第13話『お風呂巡り 後半』
再生の湯に到着すると、潜っていたのか上部から顔を出した桜の姿が。
「ぷはっ──あら? 3人揃ってどうしたの? もしかしてアタシに、その可愛い水着姿の椿ちゃんを見せに来てくれたの?」
「そう言えば、なんで椿はそんな格好なの?」
んな訳なかろう、何て恐ろしい事を言うんだこいつは、そして今頃聞くのか紅葉ちゃん。
俺の代わりに事情を説明している楓ちゃんを横目に、一応桜の姿を観察してみる。
赤のブーメランパンツな水着だ、以上……余り長い事見ていたく無い、桜が今入ってる再生の湯が淡く光ってる性で、淡く光の中のブーメランパンツの細マッチョな男──誰特だよ。
「情けないわねぇ……紅葉ちゃんは別格でしょうけど、アタシも楓ちゃんも流石に立てない程に疲弊したりしてないわよ?」
「情けないぞー」
「きっと体が小さくなってる性じゃないでしょうか?」
無茶言うな、心の準備も無くあんな絶叫マシンも真っ青なコース滑らされたんだから当たり前だろ。
まぁ、元から無い体力が楓ちゃんが言う様に更に無くなってる気はするけど。
「紅葉さん、椿さんは疲れてるんですから早く入れてあげて下さい」
「そうだった、えいやっ!」
「あっ──そんな乱暴にしちゃダメですよ!」
放り込まれ一瞬溺れ掛けたが、楓ちゃんが抱き上げて顔を出してくれた……何故かお姫様抱っこで横に。
微妙な気分だったが、少しすると動かせなかった体から疲労が抜けて来たのか、動く様になってきた。
じわじわと体の疲れが取れて来る様な感覚がするから、このお風呂? の効果みたいだ。
「このお湯ったら、体の疲れは取れるしお肌の艶が良くなるから最高なのよー」
桜はご機嫌な様子で語っている、確かに肌の気になるある程度以上の年齢の女性やオネエ系な方には大人気になりそうだ、主に美肌的な意味で。
若い楓ちゃんは多少気にしているが、入り浸る程じゃないらしい、紅葉ちゃんはそもそも興味が無いみたいで潜って楽しそうに泳ぎ回っている。
「次はキリエさんの居る電流の湯に行ってみましょうか」
「アタシも一緒に行こうと思ったけど、アソコに行くなら止めとくわ」
「俺も若干嫌なんだけど」
嫌な予感しかしないので、一応主張してみるが。
「一度経験してみた方がいいですよ? 入らずに毛嫌いしてちゃダメです」
やっぱり引っ張られて連れて行かれた、桜は手を上げ軽く振って見送っている、隣で紅葉ちゃんが顔を出して桜が手を振っているのを見て俺達に気付いたらしく、慌て追い掛けて来る。
電流の湯が目に入った時に、キリエがお湯から頭だけ出してうつ伏せに寝転がってるのが見えた。
近付いている途中で俺達に気付くと、慌てお湯の中に入り上部から頭を出した。
わざわざ立ち上がったらしい。
「ココは素人にはおすすめしませんよ? ウチの団員でも、この湯の良さが分かるのは半々ですから」
素知らぬ顔で話し掛けられた、しかし耳が伏せられ尻尾は丸くなっている様子から恥ずかしいみたいだ。
電流の湯に近寄ると、楓ちゃんや紅葉ちゃんは入らないらしく後ろで見守っている。
恐る恐る指を入れてみるが、若干ピリピリするものの良く分からない。
思い切って手首まで入れると──手がビクッとした。
例えるなら低周波マッサージ器みたいに手がビクビクとする感じだ、全身まで入ったらお湯の中で動けなくなりそうな気がする。
入ってるキリエをよく見ると、余り動いて無いが、さらしを巻いた胸は上下に揺れている。
締め付けてはいるが、基本脂肪な為に動くのを抑えられないと言う事だろうか?
動くキリエの胸をじっと見つめていると。
「えいっ!」
紅葉ちゃんに突き飛ばされて頭からお湯の中に突っ込んだ。
「○×▲□◆っ!?」
全身がビクビクと勝手に動いて身動きが取れず、水の中で言葉にならない声が漏れる。
幸いすぐにキリエから救出されて溺れる事は無かったが、死ぬかと思った。
「ごめーん、何か全く動かないからまどろっこしいと思ってやっちゃった」
『あはははっ』と笑って謝られた。
俺も胸を凝視していた後ろめたさから、『いえ、グダグタしてた俺も悪いんで』と口元を引き攣らせながら返した。
「次はアイン達が居る所にしましょうか」
そう言えば、フィーア達アンドロイド組も一緒に来た筈なのに一度も見ていない。
「フィーアとか他の子も同じ所に居るのか?」
「僕のツヴァイも桜のドライも一緒だと思うよー」
歩き出した楓ちゃんに付いて行きながら尋ねると、紅葉ちゃんから全員一緒だと言われた。
「アイン達が毎回居るのは一番奥なんですよ」
「ツヴァイ達位しか入らないから隅っこに作られたって聞いたよー」
今までは少し歩いただけなのに、着くまでに数分は掛かった、風呂場の中で歩く距離としてはちょっと遠過ぎじゃないだろうか。
着いた所は隅の方にぽつんと佇む扉の前、また個室か。
開けると、部屋全体がぼんやり光る空間で、何か微妙に目に悪そうだ。
「おや? お嬢様に紅葉様や椿様まで、何かご用ですか?」
「ちょっと椿さんを案内してたんです」
彼等は座りもせずに、直立状態で目を瞑っていた、入って来たのに気付いてアインが片目を開けて話し掛けて来るが、他の三人は目を瞑ったままだ。
四人共同じ様な格好で全身タイツの様な姿をしている。
赤、青、緑、黄色とカラフルだ、お前らは戦隊ヒーローか。
何か微妙な格好だな。
「ココは魔力部屋と言うらしいんですが、魔力を遮断した密閉空間に純粋な魔力を満たしただけの部屋だそうです」
「私達の様な魔力で動く者には動力である魔法炉で最低限の魔力は確保されていますが、より良い状態にする為魔力は不可欠なので私達用に作られた、他の者には意味の無い部屋です」
この部屋全体がぼんやり光っているのは魔力で満たされているかららしい。
大気に満ちる魔力を全身から吸収しているみたいだ、充電している様な感じなんだろう。
「お嬢様達には何の意味も無い所ですから、余り長居せずに早めに他へ行かれた方がいいですよ」
そう言うとアインは目を閉じて喋らなくなった。
「余り邪魔してはいけないですし、次に行きましょうか」
うん確かに、さっきから紅葉ちゃんが目を瞑って佇む他の三人の頬を突ついたりしているし、どう考えても邪魔だろう。
部屋を出ると。
「そろそろご飯の時間なので、次で最後ですね」
「もうそんな時間なんだ……僕は最後にもう一回滑って来るね」
紅葉ちゃんは俺達に手を振って走っていった、仮にも風呂場の中で走るなよ。
「最後は普通のお風呂がいいですよね? 露天風呂みたいな所があるんですよ」
楓ちゃんが今まで以上にぐいぐい引っ張って来る、何か頬を赤く染めて嫌な予感しかしない。
見えて来たのは、一戸建ての平屋? 室内に建物が建っている。
「ココは水着禁止なので中にある脱衣場で水着を脱いでから入るんです、男性と女性で入口が別なので、また後で合流しましょう」
そう言って離れて行く楓ちゃんを見送って、中に入った。
中に入ると小さな部屋に木製のカギの小さなロッカーが並んでいる。
壁には『水着禁止、脱いでから入って下さい』と書いた張り紙が、更に小さく『混浴』と書いてある。
少々悩んだが、時間が無いなら大丈夫だろう、と軽く考え手早く脱いで浴室に続くガラスの引き戸を開けた。
中に入ったのに、頭上に星空が広がっていた。
一瞬固まったものの、『魔法だしな』と深く考えずに周りを見渡す。
目の前に普通の露天風呂があったので入ると、引き戸が開く音がした。
「先に入ってましたか」
タオル一枚で体を隠しただけの楓ちゃんが入って来た。
湯船に浸かる瞬間にタオルを外したので、勢い良く顔を逸らす。
「いい景色ですよね」
そう言いながら近寄って来る音が聞こえる。
「こっち向かないんですか?」
背中に密着して胸を押し付けて来る、生の感触がががっ。
「おーい、そろそろ上がらぬと飯を食い損ねるぞー」
固まって居ると、何処からかギュンターの声が聞こえて来た。
「他の所で時間を使い過ぎました……」
楓ちゃんの呟く声が聞こえる、時間があったらやばかったかも知れない。
予想以上に積極的で今度から気を付けよう、と思いつつコソコソと露天風呂から上がった。
タイトルが思い付かなかったので前半、後半に。
ちょっと前話のタイトルに前半足しておこう。
お風呂だけで2話……やっぱり1話が短いのかな?