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死神、虚空 前編

中有の道から少し離れた場所、そこには一年中実がなる林檎の木が沢山あった。


その林檎の木に囲まれた小屋に、死神の虚空は住んでいた。


「さて、今日の林檎の味はどうかな…」


真っ赤に熟れた林檎を一つもぎとり、そのまま齧る。


木々のざわめきと虚空が林檎を咀嚼する音だけが響く。


「うん、美味い。さてと…っと、今日は久々に休暇、か」


先日、幻想郷の閻魔である四季映姫・ヤマザナドゥに、命令されたのだ。


『最近貴方は働きすぎています。まぁ小町のせいでもあるんですが…とにかく、明日は休暇をとりなさい。それが貴方に出来る善行です』


まぁ確かに小町がサボってた船頭の仕事もやったりしてて、かなり疲れていた。

精神的な疲労だ。


「どうするかな…久々に人里にでも行ってみるか」



虚空は何時もの死神の仕事着ではなく、普段着の黒いコートを羽織って出かけた。


コートについている大量のポケットの一つから林檎を取り出し、齧りながら歩く。


虚空には林檎を齧りながら散歩をする癖があり、ごくたまにしか人里に姿を見せない割にはよく知られた存在になっていた。


二つ名が、『林檎を喰らう死神』となる程度に。


林檎を一つ消費する頃には、妖怪の山の麓をまわり、魔法の森に足を踏み入れていた。


魔法の森の瘴気は彼にとっては何の害もなさない。

人里の方面に進んでいくと、幻想郷ではかなりの有名人と鉢合わせた。


「お、林檎の死神じゃないか。珍しいな」

「俺の名前は虚空だよ。いい加減覚えろ魔理沙」

「だって二つ名の方が有名なんだぜ?最近見なかったけど何してたんだ?」

「仕事ばっかりしてたよ。一ヶ月ほど働いてたから映姫様に休めって言われたの」

「小町とはえらい違いがあるよなお前って…」

「あいつを基準にするのは間違いだよ。俺もかなり極端だが」

「自覚はあるのかよ」

「それなりには。魔理沙は…見たところキノコ狩りのようだが」


魔理沙の背負っているカゴには大量のキノコが詰め込まれている。

しかも種類はばらばらだ。


「いろいろ実験するつもりだからなー。どうなるか楽しみだぜ」

「爆発沙汰にならなければ良いけどな」

「あれは大失敗だったぜ…」


と、誰かの腹の虫が鳴き声をあげた。


「おっと、夢中で探してたら昼飯食うの忘れてたぜ…」

「…ほらよ」


虚空は林檎を一つ魔理沙に投げ渡した。


「お、いいのか?」

「毒キノコ食って誰かの手を煩わせる羽目になるのも嫌だろ。足りないならもう一個やろうか?」

「いや、一個で大丈夫だぜ。サンキューな」

「礼はいらんよ」


魔理沙と別れて、少し経つと森を抜けた。


「霖之助さんのとこにも顔出すか。珍しい物もあるし」


少し歩くと目当ての場所、『香霖堂』に着いた。

戸を開けて、中に入る。


「おや、珍しいお客さんだね。今日はどうしたんだい?」

「急な休みが出来たんでね。ふらふら散歩してたんだよ」

「そうかい。まぁゆっくり見ていきなよ」


品物をゆっくり眺めるが、どれも珍しい。

ここにある物は、無縁塚に流れ着いた外の世界の物が大半を占めていて、幻想郷では見ない物ばかりなのだ。


「そうだ、以前君が買ったあれは使っているかい?」

「あぁ、林檎を一気に六等分にするやつか?…最初は面白かったんだが、やっぱり自分で切った方が早かった」

「はは、やっぱり自分で手入れした道具の方が使い勝手が良かったか」


十分ほど店の物を眺めたが、特に欲しいと思う物はなかった。


「そろそろ散歩の続きに行ってきますね」

「ああ、気をつけてね」

「ああ、そうだこれを」


ポケットから林檎を取り出して、カウンターに置く。


「おや、良いのかい?」

「見物料みたいなものですよ。一年中あるから困らないし」

「そうかい、ありがたくもらっておくよ」


虚空は黙って頷いて、香霖堂を後にした。



人里に着いた虚空は、まずある店に入っていった。

店の看板には、『各種刃物取扱っております』と書かれている。


「おや、久しぶりだなぁ兄ちゃん!」

「どうも。これ頼みますね」


虚空は何時も使っているナイフ二本と、林檎の収穫で使う枝切りバサミを代金と一緒に手渡した。


「最近来ないから心配したぜ?彼岸の仕事ってそんなに忙しいもんなのか?」

「仕事が増える理由知ってるでしょうおやっさん」

「ああ、そういや確かに連日来てたからなあの姉ちゃん…」

「ま、そういうことです。その辺散策してから来ますんで、よろしくお願いします」

「ああ、しっかり研いでおくよ」


店を後にしようとしたところで、見覚えのある少女が入り口に立っていた。


「あっ、虚空さんお久しぶりです」

「お、妖夢か。久しぶりだな」

「お休みなんですか今日は?」

「突然休暇になった。働きすぎだって怒られたよ。妖夢は買い物か?」

「はい。でもその前に…」


虚空は妖夢が大事そうに持っている箱に気がついた。

妖夢が箱を開けると中には柄の部分が壊れた包丁があった。


「おやおや、こいつはまた…」

「使ってて壊れたのか?」

「はい、いきなり割れちゃって…」


店主が包丁の様子を見て唸る。


「直せるでしょうか…?」

「難しいな…。でも刃の部分はしっかり手入れされてるから、新しい柄を付けておくよ。少し時間はかかるけどな」

「じゃあその間に食材の買い物に行って来ますね」

「ああ、その方が時間も潰せるだろうし、そうしな。ちゃんとやっておくからさ」

「ありがとうございます」

「…俺も暇だし、買い物に付き合ってやるよ」

「良いんですか?」

「やる事も無くてな…暇が潰せるなら手伝いをしてた方がいいしな」

「そうですか、ありがとうございます虚空さん」


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