ゾンビ
不審者が侵入してくるなんて、考えたことがなかった、それもあんなおかしな人が・・・
首が180度回っているのに動けるなんて、絶対に普通じゃないよ・・・あんなの。
普通の人があんな風になったら、絶対に死んじゃうし・・・でも、あの人は生きてた・・・
うぅ、うぅ・・・あ、頭が痛いよ・・・
「晴、落ち着いて、私がいるから・・・」
「久美ちゃん・・・うん、わ、分かった」
うん、大丈夫、ここは先生も居るし、久美ちゃんもいる・・・
だ、だからもしもあの変な人が来ても大丈夫!
「きゃー!」
悲鳴が廊下で聞えた! な、何が、何があったの!?
「私が見てきます!」
「加賀先生、ここは私が確認しに向かいます、大丈夫、これでも男ですから」
「で、ですが・・・」
「待っていてください!」
校長先生はそう言い、職員室から出て行った。
「大丈夫ですか!?」
「ぐぅ・・・」
「せ、先生・・・」
「こら! 生徒から離れなさい!」
そんな声が聞え、外からドタドタという大きな物音が聞えた。
「がぁ!」
「な、何をする! や、止めないか! うわ!」
更に物音が酷くなっている、校長先生と不審者の人が戦っているんだ!
「やはり私も向かいます!」
「先生!」
そして、加賀先生は職員室から出て行った。
こ、怖かったけど、私は先生達が大丈夫か不安になって、少し廊下を見てみた。
「校長先生を離しなさい!」
加賀先生は校長先生に組み付いた不審者を思いっきり蹴っている。
普段はそこまで怖くないのに、加賀先生はこう言うときは怖いんだと言うことが分かった。
そして、加賀先生に何度も蹴られた不審者は動かなくなった。
「校長先生! まゆさん! 大丈夫ですか!」
「血が酷い・・・」
「わ、私は大丈夫です、そ、それよりも、まゆさんを」
「晴さん! あなたは救急道具を急いで持ってきてください!」
「あ、大丈夫です、もう持ってきています!」
「準備が良いですね、もしかして、手当も出来たりしますか?」
「はい、出来ます、任せてください!」
私は急いで2人の傷を手当てした、血が沢山出ていて、中々止められなかったけど、出来てよかった。
「出来した!」
「上手いですね」
「えへへ、あ、まゆちゃん、まだ起きたら駄目だよ?」
「・・・・・・」
「あ、あの、む、無言は駄目だよ、怖いし・・・」
「グゥ・・・」
「あ、あの、な、何かわるい事しちゃった? も、もしかして痛かったとか・・・」
「がぁ!」
まゆちゃんがいきなり私に襲いかかってきた、か、顔もおかしい・・・
おかしいよ、肌の色だって、おかしい・・・
「や、止めて!」
「こら! 何してんのさ!」
いきなり私に襲いかかってきたまゆちゃんを久美ちゃんが思いっきり蹴った。
そして、まゆちゃんは後ろにのけぞり、頭から倒れた。
「久美さん! そんなに思いっきり蹴ってはだめですよ!」
「晴が襲われたんだ、それは蹴りますよ!」
「あ、あの、まゆちゃん、頭から転けたけど、だ、大丈夫?」
そして、まゆちゃんはゆっくりと立ち上がった、さっき思いっきり頭を打ったのに・・・
も、もう動けるの?
「ぐぅ・・・」
さっきまで倒れていた校長先生もゆっくりと立ち上がった。
校長先生もまゆちゃんと同じ様に白目を剥いている・・・
「あ・・・あぁ・・・」
「晴! 急ぐよ!」
「で、でも・・・」
「あの2人は明らかにおかしい! 逃げる!」
「う・・・うぅ・・・」
「急ぎましょう!」
「うわ!」
私は久美ちゃんと加賀先生に腕を引っ張られて、急いで逃げていった。
あの2人はもの凄く動きが遅くて、私達は簡単に逃げることが出来た。
そして、近くの教室に入り、扉をバリケードの様に硬く閉ざした。
「はぁ、はぁ、はぁ」
「ど、どういうこと・・・何で2人は襲って来たのかしら・・・」
「前、映画で見たことがある、ああいうのをゾンビって言うらしい」
「ゾンビ? そんなフィクションが実際に起ったというのですか!?」
「分かりませんけど、噛まれて、その噛まれた人が感染なんて、ゾンビしか考えられない!」
「・・・テレビや映画のようなフィクションが現実に・・・ですか」
「も、もしそうならさ、もしかしたらその映画の様にすれば解決するとか!?」
「それはないかな、だって、基本的にゾンビ映画なんて爆弾で街を吹き飛ばして終わりだから」
爆弾で街を吹き飛ばして終わり? も、もしそうなら、私達は生き残れないよ・・・
「でも、ゾンビの弱点は大体相場が決まってる」
「何処ですか!?」
「頭ですよ、頭を砕けば大体のゾンビは死にます」
「あ、頭を砕けって・・・」
「晴は力が無いから無理、先生も難しいかも知れません、でも、私なら何とかなるかも知れない」
「ど、どういう意味!?」
「晴も知ってるだろうけど、私は剣道やってるから鍛えているんだよ、だから頭に当てれば砕ける」
「で、でも、い、生きてる人でしょう!?」
「生きている訳がない・・・・・・動揺する気持ちも分かるけど、生き残るためには仕方ない」
う、うぅ・・・久美ちゃんの目は本気だ・・・本気でやるつもりだ・・・
で、でもいくらゾンビでも、皆知り合い何だよ・・・
「久美ちゃん、知り合いだよ?」
「・・・そうだね、でも、生き残るにはやるしかない! 大丈夫、晴は何もしないでも良い
全部、私がやる、晴と先生を助けるためだから」
久美ちゃんは全くの迷いがない表情でそう言い放った。
そして、部屋に置いてあったモップを掴んだ。
「そのモップをどうするつもりなの?」
「武器がないと戦えないからね、モップじゃ不安だけど、これ位しかないし・・・」
「駄目ですよ! そんな事をしては!」
「・・・先生、外を見てみてよ」
「え?」
私と先生は久美ちゃんに言われたとおり、外を見てみた。
そこには平和なグランドはなく、沢山の化け物が盛大に暴れている様な惨状だった。
そして、その化け物に襲われている子達も沢山・・・
「あ・・・あぁ・・・」
「た、助けに向かわないと!」
「確かにその気持ちは分かる、だけど、この状態ですよ、自分の身を守ることを最優先に考えないと」
「そ、そんな事、分かっています、だけど人間として!」
「だったら、助けに向かって、皆一緒に死にますか!」
「う・・・・・・」
久美ちゃんは先生に向かってそう言い放った。
でも、その一瞬、久里ちゃんの目に涙のような物が見えた・・・
久美ちゃん、わざとこんな非情に振る舞ってるんだ・・・私達を守ることを最優先にして・・・
そんな事を思っていると、扉が強く叩かれた。
「・・・来ちゃったか・・・でも、引けない」
久美ちゃんはそう呟くと、手に持っているモップを力強く握り直した。