第36話『ゴブリン殲滅戦、前編』
鳥籠を見ていると、中に居た妖精が気付いて声を掛けてきた。
「外で大きな音がしたけど、もしかして助けに来てくれたの? お願いここから出して!」
「あー、助けに来たんだが、勝手な行動しないで静かに付いて来るんなら、その鳥籠から出してやるよ、約束出来ないなら助けはするけど、しばらく鳥籠の中に居てもらうからな」
むー、と本当に口にしながら悩んだ様子を見せていたが、鳥籠に飛び付いて。
「喋ったり飛び回るのは我慢するから出して! こんな狭い所に入ったまま何て嫌なの!」
本当に嫌らしく、大きな声を出してこちらに泣きそうな表情で訴え掛けてくる。
静かにって言ったのに煩い気がするけど、鳥籠に入れたままでも煩そうなので出してやった。
鳥籠から出て、小屋の中を飛び回り一周すると肩に腰掛けて止まった。
「君に引っ付いてればいいんだよね、ここでいいかな?」
「ちょっと動き回るから、もう少し肩から転げ落ちない態勢でいた方がいいぞ」
慌てて座った状態から、肩に張り付く様にして腹這いに態勢を変える。
別にそこまで慌てる必要は無いんだが。
「そう言う事は早く言ってよ、こんなに低い所から落ちたら、飛ぼうとしても間に合わずに地面に叩き付けられちゃうじゃん」
あ~、確かに反射神経が良くないと子供の身長から振り落とされたら、反応する前に墜落しそうだ。
とりあえず、肩に張り付いて服をしっかり掴んで準備万端の様だから、小屋から顔を出して周囲を見回す。
近くには仕留めたゴブリン以外は見当たらないので、外に出て小屋の陰から他の小屋や大きな小屋の方を確認した。
大きな小屋の方は相変わらず大きな音を立てて、戦ってる音が聞こえている。
何やら時折、屋根の上から丸太の様に太い棍棒を持った金色の腕らしき物が見える。
キングかジェネラルかは分からないが、多分あれが群れのボスで、キリエはアレと戦ってるんだろう。
桜の担当する小屋の方は、赤や緑のゴブリンが群がり、更に赤と緑の中に微かに銀色の奴が混じってる様に見える。
紅葉ちゃんの方は、余りゴブリンの姿が見えない。
見える範囲では、一番問題無さそうだ。
楓ちゃんが居るであろう小屋の方は、ここから一番遠い為、よく見えないが、かなりの数のゴブリンが群がっている様子だ。
ちょくちょく、緑や赤のゴブリンらしきナニカが空を舞っているっぽいので、数の割には大丈夫そうな感じかな?。
「なぁ、他に捕まってる奴居るのか?」
「え? 確か、子供が何人かあっちに入れられてたよ、他は知らないけど少し前に女の人の声はしてたかな?」
子供が居ると言って指差した方向は、楓ちゃんが居る小屋の方だ。
何か予想以上に捕まってる数が多い。
大丈夫そうな感じはするが、子供が数人居るなら流石に大変そうだから、楓ちゃんの方を手伝うべきだろう。
何か一番数が多いし。
大半の小屋で争いの音がしているので、余り気を使わず、されど小屋以外の遮蔽物が少ないので、一旦森の中に戻り木の合間を走り抜けて楓ちゃんの方へ向かう。
途中、紅葉ちゃんの担当する小屋の側を通った際に、小屋周りの様子を見ると、緑のゴブリンが数匹、頭に矢が刺さった状態で倒れてるのが見えた。
それ以外は特に変わった様子は無く、周囲にゴブリンの姿が見えないから、一応小屋の中を少し覗いて行く。
「うわー、こりゃ酷いね、死んでる人ばっかりだよ」
中を覗くと、恐らくもう死んでるであろう死体が数体転がっていた。
何かカラフルな血液だったから、ゴブリンの死体は平気だったが、流石に人の死体を見て、吐くまではいかないが、若干気分が悪い。
分かる範囲では男だけで、女子供は居ない。
紅葉ちゃんは中にも外にも見当たらないので、恐らく他の小屋に行ったんだろう。
「他の人も、ゴブリンも居ないみたいだから、さっさと楓ちゃんの所に行っても良さそうだね」
小屋から離れ、再度森の中を通って先を急いだ。
楓ちゃんが居る小屋の方に近付くと、緑や赤のゴブリンが小屋を中心に囲む様にして群がっている。
吹き飛ばされて転がっているゴブリンは十数体見えるが、未だに2、30匹位残っている。
更に近付くと、楓ちゃんが小屋の入口の前で、飛び掛かって来るゴブリンを叩っ斬っているのが目に入った。
一撃で一刀両断にしているが、入口から離れずに近付いて来る奴だけを相手にしている為に、瞬殺で倒せる割に時間が掛かっている様だ。
「うわー、ハイゴブリンでも関係無く真っ二つにしてるよ、あの人凄いね」
「でも、あのままだと全部倒す前に逃げられそうだな、楓ちゃんに目がいってる間に援護射撃で一気に数を減らすか」
誤射しない程度に、一斉に真っ直ぐ飛ばせるだけの数の魔力弾を作って浮かせる。
20個位がせいぜいなので、1個じゃ致命傷までいかない赤より緑を優先して、小屋から遠い奴を順に狙いを定める。
楓ちゃんが、また1匹切り飛ばしたと同時に、魔力弾を一斉に発射した。
不意討ちだったからか、当たる寸前まで気付かずに全弾命中して、一気にゴブリンが半分以上倒れ込んだ。
「援護するからそのまま全部一気に倒すよ!」
楓ちゃんに向けて、そう叫ぶと、更に魔力弾を浮かべて遠い奴から順に放っていく。
楓ちゃんも俺の言葉を聞いて、攻勢に出たのか、入口から離れ近い奴から斬りかかった。
残り少ない緑のゴブリンは2発程で仕留め、すぐに全滅させられたが、赤は簡単には倒れない。
頭部を狙って続けざまに3、4、5と魔力弾を連続で叩き込むと、5発程で倒れ込んだ。
「助かりました、中に子供が居たので離れると勝手に外に出たり、ゴブリンが中に入って行きそうで、入口から離れられなかったんです」
俺が二匹目の赤ゴブリンを倒す頃には、楓ちゃんが残りの赤ゴブリンを全滅させて声を掛けてきた。
仕留める早さが段違い過ぎる。
「椿さんの所には、その子が居たんですか?」
「あぁ、この子が言うには、他に女の人が居る可能性があるみたいだ。
こっちに来る途中で紅葉ちゃんの所を覗いて来たけど、男ばかりで生きてる人は居なくて、周囲に居たゴブリンの数も少なかったみたいで、俺が見た時にはもうゴブリンは全滅して紅葉ちゃんは居なかったから、女の人が居るならキリエの所か桜の所に居るんだと思う」
楓ちゃんは小屋の方を見て、困った表情を浮かべている。
「あの中にはちょっと情緒不安定な子も居て、誰かが見てないと危ないと思うんですが、椿さんだと止めきれないかも知れません。
ですから、私はここを離れられません」
「なら、俺は桜の方に行って来るから、ついでにこの子も見ててくれるかな? ちょっと桜の所に気になる銀色の奴が居たから、少し手間取ってるかも知れない」
肩に張り付いた妖精を摘み上げて、楓ちゃんの方に差し出すと、楓ちゃんは手の平に乗せて受け止めた。
摘み上げられた妖精は、若干 不満そうだが、流石に付いて来る気は無いのか文句一つ言わずに大人しくしている。
「気を付けて下さいね、紅葉ちゃんもキリエさんの方へは行ってないでしょうし、きっと桜さんの所です。
なのに、まだ終わって無さそうなのは、椿さんが見たって言う銀色の奴が原因だと思うので、無茶だけはしないで下さい」
「俺は後衛向きみたいだし、離れた所から攻撃するからそんなに心配しなくて大丈夫だよ、子供と一緒に待っててよ、終わったら一度戻ってくるから」
そう言って、大きな小屋を避けて桜が居る小屋の方に走り出す。
流石にキリエの所以外は、殆ど終わってるので、森の中には行かず時間短縮を優先した。
手を振る楓ちゃんを背に、桜が居る小屋に急いだ。