第27話『ギルドが使う食堂=冒険者の宿じゃね?』
ギルド前から歩いて5分と掛からず、目的地に着いた。
なかなか大きな建物で、入り口が西部劇で酒場に付いてる様なスイングドアになっている。
外から見える範囲ではテーブルや椅子は見えないものの、中から聞こえる賑やかな声と見える範囲で慌ただしく行き交う店員の様子から、かなり繁盛しているみたいだ。
「ここは外から来た登録者の方が泊まる宿なんですが、出される料理が美味しいので食事だけのお客さんも来る【止まり木の宿】です」
食事処の割にデカイ建物だと思っていたけど、宿屋だったみたいだ。
よく見ると入り口の横に、『食事無しで一泊2000Gから』と書かれている。
素泊まりで二千円相当は安い……のか? どんな感じなのか分からないから判断し辛い。
「そう言えば、宿屋なら何か目印は無いのか? 見た感じ看板も入り口の側にある料金が書かれてる奴しか無いし、他の建物とは大きさ以外はこれといって違いが無いけど」
ホミュは首を傾げて『何言ってるんだろう』と言う様な表情を浮かべて、途中で何かに気付いた様に手を叩き、宿屋の入り口を指差した。
「あの入り口が宿屋の目印ですよ、普通の家やお店はあんな風に、手を使わずとも簡単に入れる様にはなっていません」
あのスイングドアが宿屋の目印になっているらしい。
確かに今までの所は、普通のドアだったけど、もしかして常識だったんだろうか。
「あれは宿屋だけがそうなっていて、大荷物を抱えて来る方もいるので、手を使わなくても入れる様になっているんです」
荷物は宿屋に預けてから動け、と言う感じらしい、使う事は無い気がするけど、防犯面で大丈夫なんだろうか?。
「ほら? 早く行きましょう」
再度手を引かれて宿屋の中に連れ込まれた。
何か状況だけ見るとエロい、とかアホな事が頭を掠めた。
中に入るととても広く、客席が数百席はありそうだ、一部は武装している人も居るが、大半は普通の服装をしている。
ちょっと変わった服の人も居る気がするが、ちょっとエロかったり派手だったり奇抜なだけで、武器何か持ってないし防具って感じではないから、普通の服装と言える筈だ。
透け透けとか殆ど紐だったり全身キンキラキンな奴は勿論、褌姿で仮面被った男が居るのは俺の気のせいだ。
「いらっしゃいませー、宿と食事どちらをご利用ですかー?」
兎耳でバニーガールの格好をした店員が声を掛けてきた。
ウサ耳は微妙に動いてるので本物なんだろう、まさかのリアルバニーである。
チラリと下の方を見ると、尻尾も若干動いてる様に見えるので、恐らく自前だ……あれ? つまり尻尾を出す用に穴空いてる?。
「食事に来ました、2人なんですがまだ席は空いてますよね?」
「空いてますよー、隅の方は余り人気が無いので、かなり空いてますが、それ以外だと二ヶ所だけですねー」
目を凝らしてみると、微かに肌色が見える、尻尾の部分にはしっかり穴が空いてるらしい。
リアルバニーがバニーガールやると、まさかの所でチラリズムが発生するらしい。
「椿様! 隅の方以外だとあの2つしか空いてないそうなんですが、どちらにしますか?」
ホミュに聞かれてその方向に目を向けると。
金ぴかと透け透け&紐が両隣の席と褌に仮面の隣だった。
ちょっと待てや。
何でこんなに広いのに、最もやばそうな奴等の隣しか空いてないんだよ。
「別に隅の方でいいんじゃ……」
「隅の方だと注文や料理がちょっと遅れるので、帰りが遅くなっちゃうかも知れませんからダメですよ」
逃げ場が封じられた。
どちらか片方を選ぶしか無いが、どっちも勘弁して欲しい。
「じゃあ、あっちの席で」
俺が選んだ席は……。
「む? これは可愛いお客さんである、近い席になったのも何かの縁、我輩の話し相手になってくれぬか?」
席に着いた途端、話し掛けて来たのは。
褌一丁で仮面を着けた割と紳士的な口調の男性だった。
うん、透け透け&紐はまだしも、金ぴかは嫌な予感しかしなかったんだ。
別にエロい格好の2人の側だと、色んな意味で硬くなるから避けた訳じゃないよ。
「ふむ、我輩はギルバート・デュラハムである、気軽にギルと呼んで欲しいのである」
「私はホミュと言います、こちらの方は椿様です」
「佐倉椿です」
促されたので、名乗って軽く頭を下げる。
見た目だけで無く、口調まで個性的でキャラが濃過ぎるだろ。
ちなみに確実に二メートル以上はある大男だ、勿論筋肉隆々なんだが、何かマッチョな奴多くね?。
「我輩この街には一月前に来たばかりであるが、ホミュ殿は街中で見掛けた事はあっても、椿殿は初めて見るのである、最近来たばかりなのであるか?」
このおっさん、街で見掛けただけの人を覚えてるとか、見掛けによらず観察眼と記憶力が凄いな。
「用事があって最近来たばかりなんですよ、ちょっと立て込んでて今日初めて街を見て回った所です」
別に余り隠す必要は無いらしいが、だからと言って言い触らすのも何なので、それっぽい設定を考えて話す。
明らかに奇抜なおっさんに余り関わりたくない訳では無い、無いったら無い。
「ふむ、おかしいであるな? この様な面倒な時期に、お主の様な幼い男児は街を出られぬ筈なのである」
口元が引き攣った、よく考えれば当然だが、恐らく謎の襲撃者が出る状況から、街の外への出入りは制限されているみたいだ。
ギルドの登録者はまだしも、流石に子供は制限対象に入っているんだろう。
「この様な時期にお主の様な幼い男児がこの街に、もしやお主が助っ人であるな?」
何かバレ過ぎじゃないだろうか、このおっさんが鋭いのか、それとも分かり易いのかどっちなんだろうか。
「助っ人の割には無知なのであるな……もしやお主は、この国では異邦人と呼ばれている稀人であるか!」
声が大きい、と言いたいが、割と口調の強さの割には声を潜めて驚きの声を上げる、と言う器用な気遣いで叫んでいるけど。
恐らく、このおっさんは特別鋭い方なんだろう。
更に、驚きつつも声を抑えた所から、見た目に反して気が利くらしい。
奇抜な格好を除けば、結構交流するには有益な人っぽそうだ、見た目を除けば。
「幼い姿の割には落ち着きがあって、知性的であるな……この国には姿が変わる戦闘用魔道具が保管されている、と聞いた事があるのである」
鋭過ぎじゃないだろうか、もう自分から話し方が良さそうな気がする。
「この国の女王様から呼ばれて異世界から来たのも、この国の魔道具を使ってるのも正解だよ、俺の年齢はもっと上の二十代だ」
ギルは俺の言葉を聞くと、腕を組んで頷いている。
自分の推測が当たっていて嬉しいんだろうか。
「椿殿が稀人ならば、聞きたい事があるのである」
テーブルに手をついて、顔を近付けて来た。
近い近い、ただでさえデカイ男が迫ってきて、圧迫感とか威圧感が凄いのに、更に仮面で近付くな。
恐怖感もプラスされて、無茶苦茶怖いわ。
「椿殿はヒノモト出身であるか?」
……ヒノモト? 日本っぽいけど、何か他の4人の事を考えると、断言は出来ないよな?。
「日本出身だけど、日ノ本とか言われてた時もあるらしいから、似たような所から来たと言えるんじゃないか」
「おぉ! 我輩の故郷ではご先祖様がヒノモト出身の稀人から、ヤマト魂と言う男の心得を教わったのである」
あ~、うん日本を間違って覚えた外人さんみたいな雰囲気はあるな。
大和魂って言葉もあるし、男の心得なのかは分からないけど。
「このフンドシも、ヤマト魂を持つヒノモト男児ならば必須だと、古くから伝わっているのである」
完全に間違ってるって訳じゃない所が、何とも言えない気分にさせる。
少なくとも褌一丁で動き回るのは、男らしいを通り越して変態でしか無い。
「じゃあ、その仮面は……」
「おぉ! 分かるであるか! これは我輩の一族を表すお面だと稀人からご先祖様が貰った面を、一族の秘宝として保管しているのであるが、その稀人が作り出した面を模して自作した物である」
何やら自慢気に見える、仮面の性で表情とか見えないけど。
着けている仮面は、ギルの一族を表しているらしいが、何か不恰好で、どの様なお面を元に作ったのかハッキリは分からない。
額の所に突起が2つ付いてる所からすると、恐らく鬼面な気がする。
「もしかして、鬼の面ですか?」
「そうなのである! 我輩の故郷、鬼人族の集落に伝わるキメンと言う、鬼を表す面を真似て作った自信作なのである」
全てでは無いとは思うが、この世界の鬼人族は、ギルの様な勘違いした外人さんみたいな奴等ばっかりの可能性が高いらしい。
どうしてこうなったし……。
「鬼人族はキメンの様に、ここまで立派な角は生えてないのであるからして、如何に見事な角の造形を作れるか、と言う所で一族の誇りを表しているのである」
「角で一族の誇りですか?」
「そうなのである! 元々は自前の角を誇っていたのであるが、キメンを見てしまってからは自前の角では、己が角を他の者と大差無い様に感じてしまって誇れなくなったのである」
鬼人族の角は、恐らく本当に突起がある程度なんだろう。
ギルが着けてる仮面でさえ、十センチ前後位しかない様に見える、しかも先端部は余り尖って無い。
「勿論、自前の角とは違い破損しても修復は可能であるが、誇りを何度も壊すのは恥なのであるから、如何に壊さない大きさで立派な角を表現するのかが、試されるのである」
あぁ、つまり余り長く無かったり、先端が尖ってないのは、壊れ易いからって事らしい。
「そして、鬼人族の誇りの面と、男らしいヤマト魂を表すフンドシを周りに見せつける事で、鬼人族として誇り高い男を体言しているのである!」
何でこんな、奇抜な格好をしているかは分かった。
でも、流石にそれはない。
そこそこ区切りがいい所で終わらせました。
完成したのが当日で、夜は書く時間があるのか分からないので、どこまで続くか分からない部分だったので一区切り。
本当は褌一丁の仮面の隣の席に行って声を掛けられた辺りで、一端止めようかと思いましたが、流石に短過ぎるな~と思って続けました。
でも、この仮面のおっさんがガンガン喋る事、何となく頭に浮かんだ話題は、最初の1つだけで割と長引いたので、流石に今日中に書ききるのは無理っぽそうでした。