◆第十二話『魔導の狂宴』
踊っていた生徒たちが逃げ惑いはじめる。
彼らが背を向けた先を辿ると、狂ったようにあちこちへと魔法を放つ2人組の男女を見つけた。
放っているのは中級魔法の<フレイムランス>と<フロストランス>だ。当たればただではすまないどころか、運が悪ければ命も危うい。
「なにをしている! いますぐにやめなさい!」
暴れる生徒を取り押さえようと3人の教師が向かう。
が、なぜか3人とも頭を抱えて座り込んでしまった。
さらに逃げ惑う生徒や、それを眺めていた生徒たちのうち、幾人かも同様に座り込んでしまう。彼らは数拍後に起き上がると、揃って暴れていた生徒と同じように魔法を四方へと撃ちはじめた。
狂った者たち――狂人から漏れる動物のような咆哮と「うーあー」といった間抜けな呻き声。それらを上書きするように正常な生徒たちによる悲鳴が聞こえてくる。
そこには先ほどまでの陽気な空気はない。
あるのはただ混沌とした空気のみだ。
その凄惨な光景を前にルカは思わず唖然としてしまう。
「……いったいなにが起こってるんだ?」
「どう見ても正気じゃないわね」
「しかも狂ってる奴ら、よく見たら上級生ばかりじゃねぇかよ……」
同様に驚愕するイメルダ、ファム。
ファムの言うように狂人となったのは上級生ばかりのようだった。そのせいか、無事な下級生たちでは自衛することもままならず、ただ逃げるだけになってしまっている。
このままでは各個で追い詰められてしまいかねない。
「みんな、こっちだ! 俺たちの後ろに来るんだ!」
ルカは下級生たちを誘導し、こちらの背後へと誘導する。と、誘導に応じたひとりの下級生の背中を追うように下級魔法の<ウィンドストライク>が飛んできた。
ルカはとっさに<ヒューリアス>を発動。
下級生を抱きかかえる形で自身の体を割り込ませた。
次に襲いくる<ウィンドストライク>の衝撃を覚悟して歯を食いしばるが、そのときは訪れなかった。
突如として眼前に現れた<魔法障壁>が遮ったのだ。
発動者であろうイメルダのほうを向くと、得意気な顔で迎えられた。
「飛んでくる魔法は任せて!」
「助かる!」
その後、多少の危険にさらされながらもなんとか下級生たちの保護に成功した。だが、いまだ狂人たちはふらふらとおぼつかない足取りで迫ってきている。
守っている下級生の数が数だ。
校舎の壁を利用することでなんとかすべての狂人を相手にせず立ち回れているが、そう余裕があるわけではなかった。
ファムが<ヒューリアス>状態で幾人かの狂人を殴り飛ばしたのち、戻ってきた。ふぅと疲れた様子で息を吐いたのち、険しい顔になった。
「おい、無事な奴を守るのはいいが、このままじゃジリ貧だぞ。正門まで強行突破で行けなくもなさそうだが、どうする!?」
「外に出たところで守る相手が増えるだけよ!」
いまも飛んできた狂人の魔法を防ぎながら、イメルダがそう忠告した。
たしかに魔導都市と謳ってはいるが、住人の多くが魔法を使えない。しかも本日は魔導祭典があったこともあり、宿泊施設には普段より多くの人が泊まっている。
狂人を学園の外に出したときの被害ははかり知れない。
ファムが苛立たしげに声をあげる。
「つったって、この状況どうすんだよ!?」
「あんな風に人をおかしくさせるなんて魔法による影響で間違いないわ! けど、魔法が発動した形跡はなかった! となると、大人数に影響を与えるなんらかの道具が使われたと考えるのが妥当なんだけど……っ」
「それを壊せばいいが、それがなにかわからないってことか」
代わりに答えを口にしたファム。
イメルダが悔しげに唇を噛んで肯定を示した。
魔法のことは2人よりも詳しくない。
だが、なにか力になれることはないか。
大人数に影響を与えるなにか。
自分とファム、イメルダ以外の上級生という点が重要な気がしてならなかった。ただ、それがわかったところで答えはすぐに出てこない。
苛立ちを感じながら、振り返って下級生の誘導をする。
と、そのとき、あるひとりの男子生徒の顔が気になった。
とくに知り合いというわけではない。
ただ、魔導祭典で都市を飾る<アーツ>の際、隣にいた組の生徒だっただけだ。
当時の光景が連鎖的に頭の中で流れた。
そのとき、ルカははっとなった。
……そうか、場所だ!
魔導都市を<アーツ>で彩る行事の際。
狂人たちは大通りに配属されていた生徒ばかり。
対して、正常な者たちは大通りではなかった生徒だ。
正常者と狂人の違う点がわかったとき、大通りにあってないものもすぐに浮かんできた。それがあまりにも珍しいものだという認識があったからだ。
あまりに予想外だが……。
考えが正しければ、この状況を作り出した犯人は――。
そうして答えに行きついたとき、視界の端で閃光が走った。稲妻のごとく極太の光がイメルダの展開した<魔法障壁>に2度も衝突。その膜を強引に破壊した。
「きゃぁっ」
「イメルダッ!」
イメルダが衝撃で後ろに倒れ込んでしまう。
<魔法障壁>を破壊するほどの威力。
死を連想させる鮮血の色を孕んでいたことからして、おそらく上級魔法の<ドゥームボルト>で間違いないだろう。
放ったのは狂人と化した教師の2人だ。
彼らは追い討ちのごとく再び<ドゥームボルト>を発動していた。
まさしく閃光のごとく速度でイメルダに衝突する、直前。
地面から勢いよくせり上がった土の壁が立ちふさがった。
土の壁は閃光を受けたのちに崩れ落ちる。
が、完全に相殺した形だ。
イメルダに怪我はない。
いったい誰による魔法なのか。
その答えはすぐに判明した。
いつの間に現れたのか。
イメルダに背を向ける形で彼は立っていた。
暗がりでもよくわかる緑基調のローブ。
その中にあっても主張の激しいふくよかな腹。
なにより自身が高潔であるかを示すかのような、他人を見下すようなその目。
つい先刻まで、ここ最近に起きた事件の犯人だと思っていた人物――。
ルカは驚愕とともにその名を口にする。
「モンドリーク先生!?」




