死神、紅魔館へ赴く 後編
「本当に久しぶりね、三ヶ月ぶりくらいかしら?昼間に人里に行ったりしてたみたいだけど、何で来なかったの?」
「今回みたいに次の日が休みって決まってる方が珍しいからな。唐突に上から休めって言われる方が多いし」
「忙しいのね…ま、いいわ。とりあえず…」
レミリアは椅子から立ち、わざわざ虚空の膝の上に座る。
「…撫でてもいいのよ?」
「お言葉に甘えて」
ゆっくり優しく、レミリアの頭を撫でる虚空。
「私より年上で、こんな風に接する事が出来るのは虚空だけだからね…」
「はいはい、前回もそれ聞きましたよ」
「私より年上のは大体何処かの長だったりするから、あんまり甘えたり出来ないのよね…」
「霊夢には甘えてるじゃないか…」
「霊夢は私のお気に入りだけど、甘えきれないのよね…」
「お嬢様、紅茶をお入れ…ってまたそれやってるんですか」
「だって久々なんだもの。咲夜に同じ事させたら咲夜の方が大変な事になるでしょう?」
「…うぅ」
咲夜が来た頃には、レミリアは虚空の膝枕で寝転がり、撫でられて表情が蕩けていた。
「よいしょっと。…さて、パチェの所に行くんでしょう?」
「うん、そこで皆で紅茶飲むの?」
「そうね。…さっきから林檎の甘い匂いもしてるし。アップルパイかしら?」
「はい、先程虚空様からいただいた林檎を使って今焼いている所です。…図書館の方にお持ちすればいいんですね?」
「そうして頂戴。私達は先に行って待ってるから」
「かしこまりました、お嬢様」
「パチェ、入るわよ」
「…あら、珍しいわね…ってもっと珍しい客人も居たのね。最近見なかったから少し驚いちゃったわ」
「無表情で言われてもなぁ…」
図書館の主、パチュリー・ノーレッジは、本から視線を外して、虚空達の方を向く。
「少し休憩にしようかしら…小悪魔、テーブルを片付けて頂戴」
「わかりましたー」
「どうせここで紅茶を飲むつもりだったんでしょう、レミィ」
「さすが、私の親友ね」
「だって虚空が来た時はいつもここで紅茶にしてるじゃないの」
「え、そうだったっけ?」
確かに、虚空が来た時は必ず図書館でティータイムになっていた。
「アップルパイが焼けるまでは、まだ時間がかかるみたいね」
「あー!虚空久しぶりー!」
「ぐぉあ!?」
突如超高速で飛来した何かに、虚空は反応する暇すら与えられずに椅子ごと吹き飛ばされた。
「…え、フラン今ここに居たの?」
「ちょっと前に絵本読みたいって来てたの忘れてたわ。…虚空には悪い事したわね」
「あー…いてえ…」
「虚空ー、元気だったー?」
「あぁ、元気だったよ。フランも元気そうで何よりだよ」
虚空は腰のあたりに抱きついている飛来物体、もとい悪魔の妹フランドール・スカーレットの頭を撫でる。
「えへへー、やっぱり撫でられるの好きー…」
「アップルパイ焼けましたよ…って結局全員揃ってますね」
「そうね、…美味しそうな匂いね」
「俺の家じゃ作れないからな、アップルパイは。味を堪能させてもらうとするか」
「わぁ…中の林檎って、虚空が持ってきてくれたやつだよね。おいしそーう!いただきまーす!」
「あぁもうフラン、がっつかないのはしたない!」
焼きあがったアップルパイを囲んでのお茶会。
虚空が紅魔館に来た時の恒例行事になりつつあった。
「相変わらず、忙しいみたいね。今回はいつにも増して期間が長かったみたいだけど」
「彼岸での仕事が溜まってたんだよね。まぁ、俺のせいでは無いんだが…」
「…何でこうも、同じ死神でもここまで違いが出るのかしらね」
「ねえ虚空、また本読んでくれるー?」
「うん、いいよ。食べ終わったら、読んであげる」
「わーい、ありがとー!」
お茶会の後、虚空はレミリアとフランに本を読み聞かせていたのだが、途中で二人とも寝てしまっていた。
虚空は二人を自分に寄りかからせて、ゆっくりと頭を撫でる。
「あらあら、やっぱり二人とも寝ちゃったのね」
パチュリーが、レミリアの頬をつつくと、「うー」という可愛らしい唸り声をあげる。
「さて、今回はどんな本を読むの?」
「んー、新しく入った小説とかあるかな?あと料理の本」
「つまりいつも通り、と。そう言うと思って用意してあるわよ。小悪魔」
「はーい。よいしょっと」
虚空の前に十冊ほどの本が置かれる。
「期間が開いた割には、少ない気がするんだけど…」
「文句なら魔理沙に言って頂戴、貴方が読むと思って分けておいた所から盗っていったのよ」
「相変わらずやってるのかあいつは…節操ないな本当に」
「全く、迷惑だわ」
「…でも、内心来てくれて嬉しいと思ってるんだろ?」
「な、何言ってるのよ!」
むきゅう、という効果音付きで、パチュリーは赤面した。
虚空が小説を全て読み終え、料理本を眺めていると、レミリアが目を覚ました。
「うー…何時の間にか寝ちゃってたのね」
「慣れない事するからだよ」
「うー…反論出来ないー…」
レミリアが起きた事で体を動かした事によって、フランの頭がぽすんと虚空の膝に乗った。
「あらあら」
「…フラン、だいぶ前から起きてたみたいだな」
「ええ、虚空が来るって聞いて興奮してたみたい」
「…部屋に運んでやるかな。もうすぐ夜も開けるみたいだし」
「そうね。…その後、私が寝るまで居てくれるかしら?」
「…いいよ、寝るまで撫でてあげる」
「…ありがと」
「本日はありがとうございました。お嬢様達も、楽しかったみたいです」
「咲夜ちゃんも、楽しかった?」
「お嬢様が楽しまれているなら、私も楽しいですよ」
「…相変わらず素直じゃないなぁ」
「わ、やめてくださいよ…」
わしゃわしゃと咲夜の頭を撫でる虚空。
夜は既に明けて、朝の日差しが眩しいくらいだった。
門の前で、虚空は咲夜と美鈴に見送られている。
「照れてる咲夜さん可愛いぐぼあっ」
「き、気をつけて帰って下さいね。まぁ虚空さんなら心配ないでしょうけど」
鳩尾に肘鉄を食らって悶絶する美鈴をよそに、咲夜は虚空に言葉をかける。
「分かってるよ。また今度、遊びに来るよ」
「あっ、そうだ。これお土産に持っていって下さい」
虚空が林檎を持ってきた籠に、包みが入れられる。
「小分けにしたアップルパイです。皆さんで食べて下さい。冷めても美味しいように作りましたから」
「うん、ありがとう」
「もぐもぐ…確かに美味しいですね。こんなお菓子もあるんですね…」
お土産にもらったアップルパイの最後の一個を頬張りながら、四季映姫・ヤマザナドゥは感心していた。
「今度またお土産でもらってきましょうかね」
「はむ、むぐむぐ…はぁ、休憩に甘い物はやっぱりいいですね…」
「…映姫様?」
「はっ…こほん。いい休暇を送れたようですね。息抜きもバッチリのようですし…」
「そうですね。…ところで、小町は?」
「…流石に無理に働かせすぎました、今そこで休ませてます」
映姫が指差した所には、うなされながら眠る小町が居た。
「…まぁ、自業自得ですよ。自分が仕事溜めてたせいでツケが回ってきた訳だし」
「まぁ確かにそうなんですけどね…じゃあ、今日のお仕事もお願いしますね、虚空」
「了解です、映姫様」