第六章
菊田くんからのメールは、いつも、ほんのあいさつ程度の短い文章ばかり。
わたしも、短い文章で返す。
やり取りは毎日ではなく、何日かに一度ぐらいのものだ。
気持ちを伝え合い、『見ているだけで満足する片思い』からは卒業したはずなのに、お互いにアッサリしたメールでは、心の距離がなかなか縮まらない。
わたしから、回数を増やしたほうが良いだろうか。
もっと、彼への思いが伝わる内容にしてみようか。
あれこれ考えていたら、菊田くんから新しいメールが届いた。
『今から電話したいんだけど、時間は大丈夫?』
直接電話してくれても構わないのに。
ずっと、短いメールのやり取りばかりだったから、いきなり電話すると、わたしが迷惑するとでも思ったのだろうか。
わたしから電話をかけてみた。
「メールありがとう。メールで断りを入れなくても、電話してきていいからね」
「ん……じゃ、今度からそうしよう」
「すぐに出られない時も、着信履歴を見たらかけ直すから。わたしからも電話するね」
「わかった」
早口でぶっきらぼうな調子なのではなく、ゆっくり、明るい返事。
高校時代、教室で席が近かった頃も、席が離れてしまって話をする機会がほとんどなくなってからも、菊田くんの温かい表情と穏やかな話しぶりには、かなり癒されていた。
「菊田くんの声って、聞いていて安心するわ」
「金子さんこそ、落ち着いた大人っぽい話し方で……。電話じゃなくて、じかに聞きたいなあ」
「やだ、もう。大人っぽいだなんて。中身はまだまだ子供なのに」
「実は同じクラスになる前からずっと気になっていたんだ。大人な感じの、落ち着いていそうな人がいるなって」
同じクラスになる前から、わたしのことを?
ただ驚くばかりで、返事をする言葉に悩む。
「陸上部の先輩から、『告白しあったあの子とは、どうなった?』って聞かれて、
『別に何もありません』
って答えたら、
『オマエが積極的にならなきゃ、進まないと思うよ。両思いなのに』
なんて言われたから、伝えたいことを、ぼくなりに、話してみようと思ったんだ」
わたしも、菊田くんともっとお話をして、お互いの心を通わせたい。
でも、まずは感謝の思いから伝えなければ。
「ありがとう、今までわたしを見てくれて。これからもよろしくね」
「こっちこそ、よろしく」
高校時代の『見つめるだけの恋』には、さようなら。
『思いを伝えあう恋』に、こんにちは。
わたしたちは、やっと動き始めたところ。
ゆっくり、ゆっくりと。
…end…
▼作者あとがき
駅伝シーズンまっただ中の1月はじめに書き出した「ゆっくりと」。
タイトルの通り(?)チョコチョコ修正しながらゆっくり更新して、3ヵ月半も費やしました。
こだまのぞみの小説を読むのは初めてという方が、ほとんどだろうと思います。
あとがきで言うのもなんですが、私、遅筆なんですよ…。
ストーリーが思うように文章にならない、という時も確かにありますが、もっと大きな理由があります。
書き進めながらも、
「登場人物もストーリーも地味だから、読んだ方に『つまらない』って言われちゃうかなぁ」
という気持ちが出てきてしまって、先のお話が書けなくなってしまうからです。
「書きたいお話を書こう」と思い直して書き、そしてまた再び手が止まる、という状況の繰り返しです。
携帯電話で小説を書くようになって、9年になりますが、ご意見やご感想を頂いたことはごくわずかでした。
もっと色々な方に「面白かった」と言って頂けるよう、頑張りたいです。
次のページは、番外編になります。
もうひとつの恋のお話。
H27.4.20 こだまのぞみ




