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死神、紅魔館へ赴く 前編

「虚空ー、交代の時間だってさー」


虚空が三途の川付近で川を渡る魂を整頓させる仕事をしていると、上の方から六花の声がした。


「お疲れさん。夜勤か…頑張れよ」

「頑張れって言われてもなぁ…渡すのが小町だからどんどん魂が集まってきちゃうんだよねぇ…」

「…まぁ、仕方ないさ」


そう言って、虚空は六花に林檎を渡す。


「ありがとー…そういえば久々に休みなんだっけ、虚空は」

「予定された休日は確かに久々だな」

「どっか行くのー?」

「…いつもの所、かな。じゃあな。説教食らわないように、しっかりやれよ」

「わかってるよー!」


虚空は手をひらひら降って、帰路についた。


「さてと、こんなもんでいいかな…」


虚空は家に帰ると、すぐに外出用の服に着替えた。

今日は、赤いコートを羽織っている。紅魔館へと赴く時は、いつも赤のコートを着ていくのだった。


「林檎は…このくらいでいいか」


籠いっぱいの林檎を見ながら呟く。


「しかし、本当に久々だな…また心配されるかもなぁ。いや、怒られるか…?」


籠を手にとって、家を出る。

湖の方面に向かって、歩き出した。

途中、人里を経由するが、昼とは違って、夜は閑散としている。


それぞれの家屋からは、家族が団欒する声が漏れ聞こえるくらいだ。


「ん、夜は出歩くと危ない…って虚空か。こんな時間にどうしたんだ?」


警護団の先頭を歩いていたのは、上白沢慧音と、藤原妹紅だった。


「パトロールご苦労様。…明日は休みなんでな、今から紅魔館に行く所だった」

「…ああ、そういえば休みが決まってる時は行くんだったっけか。まぁ虚空なら大丈夫だとは思うが、気をつけろよ」

「分かってるよ。そっちも頑張ってな」


虚空はまた湖の方へ歩いていった。


「慧音、いつも聞きそびれてたんだが、何であいつは紅魔館に?」

「ああ、彼は確か紅魔館の中の図書館に用があると言ってたな。あそこの主人…レミリアとも仲が良いらしい」

「ふーん…」


鬱蒼とする森の中に、虚空の足音だけが響く。


「満月にだいぶ近いな…月明かりが強めだ」


と、いきなりその月明かりが何かに遮られる。

上空に、闇の塊が浮いていた。


「…ルーミアか」

「あたりー」


闇が収束して、金髪の可愛らしい女の子が現れる。

ルーミアは闇を操る妖怪だ。


「久しぶりだね。元気だったー?」

「まぁ、それなりにはな。ルーミアは…うん、見た目で元気って分かる」

「えー、聞いてくるかと思ったのにー」


むーっと、頬を膨らませるルーミア。


「悪い悪い。…ほら、林檎やるから」

「わー、ありがとー」

「そういえば以前、氷精達と遊んでいる所を見かけたが…」

「チルノや大妖精はお友達だよー。チルノは少しお馬鹿さんだけどねー」

「…俺はお前が自分の能力で前が見えずに木にぶつかる所を見たんだが」

「え、恥ずかしい所見られちゃったなぁ…」


虚空とルーミアはそれぞれ林檎を齧り、並んで歩いている。


「やっぱそのリボンのせいで制御が効かないのか?」

「うーん、一応の制御は出来るけど、狂わされる感じかなー…能力が強すぎて」

「成る程ね。…しかし、あんな笑顔も出来るんだな」

「んー、なんていうか、あの子達と遊んでいると、無駄な事考えるのも何だかなって感じになるんだよね」

「…はは、確かにな」


ルーミアが今見せている表情は、普段の物とは違い、大人びている。

それは、永い時間を生きる妖怪が見せる物に近い。



暫く歩くと、月明かりに照らされた紅い館が見えてきた。


「さてと、久々にお話できて楽しかったよ。…もう一つ、林檎貰っていい?」

「ん、いいよ。…そうだな、今度は昼間に来て氷精達と一緒の時にでも来ようかな」

「もしかしてその時の私の事を話のネタにするつもりでしょ。意地悪だなぁ」

「はは。…たまには何も考えず遊んでみるのも良いかなと思っただけだよ。じゃあまた今度な」

「うん、またね。優しく幻想郷を見守る死神さん」


森の闇に、ルーミアは紛れていった。



館の門の前に到着した虚空が見たのは、いつもの門番だった。


「んがー…咲夜さーん…」

「ったく、いつもこうだよな…門番としての役目をなしてないっつーか…」


虚空はゆっくり近づいて……


「…ふー」

「うひゃあぁぁぁ!?」


耳に息を吹きかけた。


「おはよー、美鈴。久しぶり」

「こ、虚空さん…!何でいつも普通に起こしてくれないんですかー!」

「魔理沙のマスパよりはマシだろ。あと門番なのに寝てる方がおかしいだろうが」

「むぐ…」


虚空の正論は、美鈴の反論を許さなかった。


「さてと…、咲夜さんを呼んできてくれないか?」

「その必要はありませんわ。ようこそ、虚空様」


いきなり、美鈴の前に紅魔館のメイド長、十六夜咲夜が姿を見せた。


「さ、こちらに。…荷物も預かりますね」


虚空の持っていた籠を、咲夜は受け取った。


「美鈴、しっかり門番の仕事をしてちょうだいね」

「わ、わかりました…」

「さ、こちらにどうぞ虚空様」



「虚空様、私の仕事、というか楽しみを奪わないでくれませんか…?」

「たまにしか来れない俺にとってもちょっとした楽しみなんだよ、美鈴をどうやって驚かせて起こすか考えるのは」


紅い廊下を並んで歩く。

途中で、何人かのメイド妖精とすれ違う度に、虚空は挨拶を交わした。


「メイド妖精も最近はしっかり働いてるのか?」

「一部はね。でも他はあんまり働きは期待できないわね…」

「大変みたいだな、相変わらず」


ポンポン、と咲夜の頭を優しく叩く虚空。


「…もう、やめてくださいよ…」

「ふふ、優しくされるのに弱いのは相変わらず、か」

「…っ!意地悪です…」



「…じゃあ私はこの林檎でアップルパイを作ってきますので、失礼しますね」

「ん、案内ありがとう」

「というかいい加減覚えられないんですか、館の構造を」

「んー…覚えても良いんだけど、そしたら咲夜ちゃんをからかえなくなっちゃうからねぇ」

「…もう、本当に意地悪です!」


そう言って、咲夜は姿を消した。

おそらく、時間を止めて移動したのだろう。

と、部屋の扉が開いて、館の主人が姿を見せた。


「ちょっと、私の可愛い従者をあんまり苛めないでくれるかしら?」

「すまんね、でもああいう姿も新鮮だろ?」

「ま、確かに私でもあんまり見ない姿だしねぇ…とりあえず部屋に入りなさいな」







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