23話
ガタンゴトン
馬車が揺れる揺れる揺れる。
あと三日は馬車の中で我慢しなければならない。
トスカ王国を出て早二日たった。
しかし、例え隣国だろうと五日はかかるようで腰が痛いしお尻も痛い。もう一生馬車には乗りたくなくなる。
なんか揺れを止めれる方法は無いのかと思ったが無さそうだ。
目の前にいるアルナイルさんは平然と座っている。痛くないのだろうか。
隣国に行くための道路は殆ど整備されてなく石がまばらにあったりする。こういうところは前世に比べ物にならないくらい雑だ。
仕方ないのだろうけど。
それに道中魔物がでたり盗賊だか山賊だかがでたりした。それでも全部護衛の方々が倒してしまう。
ちなみに付き添いで来るのはアルナイルさんと小さい頃から面倒を見ていてくれたメイドのスルフィアさんとフォーマルさんの変わりの家庭教師のアッシュさんである。残りは護衛に10人ほど護衛多いよね。アルナイルさんからしてみれば少ないらしいんだけど。ちなみに馬車にはアルナイルさんと俺しか乗ってない。なので暇だ。
なにか面白いこと無いかなぁなんて考えていた。
窓の外も景色が変わらないので見るのも飽きた。
ロミカン王国から前以て送られてきていた教科書も暗記するくらい読んだ。
ロミカン王国は鉱山資源に恵まれていてそれを生かして貴金属を加工した物などが有名なのだそうだ。
それらを売りさばく商人たちが集うこともあって商業も盛んらしい。
俺がこれから通う王立フレデリア魔法学校は古くからある学校らしくて有名な魔法使いや研究者などが卒業している学校らしい。
良い感じの学校に留学すると思う。
授業の全般は魔法に関してで治癒学、召喚魔法学、魔法工学、空間魔法学、攻撃・守備魔法学などなど様々だ。これを選択するらしくほんとに大学のようだ。
楽しみだなぁ魔法学校。
………とか思っていた。最近までは。
思い出したのだ。俺って魔法中の下くらいしか使えなくね?ってな。
ふっアホだよな俺って。
哀愁に慕っていると
「ユアルス様休憩いたしましょうか」
アルナイルさんの声に我に返った。
「うん。そうだね」
俺は念願の外に出た。
外は広い草原が広がっていてそよそよとした風に煽られ草が揺れていた。
体を思いっきり伸ばす。
「アルナイルさん!走ってきても良い?」
気分転換にこの心地のよい草原を走ってみたかった。
「どうぞ。あまり遠くに行かないように気を付けて下さいね」
俺は頷くと準備体操をして草原に向かって走った。
「ふわぁ……気持ちいい」
ふわふわとした草原に寝転ぶ。
視界には青い空と鳥が飛んでいた。
前世にこんな良い感じの草原あるのだろうか?
自然破壊をしていない異世界ならではだと思う。
自然と共存って大切だね。
ふぅ一息ついたあと立ち上がる。
ふと目の前にキラッと光る何かを見つけた。
何か勘違いかもしれないが好奇心が勝りその方角に駆けはじめた。
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「アルナイル殿。そろそろ行きましょう」
「あぁ。わかった」
返事を返してユアルス様がいるはずの周りを見渡す。
「………あれ?ユアルス様は??」
草原の彼方を目を凝らしてもユアルス様が見当たらない。
なんということだ……私が目を離してしまったばかりに………。
馬車で体が凝ってしまって体を動かしたいのだろうという配慮だったが……失敗してしまった。
いつも大人しくて精神年齢が見た目より高いユアルス様だからつい考えを緩めてしまったようだ。
「ユアルス様がいなくなった!探してくるからここを頼んだ!」
護衛の隊長にそう声をかけてから俺を草原に駆け出した。
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「これは………なんだ?」
キラッと光った正体、それはなんと卵だった。
虹色に輝く卵は光が当たってたまたま俺の目に映ったらしい。
綺麗な卵だなぁ。
でもなんでここに?
手のひらサイズの卵を俺はそっと包み込むように手に取った。
つるつるとした卵は神々しいくらい光を放っている。
周りを見渡してもどこにも親鳥のような鳥はいないし巣も見当たらない。ただコロンと草の上に落ちていたのだ。
「…………持ち帰って育てようかな」
ふと口にしてみるとそれがとても魅力的なことに聞こえた。
もう一度卵を見る。
「…………いいよな。持ち帰ってくださいって卵が言ってるし」
意味のわからない理由を並べつつ持ち帰り決定。
親鳥が来ないようにあわててその場を去った。
来た方向を戻っていると前から空のように青い髪が見えた。
アルナイルさんだ。
卵を落とさないようにアルナイルさんの方に向かって走る。
「ユアルス様!!」
焦ったような顔で俺の方に来たアルナイルさん。
なにかあったのだろうか?
「アルナイルさんどうしたの?」
アルナイルさんを見上げながら首を傾げるとアルナイルさんは一息ついて俺の手をとろうとして手の中にあるものに気付く。
「…………それは?」
おそるおそる聞いてくるアルナイルさんに首を傾げつつ答える。
「綺麗な卵。拾ったの」
卵を見ながらアルナイルさんは沈黙する。
「ユアルス様………その卵を今すぐ置いてきてください。」
強くそう言うアルナイルさんは俺に向かって諭すように言う。
「え?綺麗な卵だから育てようと思ったのに……」
「ダメです。その卵から物凄い魔力を感じます。危険です」
「………わかったよ」
落胆しつつ卵をアルナイルさんと置きに行った。
そして急いで馬車の場所に戻りちょっと水分を補給してから卵があった場所をもう一度残念そうに見てからあの地獄の馬車に乗った。
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「…………ア、アルナ…イル…さ、ん」
それは宿で起きた出来事だった。
昨日は卵のことを思って寝た。そのぐらい魅力的な卵だったのだ。確かに卵が俺の手元にある夢を見た。しかしこれは予想外だ。
「どうしまし……え?」
なんとあの卵が布団のなかに入っていたのだ。
これは某漫画のようではないか?!まさかこれが噂に聞く俺のこころ〇た〇ごなのか?!
本気でそう考えているときアルナイルさんが俺が産んだ?卵に触ろうとした。
バチンッ
「……っ」
明らかに拒絶反応を起こす卵。
あれ?俺さっき触れてたよね?
俺が持つと何も起こらない。
「?」
「その卵はきっと……ユアルス様にしか触れれないのでしょうね」
困った顔で卵と俺を見るアルナイルさん。
ふぅとため息をついた後俺を見る。
「仕方ないでしょう。その卵持っていきますか」
「やったー!ありがとうアルナイルさん!!」
俺は虹色に輝く卵をすりすりと頬をすり付けた。
スベスベだ。
しっかり育てなきゃな!
俺は卵を暖めるようにしながら道中馬車に乗るのだった。




