第30話『僕と勝負だ!』
周囲の反応は生暖かい目で見ている者、何とも言い難い表情を浮かべる者、興味無さげな者や首を傾げている者もいる。
唐突にプロポーズした金ぴか男は、目の前で固まっている。
「あらぁ~、ランちゃんったら~伴侶にしたいなら、そんなに急いじゃダメよ~、もっと時間を掛けてお互いをよく知らなきゃ~」
紐の人、もといネオンが性別の事を考えなければ、割とマトモな事を言っている。
勿論、お互いを知っても無理だが、性別の事が無くても面倒臭そうだから嫌だし。
「はっ! そうだね、僕の妻になってくれるなら不便な生活はさせないし、どんな事からも守ってあげる気ではいるが、彼には僕がどれだけ大切にするか、と言う事さえも分からないからね」
「いや、よく知っても無理だと思う、何か家柄的に面倒事に巻き込まれそうだから、普通に嫌だし」
金ぴかが立ち直って頷きながら色々言ってるが、俺がすっぱりと言い放っと、ビクッと反応して項垂れた。
「ふふふ、折角見付けた相手でさえ、ゴールド家と言う肩書きに邪魔されるのか……」
予想以上に鬱陶しい暗さで落ち込んでいる、見た目は眩しいのに雰囲気で輝きが薄れてる様に見える程の落ち込みようだ。
「椿殿は女王様が呼んだ助っ人らしいのであるから、むしろ国を守る側なのである、更に恐らく城の保護下だと考えると国の後ろ楯があるから不便もしていないと思うのである」
余計な事言うなよ、何か顔を上げてはいいが、不気味な目をしてこっち見てるんだけど。
「……この子が異世界から呼んだって言う勇士なのか?」
「十中八九そうなのである、本人も認めてたのである」
金ぴか男が再度俯いたと思いきや、勢いよく顔を上げてこっちを指差して言い放った。
「この国に攻めてくる襲撃者をどちらが数多く倒せるか勝負だ!」
何でそうなったし。
「僕が勝ったら君を僕の妻になってもらう!」
「受ける理由が見当たらないんですが、俺が勝ったら何かあるんですか?」
理不尽な勝負を持ち掛けられたので、口元を引き攣らせつつ、比較的冷静な口調で言い返す。
「……僕が君の下僕になってやろうじゃないか」
「それは遠慮します」
即答で言い返すと、ショックを受けた様なリアクションをしてきた。
どう考えても『誰得?』って言いたくなる様な内容だと思う、コイツが下僕になるとか損しか見当たらないだろ。
「ならば、どんな条件なら勝負すると言うんだ!」
「いや、勝負に何も賭けないなら受けてもいいですけど」
何か普通勝てそうな気はするけど、こんな面倒な上に損しか無い勝負をする訳ない。
鬱陶しいから勝負そのものは受けてもいいけど、負けたらコイツのモノになるとか絶対ゴメンだわ。
「くっ…それでは妻にする計画が…」
いや、こんな至近距離で言われちゃ普通に聞こえてるから。
悩む金ぴかに秘書っぽいエマさんが近付いて来て、何やら耳元で囁くと、金ぴかは納得した様に頷いている。
「仕方ない、その条件で勝負しよう、君が負けても何も無し、だが勝負を持ち掛けたのは僕なんだから、僕が負けた場合はご飯を奢ってあげようじゃないか」
相手にするのは面倒なので、別に無駄に会う回数を増やす様なモノはいらないが、条件を無くそうとするとしつこそうなので、その条件で受ける事にした。
「それなら勝負してもいいですけど、次に来るのが何時になるか分からないし、どうやって判定するんですか?」
「……どちらがより活躍したかは、民や兵が判断してくれるさ」
割とマトモな判断方法な気はする、目が泳いで無ければな。
「ははは、どちらが勝つか楽しみにしているといいさ」
金ぴかが笑いながら立ち去っていった。
秘書っぽい女性と全身鎧の人は軽く頭を下げて金ぴかの後を追って行った。
紐と透け透けな人は肩を竦めて、元の席に戻っただけで、何かこっちをちょくちょく見ている。
お前らも一緒に帰れよ。
「しばらく椿殿に構いそうなので、我輩は楽になりそうなのである」
そう言ってギルも立ち上がり、2階に上がって行った。
そう言えば、ここ宿屋だったな、金ぴかは出てったって事は家に戻ったんだろう。
「夕食も食べ終わりましたし、そろそろ帰りませんか?」
「そうだね、早く帰ろっか」
紐の人と透け透けの人の視線が微妙に怖いし、さっさと席を立ち店を出た。
ちなみに、料金はいつの間にかギルが払ってくれてたらしい。
普通に一直線に2階に上がって行ったのに、本当にいつの間に払ったんだ。
あれ? そう言えば自己紹介はされたけど、俺達名乗って無い気が……まぁ別にいいか。