しー・えー・てぃー
なんとなく思い浮かんだ。あたりさわりのない話です。
肩の力を抜いてお楽しみください。
やぁ、また君か。こんな人のいない場所にわざわざどうしたんだい?
ボクかい? ボクは高性能演算……いや、君には分からないだろうね。もういないけど、大体の人間はボクのことを”ロボット”って呼んでいたよ。
君の名前はなんだい? ん? なんて言ってるのか分からないな。ボクの言葉で喋ってよ。
まぁ、君の名前なんてどうでも良いや。どうせボクはもう壊れる。そうジャンクになるんだ。
人間様の言う通りに動いていたボクの腕だって、もう動かない。まずここから動けやしないしね。
痛くないよ。おい。体を擦り付けるじゃない。別に痛みを感じるように出来ちゃいないんだ。
……君は優しいんだね。もうすぐ動かなくなるボクに話しかけるんだからさ。
君には分からないだろうけど、ボクには沢山の仲間がいたんだ。
いないじゃないかって? 周りをよく見てみろよ。そこらに落ちてる鉄の塊。それが全部、ボクの仲間さ。皆、ボクみたいに喋る奴じゃなかったけどね。
おや? 雨が降ってきたね。ボクの体に隠れなよ。雨漏りはするかもしれないが、多少はマシになるぞ?
おいおい、体を震わせるじゃない。ボクの体が余計錆ちまうだろ?
またか。頼むからボクにも分かる言葉で話してくれよ。感謝してるのは分かるんだけどさ。
ところで君の仲間はどこにいるんだい? ……いや、ごめん。この話はダメだったね。 ――もうこの星には、君以外の生き物なんていないのだから。
*
やぁ、また君か。しかし、よくボクの事を見つけられるね。
周りの景色を見てみろよ。汚れた鉄屑で一面埋もれてる。ボクだって半分地面に埋まってるし。
で、君はこんなところに何をしに来たんだい? おっと、待った! このボクが当ててみせよう!
そうだな……。ボクと話をしたいから! どうだ。正解だろう? あれ? 違うの? じゃあ、何だろう?
うーん……。
……おい。また体を擦り付けるんじゃない。ボクの体は君の体とは――あ。
ほら、言ったじゃないか。あーあ。ボクのボディが剥がれて……中身が丸見えだ。恥ずかしくはないけど、もう少しボクの体を労ってくれないかな? ボクはもっと長く話をしていたいんだから。
*
やぁ、また君か。君が来ることは二十三分も前から分かっていたよ。遠くから来る君が見えてたんだけどね。
しかし、君、泥だらけになっているぞ。おまけに鉄臭いときてる。ボクも鉄臭いって? 当たり前だろ? ボクは”ロボット”なんだから。
とにかく早く風呂に……って、なかったね。どこかに水が溜まっているところはないのかい? ボクはここから動けないから分からないんだ。マップデータもこうなる前のしかないし。
おい。やめろ! どこに乗って……って、ボクの凹んだ頭部に水が溜まっていたのか。それはマップデータにはなかったな。
まぁ、暴れなければ使って良いよ。だから暴れるなって! うわ!
……だから言ったじゃないか。とうとう顔から崩れ落ちちゃったよ。もう横になった世界しか見えない。少し高い所から見える世界が好きだったのに……。
ところで君に怪我はないよね? べ、別に心配してるわけじゃないぞ?
……ふふ。どうだ? 人間達が”つんでれ”と呼んでいた言い方だ。気持ち悪いって? 当然だ。君は人間じゃないからね。
*
やぁ、また君か。わざわざ動けないボクの前まで来てくれてありがとう。
ん? ”つんでれ”はやめたのかって? だって君にやったって意味がなかったじゃないか。
そういえば、君の言葉を練習してみたんだ。
ナー。ナーナー。どうだ? 上手いだろ? え。下手くそだって? 無理を言わないでくれよ。こう見てもボクは動けないんだ。そもそも君みたいに喉を震わせるなんて出来ないしね。
*
やぁ、また……あれ? 君が2つに見えるぞ?
とうとうボクも壊れたようだね。え? 違うのかい? なるほど、ボーイフレンドか。いやぁ、羨ましいね。
だってボクは動けないし、まず生殖活動なんて必要ない。仲間なら人間達が勝手に増やしちゃう。
でもまぁ、ボクだって恋くらいしたいよ。無理だけど。
君達は君達で楽しんでおくれ。よかったじゃないか。君はこれでボクがいなくても一人じゃない。ふふ……。相変わらず何を言っているか分からないよ。
*
やう……。ますきたか。
ぼクは*わ*タらしい。そろソろ……おワカれミたいダ……。
そうイえば……キミのことをさらでてみたよ……。
キミは”ネコ”ってナマエなんだね。
ソレジや、さようなら”ネコ”。もうにど、と……アワナイだれうね……。