第61話『バッタの大群にリベンジ』
「なによなによっ! こんなのがあるんならもっと早く欲しかったわ!」
早速試した桜がハイテンションでキマイラ相手に無双している。
防御範囲拡大によって盾で防げる範囲が倍以上に広がり、負担軽減で真っ向から受け止めても殆ど後ろに下がらずに済み、受け止めて動きを止めた後にシールドアタックでキマイラを吹き飛ばす。
特にシールドアタックは今までの攻撃力不足を補うだけの効果がある様で、普通に盾で殴ってるだけなのに勢いよくキマイラを吹き飛ばしていた。
「僕は何か、面白味が無くなった気がするよ」
紅葉ちゃんはぼやきながら弓を射っている。
自動装填で射つ度に矢が手元に現れ、誘導射線を使い曲芸染みた軌道の矢を休む事なく放っていた。
空間認識は今一分かりにくいが、様々な射線を思い浮かべ易くなっているらしい。
キマイラを中心に様々な角度から襲い掛かる矢を見ると、何となくホーミング機能でも付いてる様な感覚になる光景だ。
「コレで少しは椿さんを守りやすくなった気がします」
楓ちゃんは飛魔斬の効果が凄すぎて、他の効果が目立たない感じになっている。
剣を振るう度に斬撃が飛び、その場を動かないままキマイラを切り刻んでいた。
一応、魔力剣(小)や力溜めも試してはいるが、魔力剣は片手で斬撃を放ちつつ残った手で魔力剣を投げて投剣の形で使い、力溜めは…………元から凄い威力なので今一分り辛いんだが、キマイラを一太刀で真っ二つにしていた。
俺の場合はある意味目立った変化は無い。
防御魔法は結構な強度がある様で、キマイラが突っ込んで来ても周囲を覆うタイプでさえキマイラを受けとめた。
しかし、防御魔法越しに魔力弾を飛ばす事は出来ない様で周囲を全て覆ってしまうと、こちらからは攻撃が出来なかった。
短距離転移は、割と座標設定が難しく目に見える所に移動する場合は瞬時に使用出来るが、目に見えない所へは時間が掛かって戦闘では余り使えそうにない。
一応目を瞑って転移先をイメージすると、脳内に転移先の映像が見えるので【壁の中にいる】と言う状況にはそうはならない様になっているらしいが、その工程にかなり時間が掛かる。
何より、短距離となっているだけに、有効範囲は50メートルあるかどうかと言った所で、移動方法としては使えない。
そして精神統一は全く意味があるのか分からない程度に、効果が実感出来ない。
魔装具で表示される魔力量は最大値のみで、現在値は表示されないらしく、感覚的には大雑把にしか分からない上に消費量も『何か微妙に減った気がする』と言う程度で、実感出来る程変動があったのか全く感じとれない。
一応、何となくじわ~っと回復してる様な気がするような? しないような? と言った感じの感覚がする様な気も無い訳では無いが……ぶっちゃけ回復してる感覚自体が分からないので判別さえ出来ない。
つまりは、俺の場合は危ない時の防御手段と緊急回避用の手段を手に入れただけなのである。
ちなみに、魔力弾を手元に浮かべて短距離転移すると、魔力弾だけ置き去りにされるので【敵の懐に潜り込んでぶっ放す】と言った手段は使えない。
出来て、置き魔力弾と言った手段位だが、転移する際に魔力弾との繋がりが切れるのか数秒で霧散するので相当引き付けないと、普通に撃った方がマシな程度の効果しか無い。
「さて、どうする? 俺は虫相手に使えそうなスキルが無いからどっちでもいいけど」
「勿論リベンジよ! 今のアタシなら1人や2人守りきってあげるわよ!」
「僕は前より一杯倒せると思うけど、あんまり面白そうじゃないかも」
「手の届く範囲が広くなったので、今度こそ椿さんを守りきってみせます!」
確認を済ませて早速虫相手へ再チャレンジをするか聞いたら、桜と楓ちゃんはやる気満々に返事を返した。
う~ん、明確に賛否を出してるって訳じゃないけど積極的が1人に消極的が1人、そして積極的で賛成なのが1人か。
「反対ってのは居ないから再挑戦決定だな」
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「さーて、みんな準備はいいな」
バッタが出るフロアに付いて全員に声を掛けると、楓ちゃんと桜が前に出てやる気満々に武器を構え、逆に紅葉ちゃんはやる気は余り無さそうだが後ろで弓を構えた。
「戦闘開始!」
出現を押すと、早速三桁に届く数のバッタが現れ羽を広げて一斉に飛び上がりこちらに向けて突っ込んで来る。
接触する前に紅葉ちゃんが前に居る2人の間から、矢を続けざまに放ち、俺は俺で雀の魔力弾で2人を避ける様に弧を描く軌道で飛ばしていく。
バッタが近くまで来ると、更に楓ちゃんの飛ぶ斬撃が加わり接触する前にバッタの数を更に減らし、攻撃を掻い潜って抜けて来たバッタは桜の盾にぶつかり弾き飛ばされて粉々に散っていく。
「最初の先制攻撃で結構削れたおかげで思ったより余裕があるな」
「ん~、楓が近寄って来る前に切り落とせるようになったし、僕も前より早く矢を放てるからね~」
俺の言葉に紅葉ちゃんが応える。
流石に前に立つ2人はお喋りする程意識を向けられない様で、2人からの返事は無い。
どんどん数が減っていき、遂にはバッタが全て居なくなった所で桜から不満の声が上がった。
「もぅ、無傷のまま倒せたのはいいけど、アタシの出番が殆ど無いじゃないっ!」
結局桜の所まで抜けて来たのは十数匹居たかどうかと言う程度で、バッタの数を考えると1割に満たない位だ。
ちょっと迎撃し過ぎたかも知れない、俺と紅葉ちゃんの弾幕を抜けたバッタも大半が楓ちゃんに切り落とされたのも理由の1つだろう。
「流石にあんなに一杯居るのに加減とかは出来ないよ? 数を調整するみたいな器用な真似は無理だからすり抜けて来るのは何倍にも増えちゃうよ」
紅葉ちゃんが言う言葉に同感だ。
抜けて来るバッタの数を調整しつつ迎撃するとか、流石にそこまでの余裕は無い。
と言うか、恐らく理由の大半は楓ちゃんが頑張り過ぎたせいだと思う。
俺と紅葉ちゃんで半分以上撃ち落としたが、それでも数十匹は抜けて来たのに桜の所まで辿り着いたのは十を少し超える程度しかない。
つまり、抜けて来たバッタを楓ちゃんだけで8~9割方切り落としたと言う事だ。
楓ちゃん頑張り過ぎだよ。
「それで、どうする? まだ時間はあるからまた虫相手にやるか? それともボスに行ってみるか?」
「僕はボスに行きたいっ!」
即答で答えたのは紅葉ちゃんだけで2人は少し考えた後に。
「アタシはちゃんとリベンジしたい所だけど、手を抜いて貰ってまでしたい訳じゃないからボス相手の方が名誉挽回出来るかも知れないわね」
「ボスって事は私は守るよりも攻める方になりそうですよね? 椿さんにいい所を見せる機会が……「いや、普通に攻撃でいい所見せれば」やりますっ!」
ちょっと微妙なやり取りがあったが、俺達は今日の締めに一階層のフロアボスに挑戦する事にした。