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子供は遊ぶのが仕事

不定期更新になりつつあります……。

 独特の匂いが室内に充満しています。人によっては耐えられないのかもしれませんが、私とエルディンはとっくに慣れてしまいました。


 --現在進行系で、黙々と薬草をすり潰している五歳児、ミアナ・カムノです。

 私の手元にあるのは、石の擂り鉢と木の擂り粉木、そしてその中身は生の薬草です。

 すぐ隣で私と似た作業をしているエルディンの鉢の中身は、紫紅猪の肝臓を茹でてから乾燥させた物です。

 静かです。

 私はともかく、五歳児エルディンが大人し過ぎます。こんな良い子で大丈夫か、と微妙に不安を覚えます。

 コレが終わったら、今日は遊びに行きましょうかね?


「できた!」

 エルディンが声を上げました。私もそこで作業の手を止めます。

「私もできましたー」

 互いに鉢の中を見せ合いっこして確認します。……これなら合格でしょう。綺麗にすり潰してあります。

 私達は擂り鉢を持って、隣の部屋へ移動しました。

 そこには作業台と、その上で生地らしき物を練っているソフィ母がいました。

「ソフィかーさん、できたよー」

 ソフィ母は手を止め、私達を振り返ります。

「ありがとう。二人とも、見せて頂戴?」

 作業台に近付き、擂り鉢を渡しました。台上の生地は灰色がかった緑色をしています。……エルディンの鉢の中身と、私の鉢の中身を混ぜ合わせたらこんな色合いになりそうです。

 絶対に台にある物は触らないように言われているので、私とエルディンは大人しくソフィ母の審判を待ちます。

 見渡せばせいぜい三畳程の小さな部屋です。作業台の他には天井から吊された、三、四段に重ねた籠が幾つかと、小さな穴の開いた木型。あ、手洗い用の水桶もありましたね。

 この部屋と隣室、私達がさっきまで居た部屋は、我が家の間取りのほぼ真ん中に位置し、窓がありません。やや薄暗く感じるのはそのためです。

 照明になる魔道具があるのですが、理由があってソフィ母はこの部屋では使っていません。

「合格。段々上手になって来たわね」

 にこっと笑いながら褒めてくれました。眼福です。

「きょうのお手伝いは、おわりですか?」

「そうね……」

 私が尋ねると、ソフィ母は考える素振りを見せました。まだお手伝い兼お勉強が残っているのでしょうか?

 思い立った様に立ち上がり、吊された籠の一つを手に取りました。一度桶で手を洗い、水気を拭ってから、籠の中身を取り出します。

 小指の爪サイズの、灰色の粒です。

「これは、何のお薬だったか、覚えている?」

 エルディンがすかさず答えます。

「血がふえるくすり!」

「正解」

 別の籠に入っていた手の平程の布袋に、籠の中身、増血剤十五粒を詰めます。ああ、先が読めました。

「村長さんの家に持って行ってくれるかしら」

 やはり「お使い」でした。

 これが初めてでもないので、私達は頷きます。

「持っていったら、夕食までは遊んでいらっしゃい」

 午後の自由時間の許可も出ました。流石はソフィ母、分かっています。

「はーい!」

 私達はもう一度、今度は満面の笑みを浮かべて頷いたのでした。


 ガーネットに「お使い」とその後は遊びに行く事を伝え、私とエルディンは家から飛び出ます。村長の家は、我が家から三軒隣りに在ります。ご近所さんでした。

 この増血剤、服用しているのは村長さんではありません。息子さんの嫁、ナイアさんが必要としているのです。

 増血剤と言われてはいますが、効能は複数ある様です。エルディンが先程まですり潰していた紫紅猪の肝、それが増血効果、……私がすり潰していた薬草が、ビタミン等栄養素を含んでいるのではないでしょうか。

 薬草が生だったのは、推測ですが、含有魔力を損なわない為では……と考えています。

 ちなみにナイアさんの不調の症状ですが。吐き気、食欲不振、倦怠感……お分かりでしょうか?

 そう、おめでたです。

 実はナイアさんだけではありません。村では他に五人の妊娠が判明しています。おめでたラッシュです。

 そのため村唯一の薬師であるソフィ母は、最近ずっと調合部屋………あの部屋に籠もりっきりだったりします。

 私とエルディンも、薬草の名前や効能、簡単な薬の作り方を教えて貰いながら、その手伝いもしていました。まあ五歳児なので、大した事は出来ていないのですが。

 あと、ナナ母も頻繁に狩りに出る様になりました。紫紅猪狩りです。そして私達も月に三度の制限内で連れていかれます。はい、囮です。

 ちょっと遠い目になってしまうのは仕方がありません。あれから魔力量も結構増えました。

 ナナ母いわく、そろそろ次に行こうかしら、との事ですが、まさか獲物の方のランクアップでは無いですよね? 私達が次段階に移るという意味ですよね?

 少し不安です。


 私は改めて、増血剤が詰まった布袋を確認しました。衣服に使われるのと同じ布地で、これを相手に渡すと、その前に薬を入れてあった布袋が返品されます。返ってきた布袋は洗ってからまた薬を詰める、という流れです。エコですね。

 増血剤の粒は形も大きさも全部揃っています。

 一度、ソフィ母の作業を見せて貰ったのですが、生地状の薬を穴の開いた木型に詰めて、押し出す事で形を揃えていました。

 それを天井に吊した籠に入れて、乾燥させると完成の様です。粉末よりも保管しやすく、また飲みやすいと好評です。

 何となく、粉末状だと苦いのではないか、と思っています。良薬口に苦し。薬草も入っていますからね。

 そういえば、以前風邪を引いた時に飲まされた薬は苦かった……つらつらと考えている内に、村長さんの家に着きました。


「こんにちは!」

 この村では家に誰もいない場合を除いて、扉に鍵を掛ける事は余りありません。案の定、抵抗無く開いた玄関から、私達は村長宅へと入りました。

「はーい」

 奥から女性が出て来ます。ナイアさんです。

「お薬とどけにきました!」

「あら、ミアナちゃん、エルディン君。有り難うね」

 伏せっていると聞いていたのですが、今日は顔色も良く、元気そうです。つわりが治まってきたのかもしれません。

 ちょっと待っててね、と一度奥に引っ込み、空の布袋を持ってまた玄関先に出て来ました。

 エルディンが布袋を受け取り、私が新しい薬を手渡します。薬代は月毎に纏めて計算しているらしく、今は受け取りません。

「ソフィアさんに宜しくね」

 伝言も承った所で、別の声が掛けられました。

「ナイア姉、誰か来てんの?」

「あ、バートだ」

「……何だお前らか」

 現れたのは、村長さんの下の息子、バートです。私達より四つ年上の九歳。ややつり目の茶髪。

 少々口が悪いのですが、年下の子供の面倒はきちんと見てくれる、真面目な少年です。

 彼の顔を見て、これから何をして遊ぶか、ふと思い付きました。

「バートはお手伝いはおわったんですか?」

「今日はもうやるのはねえな」

「じゃあ、いっしょにあそぼう!」

 エルディンが私の言いたかった言葉を続けました。

「ちいさい子もさそって、みんなであそびましょう」

 更に私は言葉を重ねます。

「そうだな……何すんだ?」

「かくれんぼはどうですか?」

 バート少年は暫し考えた後、頷きました。

「いいぜ。……ナイア姉、俺ちょっと出てくけど、無理すんなよ」

「大丈夫よ。気にしないで遊んでて」

 長兄のお嫁さんへの気遣いもバッチリなバート少年です。将来有望株がここにも一人。


 そして私達三人は外へと繰り出したのでした。



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