死神、復活した者達と邂逅する 前編
命蓮寺で一日世話になってから、一月が経過しようとしていた。
虚空は、以前持たされたカレーの鍋を籠に入れて、命蓮寺へと向かっていた。
「…なるべく早くしようと思いながら仕事してて、結局一月かかってしまったな…六花はあれからちゃんとしているが、小町がな…」
六花がほぼ毎日朝食を貰いに来ているのは気のせいだ、と軽い現実逃避をしつつ歩いていると、大きな挨拶が向こうから聞こえてきた。方角からして、命蓮寺の近くのようだが…
「…ふむ、新入りでも入ったか」
林檎を一口かじって、そう呟きながら歩みは止めない虚空であった。
◆
「おはよーございます!!!」
「うおっと…おはよう。…君は?」
「幽谷響子、山彦です!」
「…なるほどな、だからあの大声か。納得だ」
「……?」
「ああ、気にしないでくれ、独り言だから…」
「おーい、響子。門前の掃除は終わった?」
「もう少しで終わりますよー!それと、お客さんが来てます!」
「お客さん?…って、虚空さんじゃないですか。久しぶりですね」
「そちらも元気そうでなによりだ」
命蓮寺に住まう舟幽霊、村紗水蜜は虚空の姿を見て、表情を綻ばせるのだった。
「ほら、カレーの鍋だ。美味しかったよ」
「ふふふ、それは良かったよ」
「半分以上は六花に食われたけどな…」
「あー…だからちょくちょく食べに来るんだ…毎日は作ってないのに…」
「あいつ、ここにも飯をたかりに来てるのかよ…」
被害者がここにも居たのかと、頭を抱える虚空であった。
◆
「へー、今日は休日だったんだね」
「ああ。それで、この一月で何か変わった事はあったか?」
「えーと、響子が来たのと…ああ、そうだ!異変が起きたんだよね」
「そうなのか。…それで、今回は…」
「きゃぁぁぁぁ!やめてって言ってるでしょー!!」
悲鳴は、墓場の方向から聞こえてきた。小傘が騒いでいるようだが、他にもう一人の声がしている。
「…ぬえではないよな」
「ああ、異変に関連してるから行ってみるといいよ。墓場にキョンシーが増えてるから」
「キョンシー?」
◆
「あっ、虚空助けてー!このままだと身動きが取れないー!」
「…むう、腕が抜けなくなっちゃったぞ!」
倒れたキョンシーの腕は地面に刺さっていた。そしてその間に…小傘が倒れていて、まるで押し倒されたかのようになっている。
「…なんだこの状況は…とりあえず、触って大丈夫か?」
「おー?なんだお前はー?」
「休暇を楽しみに来た、ただの聖の知り合いだ。…よっと」
「おお、助かったぞー」
「ああもう、びっくりした…わちきが驚いてどうするのさ…」
そう言いつつ、小傘はキョンシーの服に付いた土を払ってあげている。なんだかんだで優しい子なのだ。
(…妖怪になるには優しすぎると思うんだがな)
「お前、名前はー?」
「…俺か?虚空だ…お前は?」
「私か?私はー…なんだったっけ?」
「また倒れこんだショックで名前忘れてる…」
「マジかよ…」
「芳香、お散歩は終わり…って」
「…ん、どこかで見た顔だな?」
芳香を呼ぶ声の聞こえた方向には、水色の衣服を纏った女性。虚空はその姿に見覚えがあった。
「…貴方、まさか…死神!?」
「…ああ、獄卒の食堂の張り紙で見たのか。確か…名前は…」
「せーがー!」
「ちょっ、芳香!抱きつこうとしてる場合じゃないわ!早く逃げるのよ!」
「…はぁ、どうしてこうなるかね…」
◆
「…とりあえず、今は私を捕まえる気はないという事でいいのね…?」
「ああ、今回は見なかった事にしておいてやろうか。捕まえたらいろんな所からいろいろと言われそうなんでな」
「貴方も大変なのね…ふふ。改めて自己紹介といきましょうか。霍青娥よ」
「宮古芳香だー」
「虚空だ、よろしく。…それで、どこに向かっているんだ?」
「私が普段、活動拠点にしている場所ですわ」
「…一応死神なんだが、教えていいのか?」
「見なかった事にするのでしょう?だったら…」
「…分かった、そういう事にしておくよ」
青娥の向かう先、それは彼女らが拠点にする仙界であった。
(…いいのかね、本当に。俺が話す可能性だってあるだろうに…)
「…ふふふ」