表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/8

もふもふの素晴らしさ

前回までの話を改稿しています。説明の追加、及び大亀との遭遇シーンの変更です。大筋は変わってません。

 この世界における人族と呼ばれる存在は、幅広く定義されています。

 とは言っても、要するに「二足歩行の言語能力を持つ知的生命体」をひっくるめて人族と称するだけなのですが。

 まるで地球のホモ・サピエンスそのモノの姿形をした人族、竜人族、鳥人族、狼人族、そして言わずもがなの猫人族。

 狼人族と猫人族はファンタジー定番のもふもふ組達です。竜人族、鳥人族についてはまたの機会に説明しましょう。

 そのもふもふこと子守メイド兼我が家のマスコットアイドル、ガーネットをご紹介致します。


 彼女は灰色がかった毛色をし、その大きな目は綺麗なサファイアブルー。赤目じゃないんかい、名前ガーネットなのに……などと突っ込みませんよ私は。

 そんな事、彼女の愛らしさの前では些事にすぎません。ぴんと立った二つの耳、ヒクヒクと動く髭、ひんやりと冷たい鼻、そしてぷにぷにの肉球。正に地球で見掛けた猫そのもの……が人間サイズで二足歩行。リアル着ぐるみです。この萌えは筆舌に尽くしがたいのです。

 あ、前世では猫派です。


 この世界、猫人と狼人はいても、猫そのもの、狼(もしくは犬)そのものは存在しない様です。……進化したのでしょうか?

 確か神話では、女神の御使いが世界の混沌を鎮め、安定した大地から生命が誕生した……と絵本で読んだのですが。進化論、有りですかね?

 まあ、考えても分からない事は置いといて、ガーネットについてです。

 私はチート能力は有りませんが、数多の転生経験により、言語能力だけはやたらと発達しております。言葉というのは自然と覚えるものの代表ですしね。

 多くの言語パターンを知るゆえに、意味を理解する……覚えるのが早いのです。

 実は生後三週間頃には、言葉、分かっちゃってました。いやいや、チートでは無いですよ。ヒアリングだけですし。喋れませんでしたし。そんな大した事では……え、ウザい? 


 コホン(咳払い)。

 気を取り直しまして。早々に言葉の意味が分かるようになった私でしたが、個々人の発音の違いによっては、聞き取りにくい事もありました。そのため初めの頃、ガーネットの喋り方は訛りが強いな、と思っていたのです。


 ……ええ、違いました。それは大いなる勘違い、何故すぐに気が付かなかったのか!

 今でもはっきりと思い出せます。あの瞬間を--。


 私とエルディンが眠る寝台へ、何事か声を掛けながら近寄ってくるガーネットの姿。

 それまで不明瞭だった訛りが、唐突に意味をなしました。

『ご飯の時間ですにゃー』


 --猫語尾!!

 カッと瞠目した私に驚き、一瞬毛が逆立ったガーネットは大変愛らしかったです。

 大猫さんが猫語尾で喋る--ここは楽園か。しかも子守メイドです。エプロンドレス付きです。

 これはもう、思う存分甘えるべきでしょう。

 私は生後三週間にして、そう決意したのです。

 --そして今に至ります。


 村に帰って怒れる鬼神(ソフィ母)と遭遇した後、私達は家に連行されました。そしてすぐに子供組は風呂場へ放り込まれ、ガーネットの猫手で綺麗に丸洗い。

 やっとサッパリしました。ですが空腹感が凄まじい事になっています。

 もう歩けない、とエルディンと一緒にガーネットに訴えた所、彼女は私達を同時に抱き上げ、食卓まで運んでくれました。本当に素晴らしい子守メイドです。

 モフモフを堪能しながら昼食へと目を向けた私は、少しばかりやるせない気持ちになりました。

 当然と言えば当然なのですが、鶏肉料理でした。


 私とエルディンがランチタイムを過ごしている間に、大人組は話し合いを終えたようです。

 ソフィ母が私達の側に来ました。……まだ怒ってます?

「あのね、エル、ミア」

 意外にも穏やかな声でソフィ母は話し始めます。

「お外に出てみて、どうだった?」

 私とエルディンは顔を見合わせます。予想とはちょっと違うパターンです。

「たのしかった。土がフカフカしてて、葉っぱがキラキラしてた」

 エルディンは素直に答えました。疲れもしましたが、初めて見た外の景色は、子供心にも鮮烈に印象付いた様子です。

「おおきな木がいっぱいありました」

 ……私のは感想ではなく、ただの事実を言っただけですね。

 ですがソフィ母は共感する様に頷きました。その目には複雑な色を浮かべています。

 瞬きした次には、もうそれらは消え失せていましたが。

「……また、お外に行きたい?」

「うん」

「はい」

「お外は怖いのが一杯いるわ。それでも?」

 私とエルディンはもう一度頷きます。この世界に生まれた以上、いずれは必ず村の外に出る事になるでしょう。それが早いか遅いかの話……と私は考えての返事です。

 エルディンの方は純粋に、幼子ゆえの好奇心から出た答えなのだと思います。それもまた、生き物としては当然なのです。

 子供であるからこそ、恐れを知らない。……いえ、ソフィ母の怒りは怖いのですが。美人の怒りをご褒美扱いできるのは、一部の方々だけです。

「そう……」

 ソフィ母は一度、大きく息を吐きました。覚悟を決めたのでしょう。

「分かったわ。ナナ母さんとも話したのだけれど、これからは月に三回、二人ともお外に出る事を許します。……ナナ母さんと、狩りに行くのよ」

 恐らくですが、今回の護符レクチャーもとい紫紅猪狩りは、ナナ母が無断で決めた事なのでしょう。教育方針について、ナナ母は早い内からの英才……ちょっと違うかもしれませんが、とにかく早めに鍛えておこうと考え、ソフィ母は一般的な子育てをするつもりだったのだと思います。その予定をナナ母が木っ端微塵にしてくれましたが。

 実母がイケイケ過ぎて困ります。


 続いた言葉に、私はぎくりとしました。

「ミア、もう字は読めるようになってたわね?」

 気付いていましたか。内心焦りましたが、こっくりと頷きます。習熟度まではさすがに知られていない筈なので、多分大丈夫です。

「エルはまだ読めないわね。文字の読み書きも、これからはきちんと教えます。私とナナ母さんが知っている事、できる事、全部をあなた達に与えましょう。……二人が、生き抜けるように」

 意味深ですが、言葉には私達への愛情が溢れんばかりに込められていました。


 私とエルディンは、この危険に満ちた世界の事をほとんど知らない、小さな子供です。ですが愛情を与え、守り育ててくれる親がいます。それが貴重な幸運だと私はよく知っているのです。

 大いなる感謝を、二人の母へ捧げます。


「話しは済んだ?」

 ナナ母、空気読んで下さい。

 雰囲気ブチ壊しで登場したナナ母は、赤く汚れた前掛けを着けていました。生臭いです。

「今夜の鍋だけど、つみれも入れる? 挽き肉作ろうか?」

 ……ちょっと待った。

 その言い方だと、もしかして、時間の経過的にですが……子供の未来についての話し合いは、解体の傍らで行われたのでしょうか。

 既に紫紅猪は肉塊に加工済み、と聞こえるのですが。

「この子達には柔らかい方のがいいんじゃないかしら。そうね、お願い。分かってるでしょうけど、肝臓は捨てないでね」

 ソフィ母、切り替え早いです。

 疑惑は流す事にしました。何故なら、私とエルディン、共に限界が近かったからです。

 思考が霞みます。つい目をごしごしと擦りますが、もう誤魔化しは効きません。

 ソフィ母が微笑むのが分かりました。

「疲れたわよね。さあ二人とも、お昼寝にしましょう」

 抱き上げられました……このモフモフ感、ガーネットですか?

 エルディンはソフィ母が抱っこしている、はず……。


 とても暖かな眠りの闇に、私はそのまま落ちていきました。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ