死神、寺の一員として過ごす 前編
虚空の姿は、人里の近くに存在するある寺院の中にあった。
「……」
座禅を組み、心を落ち着かせる。
「…すごいですね、ここまで心が穏やかになっている状態は初めて見ます」
その様子を見ていたのは命蓮寺の住職、聖白蓮だ。ひどく感心して、虚空の座禅を眺めている。
「…永く生きていれば、このくらいは簡単にできますよ。寝る前の一時間、師匠と居た頃の癖でずっとやるようになってしまいましたから」
薄く開いて居た目をしっかりと開いて、座禅を解く虚空。その表情はどこかすっきりとしている。
「でも、こういうしっかりした場所でやるのはやっぱり集中できていいですね」
「ふふ、いつでも来てください。歓迎しますから」
◇
さて、虚空が命蓮寺に来ていたのは、逃げてきたからだ。
せっかくの休みだったのに、朝から六花が居て…
「今日は三食付き合ってもらいますからね!」
「断る」
「即答!?酷すぎるよー…」
涙目で虚空へと訴える六花。その手には目薬が握られていた。
「…嘘泣きはバレバレだ」
「…むう、この前お仕事助けてあげたのに…その時に約束してたのに…」
約束と言われて、首を傾げつつ過去の出来事へと思考を巡らせる虚空。
すぐに、六花の言っていた事を思い出したようだ。
「そういや言ったな」
「そうだよ!ご飯作ってやるからって!」
「…だが、現在材料がないのと、先約があってな」
「ええっ!?」
「そういう訳だ、今日はすまん!」
「え、えぇぇぇっ!?」
取り残される六花をよそに、虚空は全速力で人里方向へと飛び去っていった。
◇
「…はぁ、匿ってほしい、と」
「このままだと休日なのに休めなさそうだったからな。…ちゃんと休まないと何故か俺が怒られるんだ」
「そ、そうですか…構いませんが、ここだと見つからないと言える理由があるのですか?」
虚空は数秒間考え…
「…いや、特にないが、あいつが優先的に探しそうな場所を考えたらここになった」
「え、えぇー…」
虚空の対応をしていた、寅丸星とナズーリンは困り顔になっている。
「なんだったら、一日体験修行とかの形にしてもらっても構わないしな」
「それ休めてないじゃないですか?」
「精神を落ち着けるのも、休ませるのと同義じゃないかと思うんだが」
「…少しお待ちください、聖と相談をします」
星が居なくなり、部屋にはナズーリンと虚空だけが残される。
「…君、結構苦労してるんだねぇ…」
「それなりにな。押しかけてくる六花に、サボり癖の小町…上司は映姫様だからなかなか融通きかないしな。…そっちも苦労してそうだな」
「主にご主人が宝塔を失くすせいだけどね…っと、来たようだ」
「お待たせしました、虚空さん。…命蓮寺は貴方を匿いましょう」
「ありがとうございます」
「その代わり、いろいろとやってほしい事があるのですが…」
「そのくらいはお安い御用だ。できる範囲でいろいろしますよ」
そして、今日一日は命蓮寺で過ごす事を決めた虚空なのであった。
超久々の虚空手記更新。黄明譚が区切り良かったからそのながれでこっちも考える事に。