第41話『2度目の休日』
13日目
朝ごはんを食べていると、キリエに城門前に集まる様に言われた。
今日何かあったっけ?。
食べ終わってから城門前に行くと、3人以外に珍しく別メニューでしばらく見てなかった菊次郎爺さんも居た。
と言うか、また俺が最後か、みんな行動が早いな。
「もう全員揃っていましたか、少々遅れてしまい申し訳ありません」
後ろからキリエが、小走りに駆け寄って来て頭を下げている。
あぁ、別に元々言う気は無いけど、俺ギリギリだから何も言えない。
「本日は休日の無の日ですが、事前に注意事項が1つ、そして渡す物が1つあります。
渡す物の方は全員共通ですので、菊次郎殿にも声を掛けさせて頂きました」
おぉ、そう言えば前の休日から1週間経ってた、すっかり忘れてたわ。
しかし、前は注意事項とか聞いて無いけど、気を付ける事があるんだろうか?。
「まずは、皆さんもお気付きでしょうが、各自のアンドロイドは最後の1人である菊次郎殿が来てから最終調整の為、機工士の宮子さんの所で朝から晩まで預かっているのですが」
だから最近部屋の中以外で見掛けないのか、滅多にフィーアの方から喋り掛けて来ないから、存在感が薄過ぎて気にしてなかった。
「侵略者が何時現れても問題無い様に、少しずつ進めていますから、今しばらく掛かるそうなので、先にアンドロイドと魔装具との繋がりを活用した連絡装置を用意しました」
そう言って胸の谷間からペンの様な棒状の物を取り出した。
なんで胸にしまったし、いやポケット的なのが見当たらないから、分からない事も無いけど、目が釘付けになりそうや。
「コレを持っていると、緊急時には音が鳴り赤く点滅する様になっています。
基本的はコレが鳴った際は侵略者が来たと考えて下さい」
それぞれに1つずつ手渡された物を見ると、ペンライトの様な感じに見える。
何時来るか分からないものの、いよいよ近い内に現れそうな感じがヒシヒシと感じられる。
いや、こんな物が渡されたからって近いとは限らないけど。
「万が一の為、侵略者以外で何かあった場合黄色に点滅する様になっていますので、連絡装置が鳴った際は何色に光っているか確認して下さい。
集合場所はここ城門前に来て頂ければ、現在の状況を説明致します」
何か持ってるの忘れそうだな、……財布にでも入れとくか。
「次に、注意事項ですが、コレは菊次郎殿を除く4人へのものです」
「む? 儂には無いのか?」
菊次郎爺さんが疑問の声を上げた。
まぁ、何か仲間外れ感はあるよな、今までも別行動だし。
「ギルドの事に関する事ですので、菊次郎殿には必要無いでしょう。
既に単独でAランクの討伐依頼をこなしたと聞いていますよ」
ギョッとして勢い良く菊次郎爺さんの方に顔を向けた、俺も含めて4人の視線が菊次郎爺さんに集まっている。
この爺さん、あのキングゴブリンよりランクが高い魔獣を、もう1人で倒したのかよ、マジで半端ねぇなオイ。
「皆さんへの注意事項は、しばらくは単独で依頼を受けず、最低でも2人一組で行動して頂きます。
先日の様な事は早々ありませんが、万が一BやAランクと1人で遭遇した場合、魔装具無しの状態では今の貴方達では危険性が高い為、最低でも2人であれば離脱可能と考えた為です」
あ~……確かに身体能力が高い楓ちゃんや、足の速い紅葉ちゃんはまだしも、俺や動きが多少鈍そうな桜は相手によっては、Bランク辺りでも逃げ切れそうに無い。
多分動きが速い魔獣だと、攻撃が殆ど当たらずに逃げるのも難しいだろうから、1人だとヤバそうだ。
「相性を考えると、後衛の椿殿と紅葉殿は別々に組んだ方がいいですし、同じ様に前衛の楓殿と桜殿も一緒にならない方がバランスがいいですね」
つまり楓ちゃんか桜の2択……両方貞操の危機を感じるんだが、究極の2択かよ。
「紅葉ちゃんだと止められる自信が無いし、アタシは椿ちゃんと組みたいわねぇ」
おぉう、突っ走る紅葉ちゃんに振り回される桜が容易に想像出来るな、攻撃力的にも火力に不安がある紅葉ちゃんと桜を別にするのは、思った以上に合理的だし。
2択かと思いきや、1択だったよ。
「威力が高い攻撃出来るのは、今の所は俺と楓ちゃんだけだし、困った事に考えれば考える程、俺が桜と組む方がバランスいいな」
「むぅ、椿さんと組みたかったですけど、椿さんがそう言うならその組み合わせで納得します」
楓ちゃんは俺の言葉にむくれつつも、受け入れてくれた。
紅葉ちゃんはそんな事より早く行きたいのか、口を出さずにソワソワしている。
「決まった様ですが、勿論他に誰か誘って依頼を受けても構いません。
ですが、余り訓練にならないので貴方達4人で受けるのはしばらくしない様にして下さい」
まぁ、この前の様に全員で戦えない状況でも無い限りは、楓ちゃんを主軸に桜が防御担当、紅葉ちゃんが撹乱して俺が威力の高い魔法攻撃と言う感じに戦えば、あのキングゴブリン辺りも何とか倒せそうな気はする。
むしろ楓ちゃんが居るか居ないかで、かなり変わりそうだ。
何よりまだ練習中とは言え、具体的な魔法が使える様になった今、銀色のジェネラルゴブリン位なら2人でも何とかなりそうな気がする。
まぁ、紅葉ちゃんと桜の組み合わせだと、攻撃力不足が多少改善された程度だから、少し時間が掛かりそうだけど。
何より、楓ちゃんなら1人でも何とか倒せそうな気がするけど。
しかし、それでもBランクのキングゴブリン基準で、Aランクが相手では想像が付かない。
「言うまでもありませんが、依頼を受ける際は近場のものを選んで下さい。
万が一出先で侵略者が来た場合、間に合わない可能性も出て来てしまいます」
「アタシ達も、流石にソレは分かってるわよ」
桜は当然の様な表情で頷いているが、紅葉ちゃんが怪しい。
ビクッと肩を震わせ、慌てて激しく頷いているし、何か漫画なら冷や汗でも掻いてそうな雰囲気だ。
多分『少し離れてる程度なら大丈夫じゃないかな~』って位は考えてたんじゃないだろうか?。
「既に依頼の報酬である程度持っていらっしゃると思いますが、菊次郎殿は支給金の1万Gは受け取りましたか?」
「む? もうギュンターから渡されたので心配無用じゃ」
菊次郎爺さんは懐から蝦蟇口の財布を取り出して見せた、が割と大きめなのに無茶苦茶パンパンに膨らんでる。
確かAランクの報酬って平均でも数百万Gだったし、所々角張ってるのが見えるので、金貨以外にも金板や魔法貨、場合によっては魔法板何かも入っているのかも知れない。
「それでは私からは以上です。
休日なので皆さんが依頼を受けるかどうかは自由ですが、くれぐれも無理をせず遠出にならない様にして下さい」
キリエの言葉を皮切りに、城門から出て行く紅葉ちゃんに慌てて追い掛ける楓ちゃん。
そして、普通に城の中に戻る菊次郎爺さん。
って、爺さんは街に行かんのかい。
「椿ちゃんはどうするの? アタシは椿ちゃんが行きたい所があるなら付いて行くわよ?」
「あぁ、1ヶ所だけ行かなきゃならない所があるから、まずはそこからだな」
出来ている筈のアレを取りに行かなきゃ行けない。
そう、水着だ。
しかし、あの防具屋の奴と桜を引き合わせるとか、余りいい予感がしない。
大丈夫かな?