第14話『歓迎会』
お風呂を上がると、何時の間にやら綺麗になっている服を着て、ギュンターに急かされ少々急ぎ気味にお城まで戻ってきた。
案内された先は飾り付けられた大広間に豪華そうな食事が並んでいて、慌ただしい様子で更に料理が運ばれていた。
「椿君の歓迎の為に少々豪勢じゃから、余りマナー等は気にせずに楽しむといい」
そう言うとギュンターは奥の方へ消えて行き、紅葉ちゃんは料理の方へ走って行くと、ツヴァイが後ろに付いて行く。
料理を運んだり給仕をしているのは最初に見掛けた、妖精や獣人みたいなメイド服を来た子達だ、何か全体的に小さい、見える範囲で大人っぽいのは指示を出してるメイド長か何からしき狐の様な耳と尻尾の人だけだ。
「椿ちゃんは行かないのかしら? それとも初めてだし、アタシと楓ちゃんの三人と回る? アタシと二人っきりでもいいわよ」
「よく分からないし、三人がいいな」
危なかった、腕を捕まれ耳元で二人っきりとか言われて鳥肌が立った、桜と二人っきりとか勘弁して欲しい。
「私は3回目です、新しく来る度にこうやって歓迎してくれるんですよ」
つまり最初に胃袋から掴む……って連日来たら大変そうだな、少なくとも数十人前以上の数がありそうだ。
後ろを見ると、フィーア・アイン・ドライがそれぞれ俺達の隣に、キリエが入口の所に立っている。
キリエの方に目を向けると。
「あぁ、私の事は気にするな、私は隊長が来るまで、ここで待機している」
隊長さんが来るまで待っているらしいので、二人を連れて料理を食べて回る……と言ってもフィーア達も居るので六人だけど。
何やら色々な料理があって、異世界だから見た事が無い料理から日本にもある料理等も並んでいる。
一番驚いたのはドラゴンステーキと教えられた料理だ。
この世界ドラゴンが居る上に食材になってるのか、と思った。
「あら? サラ姐さんが来たみたい、あの人が魔法戦士隊の隊長さんよ」
そう言われて顔を向けると、さらしを巻いて上着を羽織った傷だらけの大柄の女性がキリエを伴って、こっちに歩いて来ていた。
その女性は目の前まで来ると、俺の脇に手を入れ持ち上げる。
「アンタが4人目かい? アタシは魔法戦士隊の隊長なんざやってるサラってんだ、よろしく! それにしてもアンタちっさいねー」
豪快で姉御肌な人みたいだ、見た目や格好を考えると姐さんとか姉御と呼びたくなる様な印象だ。
そして、この見た目の性か確実に子供扱いされている。
「俺は椿って言うんだが、魔装具とやらを着けてこんな姿になったけど、元はいい歳した大人なんで子供扱いは勘弁して欲しいんだが」
「そりゃ無理な話だ、どうしてもって言うなら侵略者共相手に男らしく戦って、アタシを惚れさせる位格好いい姿でも見せるんだね」
あの姿で格好いい姿とか無理じゃね? どう考えてもこの人の方が男らしく戦って女性のハートを射貫きそうだよ。
「アタシも部隊の立て直しやら何やらで色々立て込んでるからね、アンタ達と今度は何時会えるかも分かんないし、確実なのは次の襲撃の時位だよ」
持ち上げられた状態から降ろされ、頭に手を置かれた、とことん子供扱いされてる。
「だからアタシに子供扱いされたく無いなら、そん時が最初のチャンスって事だね、頑張んな」
乱暴に頭を撫でて、言うだけ言って立ち去っていった。
「サラ姐さんは格好いいわねぇ……アタシの格好いい女の理想像そのままなのよ」
とりあえず、お前は男だ、理想にするなら理想のおネエ像にしとけよ。
いや、あんな感じのおネエも居るかも知れないけど。
その後、騎士団の団長、副団長や戦士隊の隊長何かと顔を合わせたけど省略。
騎士団の団長は無駄にナルシストっぽい優男で、副団長は気の弱そうな青年だったし、戦士隊隊長はゴツいおっさんだった。
団長さんはナルシーとか言うそのまんまな名前で鬱陶しい感じだったし、副団長はルイスって言うらしいが……影が薄くて殆んど印象に残ってない。
戦士隊の隊長さんは、ガインとか言う割と気のいいおっさんだったが、暑苦しいおっさんで余り積極的に関わりたくない。
何せ団長さんは『次の襲撃には僕の華々しい活躍を』とか、鬱陶しい自己アピールや自慢話ばっかりだわ。
副団長は殆んど喋らずオロオロしてるだけで、唯一団長さんの話を『他にも挨拶に行かないと時間が』と言って終わらせてくれた所位しかマトモに喋った記憶が無い。
隊長さんは話そのものはまだしも、いきなり抱き締めて来るわ、力一杯背中を叩いて来るわ、暑苦しい満点だった。
そんな奴等の相手をして疲れて座っていると、ギュンターが近寄って来た、後ろには背の低い女の子が連れている。
「疲れている所悪いんじゃが、儂も紹介しておきたい者がおるんじゃよ」
ギュンターに促されて、後ろに居た女の子が前に出て頭を下げてきた。
「……魔法師隊補佐……レン……」
「魔法師隊は儂が指揮しておるんじゃが、国家魔法師として色々としなければならぬ事もあって、実質彼女が動かしておるんじゃ」
女の子の頭に手を置くと、更に続けて。
「少々口下手な所はあるんじゃが、優秀なんじゃよ、儂が居らぬ時は彼女に頼るといい」
「……老師……もう戻っていい……?」
ギュンターが困った表情で頷くと、女の子は足早に立ち去って行った。
「人付き合いが苦手な子でのぅ、出来れば仲良くしてくれればいいんじゃが」
ギュンターの立ち去る女の子の方に目を向け呟く様に言う姿は、孫を心配するお爺さんに見えた。
「おぉ、そうじゃ彼女も紹介しておかねばならんのぅ」
ギュンターは周りを見渡し誰かを探している様だ。
「向こうにおったか、他に紹介したい者がおるんじゃが、付いてきてくれんか?」
頷いて付いて行くと、隅のテーブルで空の皿を積み上げ料理を掻き込む様に平らげている作業服の様な格好をした女性が見えてきた。
ギュンターが近寄り一声掛けると、食べるのを止め顔をこちらに向けた。
「あんさんがフィーアの相方の椿ちゅう奴か、ウチは機工士の宮子や、よろしゅうな」
「魔装具は遥か昔に機械工学の産みの親、ランベルトが改修し補助用アンドロイドを作り出したんじゃが、途中で後継者が途絶えてしまってのぅ、それを迷い込んだ異邦人の如月 忍が復活させたんじゃ」
唐突に話が飛んだが、彼女に関係があるんだろう。
と言うか、機械工学の産みの親って事は魔法位しか無かった世界で、アンドロイドなんてオーバーテクノロジーっぽい物を一から作れるもんだろうか?。
「宮子君はその如月忍の血筋で、機械工学を受け継ぐ数少ない腕利きの機工士なんじゃ、じゃから魔装具の事で気になる事があれば彼女に聞くといい」
つまり、魔法の事はギュンターかさっきのレンって子に、魔装具の機能等は宮子に聞けと言う事か。
「魔装具を着けたら子供になったんだが、この姿はどうにかならないのか?」
変身した姿も聞きたい所だが、どうにも出来なさそうな気がするので、ぜめて子供の姿だけでも何とかならないかと思い聞いてみた。
「あー……外せば戻るんやけど、リセットされるから全部最初からやり直しになるで? 今の椿はんなら初回起動の強制変身からやな、外部魔力を取り込めば色々と成長するんに、それもやり直しや」
マジか、今の所特に一時的に戻る理由が無い事を考えると、無駄にあの変身シーンを最初からやらされるのは勘弁願いたい。
更に時間が立つ程、外すと上げたレベルが1レベルに戻る様なものらしいので、戦いが終わるまで外すのはリスクしか無いみたいだ。
「あっ──確か取り込んだ魔力をつこうて一時的に戻るんは、出来たんやないかな?」
勢い良く振り返り、後ろに付いて来ているフィーアに目を向ける。
「椿様から見て改造の項目にそれに当たる機能が存在しますが、現在改造は使用出来ません、スキル欄から改造機能を習得が必要です──残念でしたね」
口元を吊り上げたフィーアから、何やら生暖かい眼差しを感じる。
そうか……しばらく使えない訳か……
遠い目で呆けていると、いつの間にか歓迎会が終わっていた。
そう言えば、楓達3人の自己紹介の時に振り仮名付けて無かったなーと思って振り仮名を追加。