17
二人は寿司屋を後にした。その後は、本屋に寄ってヒメモスの買い物。次にDVDレンタルショップに行って映画を返した。
二人が家に帰った頃には九時を回っていた。
ヒメモスは荷物を床に置くと、ベッドに身体を投げ出した。
「ふぅ……疲れた……」
ノボルもソファに腰をかけると、
「ああ、疲れたな」
と漏らした。
気だるい雰囲気の中、おもむろにノボルが口を開く。
「……風呂でも入るか?」
ヒメモスは風呂、と聞いて身体を起こした。表情は嬉々としている。
「入るっ!」
ヒメモスは即答した。ベッドの上で飛び跳ねている。
「それじゃあ湯を張るからちょっと待ってろ」
「うんっ!」
ノボルはそう言うとソファから腰を上げ、風呂場へと向かっていった。
しばらくして風呂に湯が満ちる。ノボルが風呂場まで確認しに行く。
「おいっ!準備できたぞ。さっさと入るぞ」
本を読んで待っていたヒメモスは本を投げ出すと風呂場へと駆けて行った。
ヒメモスはワンピースと下着をノボルに脱がせてもらう。それからノボルも自分の服を脱いで風呂場のドアを開ける。
ヒメモスが先に風呂場に入った。とっさにノボルがヒメモスに忠告する。
「風呂屋と同じように身体を洗ってから入るんだぞ!」
「うんっ! わかってる!」
ヒメモスはシャワーを浴びて身体を洗う。それから湯船にゆっくりと浸かった。
「うぅ……」
ヒメモスは唸り声を上げた。それを聞いてノボルは吹き出した。
「ははっ、おっさんみたいだな」
ヒメモスはぷうっと頬を膨らませた。
「私、おっさんじゃないもん」
「はい、はい」
ノボルは適当に返事をしながら身体を洗い始める。
一通り洗い終えると湯船に浸かった。ノボルが湯船に入った途端、湯が溢れ出て流れていく。
ヒメモスはその様子をきゃっきゃとはしゃいで見ている。
湯船の中、ヒメモスはノボルの股の間に収まるように座った。ノボルは天井を見上げて唸り声を漏らす。
「うぅ……」
ヒメモスはすかさずいたずらっぽい笑みを浮かべた。
「あー、おっさんみたい」
「俺はおっさんだからいいんだよ」
二人は声を上げて笑い合った。
その後訪れるふとした静寂。二人はその静寂に心地よく身を任せた。
二人ともだんまりで、天井を見上げている。僅かに開いた窓から湯気が少しずつ流れていく。ノボルの髪を伝った滴が、ぴちょん、ぴちょんと音を立てて湯に落ちてゆく。
ノボルの口が沈黙を破った。
「そうだ、髪の毛、洗ってやるよ」
ヒメモスは振り向いて、
「うんっ!」
と、喜んで言った。
二人は湯船から出ると、ヒメモスは椅子に座り、ノボルは背後にしゃがんだ。ノボルはシャンプーを手に出すと両手に伸ばして、ヒメモスの頭を洗い始めた。
「あっ」
ヒメモスが出し抜けに短く叫んだ。
「目が痛いっ!」
「ははっ、目を開けようとしたからだ。すぐに洗い流してやるからな」
「……うん」
ヒメモスは目を赤くして頷いた。その後ヒメモスの髪は綺麗に洗い流された。
ヒメモスが嬉々としてノボルに話しかける。
「こんどは私が、ノボルの髪を洗ってあげる!」
「ああ、お願いするよ」
二人は場所を入れ替える。ヒメモスは両手でノボルの頭を泡立たせる。
「おぉ、なかなか上手じゃないか」
「えへへ」
ヒメモスは得意気に笑った。それからシャワーで泡を洗い流した。
ノボルは髪をかき上げると、
「ん?」
と首を傾げた。やたらごわつくのだった。ノボルはハッとした。
「ヒメモス! お前ボディソープで洗ったな!」
ヒメモスはきょとんとして小首を傾げる。
「え? どれも一緒じゃないの?」
「……いや、なんでもない。気にするな」
ノボルは説明するのが面倒だったので適当に答えた。
二人は冷めた身体を再び湯船に浸ける。二人から長い息が漏れる。
ノボルは天井を見つめながら真剣な面持ちになる。
「……ヒメモス、俺との生活は楽しいか?」
「うん、楽しいよ」
ヒメモスは問われてすぐに答えた。
「そうか、安心した」
それきりノボルは口を噤んだ。ヒメモスも喋らない。心地よい静寂が再び場を領する。
二人は目を瞑って水音だけに意識を向けていた。




