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激闘

「ワシントン上空!前方敵機30…いや50はいるぞ!」

「銀河隊かかれー!富嶽を墜とさせるな!」

怒声が飛び交う。

信じられないほど巨大な爆撃機を前に驚きつつも迎撃態勢をとる米軍機に向けて銀河隊が突入する。

あちらこちらで凄まじい空戦が繰り広げられる。護衛のためにハリネズミのように機銃をつけた銀河に米軍機は狼狽した。

だが、数に押されて鈍重な銀河は次々と撃ち落とされて行く。

しかし、護衛はできなくても時間稼ぎは十分にできた。

炎を吹きながら敵機に体当たりして果てた銀河の破片を背に富嶽隊はワシントンDC上空に突入していく。


ホワイトハウス

「だ、大統領閣下‼︎日本軍機が…ワシントンDC上空に‼︎」

「な…なに⁉︎」


「敵機、10時方向より来る!約20機!」

千田の額に脂汗が浮かぶ。すでに50機近い敵機の攻撃を受けており、時折金属を引っかくような不快極まりない被弾音が聞こえる。

「8番機、被害集中!」

何処からか報告の声が飛んでくる。ちらりと8番機を確認すると、アブのようなグラマン戦闘機がまとわりついてしつこく攻撃していた。いくら富嶽が頑丈とはいえ、あれではたまらないだろう。

「新たな敵編隊、マスタング、30機!第4区隊に向かう!」

雲霞のごとき敵機に向けて、全ての機銃が吼える。

「爆撃用意!爆弾倉開け!」

胴体下の大きな扉が開き、黒光りする爆弾が姿を現した。同時に空気抵抗によって少々減速するが、千田はスロットルを少し前にだして速度を保つ。

「右2度修正、チョイ左1度…。流されてる、3ノット増速」

機首から照準手の双葉飛曹長が緊張した声で指示を飛ばす。それに合わせて千田が巨大な富嶽を小刻みに調整していく。全てがこのためにあったのだ。無駄にするわけにはいかない。

「…今だ!投下ー‼︎」

8機の富嶽から投下された250キロ爆弾は整流フィンが風を切る長い悲鳴のような音を引いて地上へ殺到した。

「全機上昇!高度12000mまで全力で上がれ、編隊を崩すな!」

スロットルを目一杯前に押し出して増速する。6基のエンジンがこれまで以上の爆音を発し、プロペラは狂ったように回転する。

地上では数百発の爆弾が爆発し、ニューヨークに東京大空襲とそっくりの地獄絵図を描き出していた。

「11時方向!上方からグラマン20機来る!」

喜びに浸る暇はない。

本土を爆撃されて怒り心頭の米軍パイロットは執拗に富嶽隊に攻撃を仕掛ける。

「これでも喰らいやがれ!」

前方機銃座に移った双葉がマウザー20ミリ機関砲を襲い来るグラマンに向けてぶっ放した。

曳光弾の筋が伸び、真正面から突っ込んできたグラマンのエンジンを引き裂いていく。

黒煙を吐いて墜ちていくグラマンを見る暇もなく、次の敵機に機銃を向ける。


「下のグラマンを殺るぞ!続けー!」

キ83隊長、菅野直大尉は機体を傾けながら怒鳴った。

紫電改を装備して暴れ回った元343空のエースパイロットだ。

富嶽に攻撃を仕掛けることに集中している敵機は菅野達に気付かない。すでにこの混戦の中、菅野に付き従うキ83は2機に減っていたが、いづれも名人級の凄腕パイロットだ。

冷静に照準をつけてスロットルの射撃レバーを握り込む。

小気味良い振動とともにマウザー20ミリ機関砲弾が弾き出され、青黒く塗られたグラマンのぼってりした胴体に大穴を開ける。

これに気付いた他のグラマンが慌てて回避行動をとる。

「遅い!」

無防備にさらされたその土手っ腹に返す刀叩き込む。残ったグラマンも部下が確実に仕留めていく。

菅野は操縦桿を捻ってノタノタ飛ぶ一機のグラマンの後方についた。

必死に旋回して逃げようとするグラマン。菅野はやすやすとその後ろにつく。

ー全く、こいつが双発機とは思えんなー

何度も感心したが、やはりこうもこの旋回性能を見せつけられると何度でも感心してしまう。

キ83は長距離援護戦闘機として誕生し、航続距離を伸ばすため双発にせざるを得なかったが、強力なエンジンに細く引き締まった胴体に空戦フラップの組み合わせのおかげで単発機のグラマンにも劣らないほどの機動性をもっていた。

「喰らえ」

何度も旋回してスピードを失ったグラマンが、垂直旋回をしてコクピットを晒したとき、射撃レバーを引いた。

ドドドドン!

敵のコクピットが血に染まった。


「ワレ、命中弾多数受ク、コレヨリ自爆ス。日本ヘノ無事帰還ヲ祈ル」

8番機からの、最後の無電だった。さらに生き残っていた援護隊の銀河やキ83からも燃料切れによる自爆する機が出てきた。

「3番機、左翼に被弾!炎上中!」

「7番機、5番機墜ちる!」

悲痛な声が相次ぐ。すでに残存機は4機だ。あとは燃料に引火して大爆発を起こしたり、地上に向けて自爆していった。

しかしそれらに構っている暇はないのだ。千田も上昇速度を落として被害を受けている富嶽を庇ってやりたい。だが、一刻も早く敵機が追いつけない高度まで上昇しなければ全機やられてしまうかもしれないのだ。

「くそったれが!墜ちろ!墜ちやがれ!」

後方機銃員の蔵伴一飛曹は無駄とわかっていても、射撃レバーを引きながら何度もわめき散らした。

攻撃を終えて回避に移っていたマスタングの銀色の腹へ向けてこれでもかと言わんばかりに20ミリ弾を叩き込んだ。凄まじい破壊力を持った20ミリ徹甲焼夷弾はジュラルミンをやすやすと突き破り、きらめく破片を宙に舞わせた。まもなくそのマスタングはちろちろと黒煙を吐き始めたかと思うと、紅蓮の炎に包まれて地上へ墜ちて行った。

「よっしゃあ!」

狂喜する蔵伴は、次の獲物を探して後ろを振り向いた時、味方を墜とされて怒り狂ったマスタングが突っ込んでくるのが見えた。

彼は慌てて機銃旋回ペダルを踏み込む。だが、間に合わなかった。

彼はマスタングの両翼から赤い火の玉が自分に向かってることを確認したのち、身体中を機銃弾で引き裂かれて腸や脳髄を振りまいて死亡した。

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