死神、厄介事に巻き込まれる 前編
「くぁぁ…まとまった休暇の時はろくな事が起きないんだよな…」
虚空は軽く伸びをしながら呟いた。
先日、映姫に三日間休暇を取るように、と言われたのだった。
『あなたは本当にこっちが言わないと際限なく働くんですから…休む事も必要です!』
「半ば追い出される感じだったな…しかし、どうしたもんか…」
林檎を齧り、咀嚼する。
前回、まとまった休暇が入った時にはあの天人がまた神社を壊して修繕作業を手伝わされた事を思い出す。
「…とりあえず散歩にでも行くか」
立ち上がり、黒いコートに袖を通した。
「さて、行く当ても無いが…この時間はレミリア達の活動時間で無いしな…」
森をふらふらと彷徨いながらどうしたものか、と虚空は思案する。
と、微かに誰かが叫ぶような声がした。
「…厄介事のにおいしかしないが、無視する訳にもいかねえよな…」
叫び声のした方角へ向かう。
そして、少し開けた所に、少女が二人居た。
「どうしたんだ?」
「えっと、魔理沙が、魔理沙が大変なのよ!」
「とりあえず落ち着け!…で、魔理沙は何処に、」
虚空が魔理沙の居場所を聞こうとした時、コートが引っ張られるような感覚。
サイズの合っていない、魔理沙の服を着た金髪の女の子が、虚空のコートを引っ張っていた。
「…マジか」
虚空と、叫んでいた少女アリス、そして、金髪の小さな女の子はアリスの家に一旦場所を移す事にした。
「まぁ、察しはついたが…このちっちゃいのは魔理沙なんだな?」
「ええ、そうよ。とりあえず、本人は元気そうだけど」
二人の視線の先には、美味しそうに切った林檎を頬張る少女がいた。
「これ、おいしいな!もっと食べたい!」
「はいはい、今切ってやるから待ってろ」
慣れた手つきで、虚空は林檎を八等分にして、皿に置いた。
「さて、どうしてこうなったのか説明してくれるか?」
「ええ、分かったわ…私は魔理沙に付き合わされて、一緒にキノコ採取をしてたのよ…」
「ふふ、今日も沢山採るぞー!」
「何で私まで付き合わされなきゃいけないのよ…」
「たまにはいいじゃないか。さて、面白いキノコは無いかな…」
森を二人で散策する。
と、ガサガサと茂みが揺れた。
「お、何だ?……はぁ!?」
「え、何これ!?」
茂みから現れたのは、キノコだった。
紫がかっていて、何もしていないのに動いていた。明らかに怪しかったのだが…
「おぉ、見たこと無いキノコだ!早速採るぜ!」
「あっ、ちょっと待ちなさい!」
そして、魔理沙がキノコに触れようとした瞬間ーーー
「魔理沙が縮んでいた、と…」
「ええ、いきなり変な効果音と一緒にね。性格は、元から子供っぽかったけど、今は完全に子供ね」
「えへへー、このりんごすごいおいしーい」
(にわかには信じ難いが…嘘を言っているようには見えないな)
「…とりあえず、原因を調べていった方がいいだろう」
「そうよね…でもその前に一ついい?」
「何だ?」
「ほら、あのだぼだぼな服のまま連れ歩くのもあれだし、着替えさせたいの」
「そうだな…けど服はあるのか?」
「一応、ちょうど良さそうなのがあるわ」
「お待たせー」
魔理沙が着ているのは、白のブラウスに青いスカート、頭には青い大きなリボンが着けられていた。
「私が魔界に居た頃の服を着せてみたわ。サイズぴったりだった。…すごい可愛いわ」
「…おい、目が怖いぞ。魔理沙も何か怯えてるし」
魔理沙は虚空に隠れるようにして、アリスを見ていた。
アリスの目はギラギラとしていて、今にも襲いたいというような感情が溢れていたのだった。
「…はっ、危ない危ない」
「まったく…さて、とりあえず神社に向かうか」
「何故神社に?」
「その魔理沙が採ろうとしたキノコが、まだあったとしたら異変の引き金になりかねないから報告だ。…後は、呪いの類の可能性もあるからな」
「確かにそうね…とりあえず行きましょうか」
「お、おおー!とんでるー!すごい!」
「こら、あんまり暴れるなっての」
「ああ、可愛い…」
「アリスも少し落ち着け」
「あう」
とりあえず神社に向かうため、ゆっくりと飛行する。
ちなみに現在魔理沙は、虚空が背負う形になっていた。
「わー…じめんがあんなに遠いよお兄ちゃん!」
「お兄ちゃん、ねぇ。俺はお前の先祖の先祖の先祖ぐらい前に生まれたんだけどなぁ」
「…ねぇ、私の事はアリスって呼んでね」
「うん、分かったアリスお姉ちゃん!」
「ぐはっ!?」
アリスお姉ちゃん、と呼ばれたアリスは吹き出して墜落しそうになった。
何とか体勢を立て直す。
「…大丈夫かよ」
「今のはなかなかのダメージだったわ…可愛すぎよ反則よ」
「んー?」
神社の境内にゆっくりと着地し、虚空は魔理沙を下ろす。
すぐ横に、アリスも降りてきた。
「さてと、霊夢居るかー?」
「はーい…あら、虚空が来るって珍しいわね。ってアリスも一緒って、また珍しいパターンね。何の用?」
「えっとだな…」
虚空とアリスは謎のキノコによって幼児化した魔理沙の事を話す。
「じゃあ、そのちっちゃいのが魔理沙なの!?…可愛いわね」
「お姉ちゃん変な服ー」
「………」
「おいこら弾幕はやめろ。今の魔理沙はただの子供なんだから」
「ぐ、仕方ないわね…」
「でも可愛い顔してるー」
「………」
「わ、何お姉ちゃん!?」
気づけば霊夢は魔理沙を抱きしめていた。
「何この可愛い生き物…」
「本当に可愛いわよね…」
「おーい、帰ってこーい」
ミニ魔理沙の可愛さ振りまき無双はまだまだ続きます。