第107話『ギュンターの魔法教室』
前回、菊次郎爺さんがやっていた両手を使う、と言う方法を試してみたら、思いの他やり易く倍の半分位の大きさを作る事が出来た。
しかし、このやり方は少し問題があったりする。
通常、魔力のコントロールのみで圧縮する中で、両手の場合は両面から干渉するのでやり易くなる訳なんだが、逆に言うと両面から干渉出来る状態で無ければ、両手の時より魔力の制御力が落ちる訳になる。
つまり、圧縮の技術向上には余り役に立たないのだ。
練習と言う意味では何の意味も無く、練習の最後に仕上げとして、どの段階まで圧縮出来るか試してみるついでに、両手でする方法の限界を調べておく位で十分だろう。
「お主ら全員、なかなかスジがいいのぅ、これなら次に移っても問題無さそうじゃ……とは言っても、次は魔力量が不足気味なミーシャ君以外には、僅かな恩恵しか無い事なんじゃが」
「あ、あたしですか!? あっ……もしかして魔力量を増やす方法がっ!!」
いや、そう簡単に増える訳……。
「その通りじゃよ」
あるんだ、魔力量増やす方法。
「増やす手段自体は幾つかあるんじゃが、今回は魔力制御の技量が一定以上あり、尚且つ時間が掛かる為に根気と忍耐が必要となる方法じゃ」
時間が掛かるんじゃ、俺達にはあんまり向いてないな……幾ら元が増えれば魔装具でより魔力の総量が増えるとは言え、そんな時間を費やすなら技術磨けって感じだし。
「まずは、体内に巡る魔力を体外に出し霧散せぬ用に周囲に纏わせる様な状態を維持させ、体外の魔力を浪費させぬ様にする」
ギュンターの体を覆う様に、黒いモノが漂い始めた。
多分、それなりの濃度な為、目に見えて分かるが、ある程度以上の魔力を出さないとパッと見分からない感じになりそうだ。
「この状態を最低1時間は維持出来なければ、失敗じゃ」
長っ! 結構な量の魔力を出した上で無駄にならない様に維持するのって、かなり難し目だと思うんだが。
ぶっちゃけ1つに纏めない分、魔力弾を維持するより難しい。
むしろ何で1つに纏めないのか……と言いたい所だが、魔力弾として纏めると飛ばす為に外殻を補強しないといけない為、魔力を消耗させない様に纏めずに、体を囲う様に魔力を漂わせているんだろう。
更に魔力の浪費を抑える為に、絶えず流動させているらしく、黒い魔力が体を中心に流れているのが見える。
「この時間は魔力の自然回復を待っておるんじゃ、体内に残る魔力の割合が少ない程回復量が増すので、出来るだけ魔力を体外に出すと効果が高い……まぁ、今回はお手本じゃから待つ時間は省略するとして」
ゆっくりとギュンターの周囲に渦巻く魔力を、吸収し囲う様に存在した魔力が無くなって、ギュンターの姿がよく見える様になった。
「最後に許容量を超えた分を漏らさぬ様に、体内に留め続ける訳じゃが……許容量を超えた魔力を保持する事で魔力の容量を増やす、と言う方法じゃ。
勿論、許容量を超えるんじゃから圧迫感等を感じるが、それに耐え違和感を感じず魔力が漏れそうにならなければ成功となる」
柔軟体操みたいなモンらしい。
もっと言えば、風船を膨らませる様なモンで、伸ばし続けて限界を増やす方法の様だ。
割れたりしないだろうな……。
「勿論、許容量を超えるからには危険性もあるんじゃが、圧迫感や吐き気等の類いであれば問題無い。
しかし、僅かでも傷みを感じた場合は許容量を大きく超えたか、体に馴染み切る前に行った為、魔力の器が脆くなっておる証なので、しばし馴染ませる為に行わぬ様にする事じゃ。
下手に続けると器が壊れ、魔力を体内に留めて置く事が出来ぬ様になってしまう」
へぇ~……ってもう他の奴等始めてるっ!?。
安定の菊次郎爺さんは、水色の魔力が一定の速さで渦巻いている……まぁそれでもギュンターと比べると色が薄い為、普通に姿が確認出来る。
次に安定しているのは、まさかの紅葉ちゃん。
割と瞑想の類いは得意なのか、菊次郎爺さんと余り差が無い位に安定して緑色の魔力が渦巻いている。
2人の違いは、若干菊次郎爺さんより色が薄めな位か?。
2人と同じ様に安定しているのは、ミーシャだ。
2人との大きな違いは濃度だろうか? 周囲が若干赤みがかっている位で、姿が丸見えである。
桜はそこそこな感じだ。
黄土色っぽい魔力が渦巻いているが、微妙に形が歪んでいて少し危なっかしい。
まさかの楓ちゃんは、周囲を渦巻く赤色の魔力の形が大きく崩れ、形を直しては崩れ直しては崩れ、と頻繁に歪んでいる。
俺はどうかって?。
……ちょっと歪んでる。
楓ちゃんの気持ちが分かった、歪んだ部分を直そうとすると、別の所に歪みが出て形を整えられない。
むしろ、多少歪んでても維持させる事に意識を向けてれば、そのまま維持出来るから多少の歪みは放置した方が楽になる。
多分、楓ちゃんはその歪みを直そうとしているからこそ、形が整っては崩れと言う事を繰り返しているんだろう。
割と真面目な几帳面っぽそうだからな~。