第56話『簡単に連係が取れる訳じゃない』
恐らくボスの1つ手前の4つ目のフロアに入り、早々に魔獣を出すと。
フロアの壁際に無数の虫らしき魔獣が現れた。
「ちょっと多過ぎじゃね?」
条件反射的に出て来た魔獣のステータスを覗く。
【種族名・キリキリバッタ(人造種)
ランク・C(群れの規模によりB~A+)】
今までと違って名前通りで確かにバッタっぽいけど、3~40センチはある上、頭部が尖っている。
数はハッキリ分からないが、百を超えそうな程出て来ている。
「来るわよ!」
数匹のバッタが羽を開くと、桜が盾を構えて叫ぶと同時に飛び立ち一直線に突っ込んで来た。
飛んで来たバッタを何とか避けると、一匹は桜の盾にぶつかって潰れ、入口付近の壁際に居た為に残りは壁に突き刺さり体の半分以上が壁の中に埋まった。
「脆そうだけど、コレは纏めて来たらヤバイわ」
「連係がどうこうって相手じゃないわね、アタシじゃ同時に来たら防ぎ切れないわよ」
脆そうなので、多分デカい魔力弾を撃ちまくればどうにかなるかも知れないけど、滅茶苦茶力押しになる。
「桜と楓ちゃんで迎撃しつつ、俺と紅葉ちゃんが後ろから射撃で数を減らすって言うのが妥当だな」
「椿さんに飛んで来るのは全部叩きっ切ってあげます!」
「紅葉ちゃんに来るのも切ってあげなさいよ、アタシだけじゃ1人守るのもキツいのよ?」
「弓使うって言ったばっかだけど、あんな小さいのが的じゃ自信無いな~」
楓ちゃんはやる気満々で前に立ち、桜がその隣に並び、紅葉ちゃんは肩を落としつつも弓を構えた。
「飛んで来るのは任せた!」
2人の後ろから狙いを付けて1発づつ魔力弾を撃ち始めた。
俺の魔力弾や紅葉ちゃんの矢は、当たったり外れたりと半々だったが、命中した個体は1発でバラバラになり光の粒子と化して消えていった。
普通飛んで来る個体以外にも、外した辺りのバッタが突っ込んで来るが、大半は楓ちゃんが斬り落とし、取り零しそうなバッタを桜が盾で防ぐ。
「あんまり当たんない!」
「そこそこ遠い上に的が小さいからな! それでも全部が好戦的じゃ無いから一気に来る事無く順調に減ってるぞ!」
順調に数を減らし、残りが僅かになって来た所で。
「ぁ痛っ!?」
唐突に背後から衝撃を受けて前に倒れ込んだ。
「椿さんっ!!」
「どうしたのっ! 一匹も抜けて無いわよ」
「なになにっ!」
すぐに立ちあがり、後ろに振り返ると、壁に埋まったバッタが抜け出してこっちに飛んで来る所だった。
「最初の奴か! 忘れてたっ!」
飛んで来たバッタを避けつつ叫ぶ。
壁に埋まっただけで、今になって抜け出して来た奴が突っ込んで来たのに気付かずに無防備な背中に食らったらしい。
「紅葉ちゃんにも一匹いったぞ!」
紅葉ちゃんに向けてバッタが突っ込んで行ったので、そう叫ぶ。
「この位余裕……だよっ!」
紅葉ちゃんは軽くサイドステップでかわし、飛んで来たバッタを蹴り上げた。
蹴りを食らったバッタは空高く吹き飛んで光の粒子に変わって消えた。
攻撃受けたの俺だけかよ。
「まだ終わって無いわよ! 最後まで油断しない!」
桜の言葉を聞いて、一応残りが居ないか確認してから攻撃を再開した。
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「もう残ってないみたいだな」
残りのバッタを仕留めると、次のフロアへの道が出て来たので、全部仕留め終わったみたいだ。
「ごめんなさい、椿さんを守るって言ったのに、しっかり守れませんでした」
「アタシも最初のバッタの事すっかり忘れてたわ、ちゃんと確認しておくべきだったわね」
終わってすぐに楓ちゃんが深く頭を下げてきた、桜も申し訳なさそうな表情で頭を掻いている。
「いや、俺も完全に忘れてたし、前で迎撃してた2人は悪く無い、後ろの奴は俺達2人が悪いだろ」
「僕、弓で狙うのに集中してて全く気付かなかったよ、もっと周りを見れる様にならなきゃダメだね」
前の2人は前方のバッタに集中してたんだから、全面的に俺達、特にリーダーみたいに指示を出してた俺が悪い。
幾ら前に大量に居たとはいえ、最初に突っ込んで来たバッタが消えずに壁に埋まっていたのは、ちゃんと見てたのに抜け出して来る可能性を考えなかったんだから。
「怪我はしてないですか? ちゃんと確認しないと……」
「いや、障壁でしっかり防いでくれたみたいだから大丈夫……大丈夫だから服を捲ろうとしないっ!」
楓ちゃんが心配そうに近付いて来て背後に回ると、ジロジロ見てたと思いきや、何処と無く怪しい手つきで体をまさぐり、服を捲ろうとし始めた。
何とか楓ちゃんの魔の手から逃れた後、初めて障壁の効果を体験したのでステータスの中の障壁部分を確認した。
【防御障壁耐久値・2800/2780】
20減ってる、背後からモロに食らった事を考えると障壁はかなり頑丈らしい。
こんだけ耐久値があるんなら、恐らく1人でも何とかやれた可能性が高い、勿論4人の中では俺が一番削られるとは思うけど。
「障壁の効果を体験出来たのは収穫だけど、4人での連係って意味では微妙な所だったよな?」
一応前衛と後衛に別れて戦ったが、連係を取ってやれてたかどうかは怪しい、役割分担しただけで他の皆に意識が向いていたかと言われると、余り気を配って無かった気がする。
「アタシは楓ちゃんが間に合いそうに無いのを防ぐのに気を取られて、後ろの2人の事は全然見れて無かったわね」
「私もです。 後ろに一匹も行かせない様に前しか見てませんでした」
「僕なんか、ちょっと狙うの面倒臭くなってきてたよ、どうせなら周りを見てれば良かったかも」
うん、紅葉ちゃんはもっと集中しようぜ。
周りを見るって言うのも、若干サボる口実に思えてならない、いや必要ではあるけど。
「もう少し連係して戦える様にした方が良さそうだけど、このフロアはチームワークを練習には向いてないよな」
「ちょっと飽きるしね」
それは何か違う。
「少し戻って2つ目のフロアから練習したらいいんじゃないかしら? 2体位なら練習に丁度いいんじゃない?」
確かに、いきなり4体相手だとやり難いし、1体は簡単過ぎる気がするので2番目辺りが良さそうだ。
「んじゃ戻るか」
2番目のフロアに戻る為に入口に向けて歩き始めた。
ちなみに、菊次郎爺さんにも何匹か突っ込んで行ってたけど、目にも止まらぬ早さで何かしてたのか、バッタが当たる直前に弾け飛んでたので、誰も気にしてなかった。
自然体であっさり対処出来てるんだから、気にするだけ無駄だよな。