第37話『ゴブリン殲滅戦、後編』
危なかった
少し遅れましたが、日付が変わる前に投稿完了。
キリエが戦ってると思われる、大きな小屋がある方向から響く轟音を避けて移動、キリエと桜の所以外は全て全滅したのか道中1匹もゴブリンを見掛ける事無く、桜が担当した小屋の周囲がハッキリと見えてきた。
緑や赤のゴブリンは1匹も残っていない様で、動いてるのは見当たらないが、緑や赤より一回りは大きな銀色のゴブリンが太い丸太の様な物を振り回しているのが見える。
少しづつ近付いて行くと、桜の姿を発見した。
銀色のゴブリンの丸太の攻撃を盾で受け止める度に、体ごと押し飛ばされ、時折盾で殴り掛かるも、余り効いた様子が無い。
よく見ると、銀色のゴブリンに何度か矢が飛んで来ているので、姿は見えないが、やはり紅葉ちゃんは桜の所に来ていたらしい。
攻撃は防げているものの、桜の攻撃は余り効果が無く、紅葉ちゃんの放つ矢も刺さってはいるが、そこまで深く刺さっていないのか、ゴブリンが動く度に抜けている。
倒すには攻撃力が足りず決め手に掛けている、2人は予想以上に大苦戦しているみたいだ。
このまま2人と合流しても、余り役に立たなさそうなので、気付かれない様に森の方へ回り込んで、出来るだけ銀色のゴブリンに近い所にある木の陰に隠れた。
「緑のゴブリンにはかなり効いたが、赤のゴブリンは微妙だったって事は、赤より更に上位っぽそうな銀色には、普通の魔力弾当てても意味無さそうだな」
見る限り、桜から盾で顔を殴られても、軽く顔を振った程度でダメージは少なそうだし、紅葉ちゃんが放ったであろう矢は、刺さってはいるが矢尻の先端部が浅く刺さっているだけなのか、刺さった状態の矢は矢尻の金属部分が半分程見えている。
確実に赤のゴブリンより頑丈で固そうな上、一回り大きな銀色には今までの魔力弾を当てても、余り効果を期待出来そうに無いのに、決め手に欠ける戦況で俺がそのまま戦いに参加しても、時間が掛かる事は確実だろう。
「圧縮とか威力を上げそうな練習はしてないんだよな…………威力が上がるかも分からないのに、ぶっつけ本番かよ」
銀色のゴブリンの攻撃に若干押し飛ばされてはいるが、しっかり両手で盾を持ち防いでいる為、差し迫った危険は無さそうだが、体力的にはキツそうで僅かに息を荒くしている。
恐らく、今の時点で一番攻撃力とか戦闘能力が高そうな楓ちゃんが居ればまだしも、頑丈で力が強い銀色のゴブリンに対して、4人の中で一番力が弱い魔法使い系な俺が普通に参加しても足手まといになるだけだ。
せめて、もう少し魔法っぽいのを使えればまだしも、俺が今の時点で使える魔法何て物理魔法と、銀色のゴブリンにはダメージ少なそうな弾幕魔法だけだ。
「まぁ、失敗しても、もう一度撃つ位の余裕はあるだろ、圧縮を試して、ダメそうなら兎に角魔力込めまくって、それでもダメなら桜に任せて逃げながら普通の魔力弾撃つ程度の援護で諦めよう」
割と薄情な事を言いつつ早速、掌の上で白い魔力を玉状に浮かべ、徐々に形を変えない様に魔力を注いでいく。
時々、形が歪むのを何とか調整しつつ、魔力を注いでいくと、少しづつ色が濃くなるが、白いせいで今一変化が分かり難い。
普通に作った際は、若干向こう側が透けて見えていたのが、より白くなって見えなくなっているので、多分濃度は増していってる。
やり始めて1分程経ち、形を維持するのが難しくなって来た頃には、真っ白な玉が出来上がった。
まだ多少は余裕があるけど、これ以上すると維持するのが精一杯で動かせなくなりそうだったので、この辺りでゆっくりと銀色のゴブリンに向けて発射体勢に入る。
狙いは外さない様に胴体、威力は分からないが桜に当たらない様に少し上にして、胸部辺りに狙いを定め、桜と紅葉ちゃんに向けて叫ぶ。
「多分デカいのブチ込むから2人とも伏せろ!」
桜が頭を低くしたのが見えたので、作った魔力弾を放った次の瞬間。
魔力弾の形が崩れ、閃光が走った。
放った魔力弾は形を変え、短いレーザーの様に凄い勢いで銀色のゴブリンに向かい、ゴブリンが気付く間もなく。
胸部に風穴が空いた。
ちょっと予想以上に威力デカ過ぎじゃないかね。
「も~、助かったけど、あんなに凄いの使うならもう少し早く言って欲しかったわ~、ビックリして倒れてきたゴブリンに押し倒されそうだったわよ」
「何か凄かったよね~、結構硬かったのに、あんな大きな穴が空く程の威力なんだもん」
その後、桜と離れた所から走って戻って来た紅葉ちゃんと合流した俺に、2人はじゃれつく様に背中を叩いたり抱き付かれたりしながら、そんな事を言われた。
「ぶっつけ本番だったから、あそこまで威力が高いとは思って無かったんだよ。
流石にアレを見た後じゃ、先に合流してから、やる事を説明した方が良かったと思うわ」
あんなに威力が高いんじゃ、射線上から離れる様にしてないと危険過ぎる、と頭を抱えた。
「まぁ、先に一声掛けられたお蔭で無事だったんだし、アタシに文句何か無いわよ。
むしろ、幾ら殴っても倒れそうに無いし、動きはそんなに早く無いけど、防いでも凄い力で押し込まれて、流石にちょっと危なかったから、大助かりよ」
「僕も流石にあんな大きな奴を相手にした事無かったから、折角助けに来たのにあんまり役に立てなかったんだよね。
熊より大きくて頑丈だし、熊を倒せたのも1日掛かりだったから、邪魔にならない様に遠いから弓で援護する位しか出来なかったよ」
桜はまだしも、1日掛かりとは言え、熊倒した事あるのかよ。
桜が割と心が広い、オネエさん的な事言ってるのに、紅葉ちゃんの発言に衝撃的な内容があって霞むわ。
「紅葉ちゃんの所には誰も居なかったみたいだけど、アタシの方には1人女の子が居たのよ、危ないからちょっと小屋の中から出ないように言っておいてるんだけど、椿ちゃんの方はどうだったの?」
助ける相手が一番テンプレだったのが、オネエな桜とか想像すると微妙だ。
いや、俺達4人の中では、女の扱いが上手そうだが、その内容は何となく母親的な世話焼き具合を発揮する桜と言う状況が脳裏に浮かんだ。
アレ? むしろ誰よりも自然じゃね?。
うん、余り余計な事を考えずに状況に対応した内容を優先しよう。
「俺の所には小っさいのが1……匹? いや1人だよな、うん。
それと楓ちゃんの所は、数は聞き忘れたし、すぐにこっちに来たから見てはいないが子供が居るらしい、ついでに俺の所に居たのを預けて見てて貰ってるから、楓ちゃんと合流したら後はキリエの所だけだな」
桜は少し驚いた表情を浮かべていたが、溜め息一つついて苦笑いする。
「アタシが最後だったのね、でも……あの銀色が来た所がアタシの所で良かったのかも、紅葉ちゃんや椿ちゃんが初戦でアレの相手をしてたら危なかったでしょ?」
「緑とか赤はそんなに強くなかったけど
、あの銀色だったら危なかったかな、僕じゃ避け続ける以外に出来る事が殆ど無いもん」
「あ~、俺はそもそも近付かれ過ぎたら避け切れる自信が無いから、確かに初っ端に銀色はキツいな」
紅葉ちゃんと違って、俺は決め手になりそうな手段は考える余裕さえあれば、試行錯誤を繰り返して倒す手段そのものをその場で作れると思う。
勿論、俺は避け続ける自信が無いので、逃げ回りながらと言う事になる、だから紅葉ちゃんと違い追い付かれたり、囲まれると普通にヤバい。
まぁ、キリエと超人戦やってた楓ちゃんは、普通に1人で勝てそうだが。
「って、こんな所で話し込んでないで、早く合流しなきゃダメじゃないの。
ほら、もう終わったから出て来ていいわよ」
そう言って桜が小屋の方に声を掛けると。
「ちょっと! 終わったんならすぐに言いなさいよ! 待ちくたびれちゃったわ!」
出てきたのは、灰色の髪を三つ編みして眼鏡を掛けた女の子、何やら学生っぽい服装なので若い見た目も含めると、中~高校生位に見える。
割とキツそうな目をしているが、それ以外は如何にも文学少女と言う感じなので、見た目と言動のギャップが激しい。
その女の子は、桜の方に近付き俺と紅葉ちゃんを視線を向けた。
「それで、この2人が桜の仲間なのね、この子なんて子供じゃない」
俺の方へ目の前まで近寄って来て、興味深そうに頭から足先まで見てくる。
距離が近いので、体形がハッキリ分かる服じゃなくても胸の大きさは割と分かる。
恐らくCはあるだろう、結構いいモノをお持ちですね。
「紹介は後にして、早く合流しないとダメね、引き付けてくれてるキリエに捕まってる人は全員確保したって早くつたえなきゃ、きっとアタシ達が終わるの待ってるわよ」
「大丈夫だと思うけど、何か遠目に銀色の奴より大きそうな金色な奴の腕が見えたから、多分銀色よりも強そうな奴の相手してる筈だしな」
3人で顔を見合せて頷くと、無言で楓ちゃんが待ってる小屋の方へ歩きだした。
「ちょっと! 何3人だけで分かり合っちゃってるのよ! あたしにも説明しなさいよ!」
三つ編みの女の子は強い口調の言葉を投げ掛けつつも、桜の後ろに引っ付いて追い掛けて来る。
何かツンデレっぽいな~、と思いつつ少しづつ足早になりながら、楓ちゃんの待つ小屋へ急いだ。