第五章
菊田くんとメールをする約束をして、あたりさわりのない文面のメールを何度か交わしたけれど、『付き合おう』という話はしていない。
菊田くんが今、暮らしている所は、同じ関東でも、わたしたちの地元の町からは離れている。
本格的な競技活動をしている彼に、『会いたい』『普通のカップルのように付き合いたい』とは言いにくくて、第一歩が踏み出せずにいた。
1月の終わり頃のある日の夜、雪奈ちゃんから電話があって、
「報告したいことがあるの」
と、静かに切り出された。
「永山くんと付き合うことになりました」
「えっ、永山くんと?」
永山くんは、菊田くんの応援に来ていた3人の同級生の中の1人で、陸上部でも菊田くんと一緒だった。
「駅伝を見に連れて行ってもらったおかげよ。わたし、教えてもらうまでは菊田くんが出場することを知らなかったし、ましてや永山くんと会えるなんて、思いもよらなかったから」
あの日、雪奈ちゃんと永山くんは、帰りの電車の中で話が弾んでいた。
わたしが先に降りたあと、二人の最寄り駅が同じだったことからさらに色々話をして、その後も連絡を取り合い、何度か会って、永山くんから交際を申し込んできたそうだ。
「まさか、初恋の人が初カレになるなんてね……。高校の時は3年間ずっと同じクラスだったのに、話すチャンスがなかったから、ちょっと遠い存在だったの」
「わたしたち、同じ方向を向いて、別々の人を見てたんだね。恋の話なんて、全然したことなかったし、気がつかなかったわ」
友達の恋は前に進んでいる一方で、わたしは、両思いが判明してもその場で足踏みの状態。
この先どうなっていくのかわからず、不安でいっぱいになった。




