番外編・同級生に一目惚れ?
「ゆっくりと。」の番外編です。
菊田くんの友人・永山くんサイド。
元日の1日、いや数時間で恋をしたお話。
H27.1.28〜4.30作成
高校を卒業した翌年の元日。
高校の同級生で、陸上部の仲間でもあった菊田の、駅伝でのゴールを出迎えるために、他の友達二人と一緒に群馬県に行った。
そこには、菊田の好きな人である金子さんが、その友達を連れて応援に来ていた。
会ってすぐ、金子さんの名前は出てきたのに、もう一人の子の名前が、なかなか浮かんでこなかった。
話しているうちに、名前を思い出した。
石垣雪奈さん。
高校の3年間、ずっと同じクラスだったことは、記憶にあった。
おとなしくて真面目そうな子たちのグループにいたから、直接話す機会はほとんどなかったのだ。
菊田と、金子さんが両思いだったことが判明して、その帰り道。
他のメンバーが次々と電車を降りて、石垣さんとぼくの二人だけが残ったから、どの駅で降りるか、聞いてみた。
最寄り駅は、ぼくと同じだった。
「永山くんと同じ駅だって知ってたよ。テスト期間だったりして部活がない時とかには、同じ車両に乗っていたの」
「そうだっけ?」
「……わたしが、一方的に見ていただけだから、気が付かなかったでしょうね」
石垣さんは、ちょっと伏し目がちになった。
「金子さんが菊田のことを好きだって、知ってた?」
「いいえ。恋の話は、お互いにしたことがなかったの。駅伝やマラソンの話はいっぱいしたよ。わたしもあの子も、スポーツをするのは苦手だけど、観戦は大好きで。でも、陸上部の人を好きだったとは思わなかったな」
「駅伝、好き?」
「うん。人が、たすきで繋がれていて、みんなそれぞれ力を出しているところがいいかな、って。でも、見ている人は楽しくても、選手の人は大変だよね。学校とか会社とか地元とか、色々な人たちの思いを背負っているから」
いや、ぼくは、中学や高校の時に駅伝に出ても、そこまで深く考えたことはなかった。
スポーツに力を入れていない学校だったからかもしれない。
「うわぁ〜……。わたしばっかり、しゃべりすぎちゃったね」
「石垣さんって、おとなしい子だと思っていたけど、よくしゃべるからびっくりした」
ぼくは、石垣さんへの印象をそのまま口にした。
そして、次に石垣さんが発した言葉に、驚くのだった。
「高校の時のわたしが見たら、どう思うかな。ずっと好きだった人と、こんなに話しているなんて」
「今、何て言った?」
石垣さんは真顔になってしまった。
「興奮しすぎて、とんでもないことを言っちゃったみたい。ごめんなさい。聞かなかったことにしてね」
「別に、謝らなくてもいいのに」
「名前も覚えていなかった同級生に、いきなり告白されても、迷惑でしょう?」
「いや、そんなことはないよ」
『友達と好きな人』の恋の行方が気になっていたから、自分は金子さんに恋愛感情がないのにもかかわらず、目で追いたくなっていた。金子さんの隣にいた石垣さんの姿も、視界には入っていたけれど、あまり気にとめていなくて、ぼくを見ていたとは思いもよらなかった。
付き合っている相手は現在いないから、すぐにでも、『じゃあ、ぼくの彼女になるか』と言ってしまいたくなった。
でも、再会したばかりの同級生に素早く手を出してしまうと、かえって『軽い人』なんて思われるかもしれないから、ハッキリした返事はしなかった。
ぼくと石垣さんが降りる駅に、到着した。
石垣さんの家は、ぼくの家と反対方向になるそうだ。
改札口も、北と南に分かれる。
「菊田を見ていたら、また走りたくなった。今度、市内のミニマラソン大会に応募してみようかな。高校の時には、出たことがあるんだよ」
降りたホームで、ぼくは立ち止まり、駅伝の応援の余韻に浸りながら、走りたい気持ちを話した。
「永山くんがミニマラソンに出場したら、応援に行きたいな」
「おお〜。嬉しいね」
「喜んでくれるの?」
「石垣さんを見つけたら、こっちから手を振っちゃったりして」
「ダメだよ。ちゃんと走らなきゃ」
つい調子に乗ってしまい、石垣さんから優しくたしなめられた。
帰宅してから、石垣さんとのやり取りを思い出し、頬がゆるんでしまう。
体の中からじんわりと湧いてきた温かい思いを、言葉で表すならば、『一目惚れ』か?
初対面の人ではなく、再会した同級生に対して使うのは、合わない言葉かもしれないが、
確かにぼくは、この日一日だけで、恋に落ちた。
話していて楽しい子だけれど、冷静に一歩引いたところでぼくを見ている感じもする。ぼくへの片思いが長かったからだろうか。
近いうちにまた会いたいと思って、石垣さんに電話してみた。
「わたしなんかと会うなんて、彼女さんに悪いんじゃないかな?」
「でも、今はフリーだからさ」
「永山くんって、高校の時は、モテてたよね。わたしには手の届かない人だと思ってた。……あっ、卒業してから、偶然見かけたこともあったの。駅の近くで、女の人と手をつないで歩いていたところ。時々見つめ合っていたわ」
たぶん、高校の卒業直前から付き合っていた彼女とのデートの途中だったのだろう。ちなみに彼女とは2ヵ月ぐらい前に別れた。
石垣さんに見られてしまっていたとは、今さらながら恥ずかしい。
『これからは、君を大事にするからね』なんて言っても、すぐに信じてもらえないかもしれない。
ぼくのことをずっと好きだったとはいえ、『遊び人』だと思って、警戒しているようでもあるから。
まずは、友達として石垣さんに信頼されるようにならなければ。
そして、ちゃんとぼくの思いを告白してから、前に進んでいきたい。
…end…
▼作者あとがき
あとがきです。
「ゆっくりと。」の更新が進まなかった間、番外編をコッソリ書いてみたのですが、おかげで、本編の序盤での設定を、一部変えなければならなくなりました。
どこがどう変わったかと申しますと、当初の設定では「見に行かない」と言っていた雪奈ちゃんが……。
細かく計画せずに、行き当たりばったりで小説を書くから、こんなことになるんですよね。
最初から読んで下さった方がいらっしゃったら、申し訳ありません。
「ゆっくりと。」は一応完結となりましたが、「駅伝ものがたり」は、今後、シリーズにするつもりです。
次回作については、金子さんと菊田くんの今後のお話になるのか、それとも全く関係ない駅伝選手のお話になるのかは、未定です。
マラソンに飛躍する選手とその彼女さん(または奥さん)のお話をいずれ書きたいとは思っています。
誰が主人公になったとしても、ゆる〜いお話になりそうなことは、間違いないでしょう。
H27.4.30 こだまのぞみ




