第91話『現実では大周点と呼ばれる物に近い』
ちょっと予定時間をオーバーしました。
主にミーシャとレンの二人に対しての説明が終わる頃には、二種類の方法を試す事に話が進んでいた。
1つは大気中に存在する魔力(仮称として魔素と呼ぶ)に対して直接干渉を行い、魔素を使用した魔法を発動させる方法。
もう1つは魔素を体内に取り込み自分の魔力として吸収する方法。
こちらは菊次郎爺さんの案で、呼気から取り込む方法が提案された。
「……魔素を利用する理論は……一部の魔道具で既に使用されてる……でもそれは使用量が僅かな物でしか実用されてない……」
「魔素が全ての属性を有する魔力の源だから、何かしらの属性が魔法の発動に悪影響を及ぼしてるって言われてるわよ?」
「……上位の魔法師は……殆ど保有魔力量が多い……それに対して魔素の濃度が高い特殊な環境以外では……一定の範囲内の魔素量はそんなに多く無い……だから研究する優秀な魔法師は少ない……」
既に魔素の活用法自体は存在するらしく、風呂場にあった様々な風呂も魔道具の一種で攻撃系の魔法より桁違いに威力が低い効果を持続させる事で、様々な風呂を魔道具単体で実現しているらしい。
しかし一定量以上の魔素を使おうとすると、機能停止したり故障してしまう様だ。
原因は不明だが、個人が使う魔力とは違い魔素が個体差の無い魔力の源だとすると、本来不要な要素まで取り込んでしまい使う量が多ければ多い程、問題が発生し易くなるのでは無いかと言われているらしい。
「ふむ、ならば先に儂が試してみてよいじゃろうか? 儂も以前は完全に扱う事は出来なんだが、外気を身の内に取り入れる事に挑戦した事があるので、危険と判断した時はすぐさま中断出来る筈じゃ」
「……少しでも危険だと感じた時……即刻中止する事が条件……本来はダメ……でも自分も興味が無い訳じゃない……」
まぁ、特に必要か分からない技術の為に、わざわざ異世界から呼んだ戦力に未知数な危険がある事をさせるのはダメだろう。
しかし、なんか菊次郎爺さんなら出来ても不思議じゃない気がする。
特に、仙術は出来ないとか言ってた癖に実際試した事はあるようだし。
目を瞑り息吹を行う様に時間を掛けて大きく息を吸い、一度息を止めて数秒時間を置くと、吸う時と同じ様に時間を掛けて大きく息を吐いた。
その後、目を瞑ったまましばらく無言で佇んでいた菊次郎爺さんは、目を開けると口を開いた。
「コレは…………判断が難しいの、外気を取り込むよりは扱い易いが、同時に全てを扱うのは無理じゃな」
分かる様でよく分からない台詞なので、どう言う事なのか詳しく聞いてみると。
外気は扱いが難しく、己が内にある気の性質を外気に近付ける事で自然と一体となり、自然と同化する事で外気を内気と同様に扱う事が出来るらしい。
仙人と呼ばれる者は、そこから更に外気自らの生命力に変換する事で、常人より長い寿命を得た者の事なんだとか。
爺さんの世界では仙人が居たのかよ。
そして、そんな外気に対して魔素は扱い易く、そんなレベルの事をせずとも取り込めた。
代わりに、取り込んで体内に循環させると、体の中で馴染まないままの魔素があり恐らく馴染まなかった魔素は魔力としては使えなさそうだったらしい。
馴染んだ魔素は約2、3割程で大半は不純物の様に蓄積するだけだったので、呼気と共に吐き出したとか。
ぶっちゃけ取り込んた魔素の量は魔力にして、大体10に届くかどうかと言う程度で、実質取り込めたのは2~3程しか無い為、一定以上の魔力を持つ者には気休め程度にしかならないらしい。
割と気を使う手法なので、無いよりはいいけど率先して習得する程画期的な方法では無いと。
尚且つ、馴染まない魔素は吐き出し切れずに僅かに蓄積している感覚があるらしい、そして魔力を体内で循環して循環させた魔力を魔力弾の様に外に出していればその内体外に押し出されるだろうが、余りに蓄積し過ぎると体を壊す可能性もあり得るんだそうだ。
「……魔法師の平均魔力量は恐らく100~200位……無駄では無いけど……訓練に取り入れる程じゃない……でも実験を行う足掛かりにはなる……」
レンは菊次郎爺さんの話を聞いて、若干残念そうではあるが、研究意欲を刺激されたのか目が燃えている。
表情に大きな変化が無い癖に、何となく感情が読みやすいと言う、割と感情豊かな子の様な気がする。
「あっ、コレってあたしに向いてるかも」
一言も喋らずに話を聞いていたミーシャが、唐突に声を発した。
「自分の属性に近い性質の魔素は簡単に染まって、相反する性質とか異質な魔素は全然自分の魔力になりそうに無いし、途中で引っ掛かった魔素は個別に洗い流す……と」
そう言ってミーシャは人差し指を立て、その指先に淡く光る黒い粒が集まっている。
コイツ、菊次郎爺さんより使いこなしてないか?。