレイは体色が遺跡の壁と同色で見つけづらく発する音も少ない。ハジャルはこの中で一番斥候としての腕を持っていたがそれでも隊列の背後を取られたのだ。歩みが遅くなるのも仕方のないことだった。


「ぜえい!」

 気合一閃。グリューズの一撃が襲い来るギーレイを切り裂く。ココは手に持つメイスを目標に向かって指し示し、発動した。

「<火炎>!」

 その力の言葉と共にメイスからは一筋の光が走り、足を切り離されていたギーレイにココの魔法が炸裂する。光の後には炸裂音と火花が散り、ギーレイは一瞬にして燃え盛った。


 ココの使った<火炎>は炎に変換された魔力を敵に向かって飛ばすという単純な魔法だったが、轟々と燃え盛る炎は瞬く間に木製人形を炭に変えた。


 今まさに倒したものを合わせてマルタたちは既に単体で襲い掛かるギーレイを五体倒していた。ロゼの動きも硬さが抜けてきて、連携もとれるようになっている。しかし特殊な魔法で動くギーレイの性質上止めはマルタとココの魔法だよりだった。何故なら例え二つに切り離されようともギーレイは修復を始める。後顧の憂いを断つためには再生不可能なまでに魔法によって破壊しなければならなかった。当然魔法を使うための魔力は体力と同じで無限ではない。かつてマルタたち前任が撤退を余儀なくされたのも長引く戦闘による魔力切れが大きかった。


 さらに進んで十体は倒した時だった。かなりの距離を進み、先はもうマルタも未経験の領域に達している。そして今まではどうにか目視ができる距離に敵がいて初めて警告を発していたハジャルの様子が変わった。薄暗い道の先にはまだなにも見えないが、何かを感じ取ったのか警告を発する。

「前方に複数のギーレイ!」

 そんな警告と共に現れたのは十や二十ではきかない、ギーレイの大群だった。


「こんなの相手にしてられないぞ」

「どうするのよ!」

 グリューズとロゼの叫びに応えたのはマルタだった。

「少し時間を稼いで。考えがあるんだ」

 目の前に迫る大群はこの狭い通路ではどうしようとも倒しきれるものではなかった。数は依然として増え続けている。

 

 一つでは小さく聞き取れなかった木と木が擦れ合う音が重なり大きくなって響く。ギーレイもそれを分かっていたのか、命令されていたのか。一体だった時は不意を打とうと動いていたのが今では全速力で間合いを詰めようと走り寄っていた。先頭で構えを取っていたグリューズとギーレイが武器を打ち合わせる。十全に力の乗ったグリューズの剣撃は木剣を叩き折り、腕を裂き、腹を割った。真二つになったギーレイはあらぬ方向へ吹き飛んでいく。そうしている間に第二、第三のギーレイが音をたてて接近していた。接近戦が得意でないマルタは中衛から後衛に下がり、空いた中衛にはロゼが入る。

「そっちに行くぞ!」

 ハジャルが抑え込むギーレイをまた切り飛ばしたグリューズが後ろに向かって叫ぶ。前方には前衛二人が三体のギーレイを足止めしているが、迫る人影はまだまだ減っていなかった。前衛を抜けていくギーレイをロゼは斧で足を打ち付け転がし一体、二体と器用に足止めする。ロゼはすっかり調子を取り戻し、元来の器用な戦い方が出来ていた。しかしそれでもギーレイの数は減らない。

「抑えきれない。そっちに行くわ!」

 やがて中衛をも抜け、後衛にギーレイが迫る。


 ギーレイの多くは後衛に位置するマルタとココを狙っているようだった。後衛以外に二、三体を残して雪崩のように群れが襲い来る。そんな状況でもマルタは冷静に選択を行った。ローブのうちにあるウエストポーチから一つの植物の種を取り出し握りしめる。

「討ち漏らしは頼むよ」

「分かりました、先生」

 マルタの魔力が種に注がれていき、弾けるように手の内から出て地に落ちる。そして膨大な魔力を浴びた種は芽を出しみるみるうちに成長していった。

「<蜿蜿と天へ昇れ、蛇蔓>」

 芽は長く細い蔓となり、地を這うようにして伸びていく。それが一体のギーレイの足に絡まると更なる異変は起きた。瞬く間に蔓は足から胴、そして頭を隙間なく巻き取り締め上げ、きつく縛り上げる。そして最後に大きく軋む音が響いた。圧力に耐えられずぱらぱらと砕け散った木片が空を舞い、蔓は解けて地に落ちる。それでも尚伸びる蔓の先端はまた次のギーレイを巻き取り圧殺していった。運よく蔓の進行方向を逃れたギーレイもまたココの<火炎>によって燃え尽き炭化していく。

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