20話
「マルクル。僕してみたいことがあるんだけど……」
おずおずと上目遣いで俺を見てくるユアルス。
顔一個分くらいの身長さがあるので自然となるんだろう。
なんだこいつ。女か
入学してユアルスと出逢い今日で丁度10日はたった。その間ユアルスと共に行動して思ったこと。
それはこいつすげぇだった。
ユアルスは見た目もなかなかいいがとにかく無表情でボンヤリしててなに考えてるかわからないやつだった。
毎日各90分授業で歴史、数学、魔法、実践授業がある。その授業でどれも完璧なのだ。座学なんかは寝てるくせに。
そしてなにより驚いたのがほかの二つの授業だ。
まず魔法の授業は髪の色素が薄いから全くできないかと思っていた。そしたら普通人より威力などすべて完璧なのだ。他の生徒も先生も驚いていた。
次に実践授業だ。実践授業は一年生の間はまずは剣に触れあうのが目標で行われるらしい。その授業でどのくらいの実力があるか確認のために先生を相手に勝負をした。
剣を持つのさえ骨が折れるんじゃないかと思われる細い手で剣を持ち剣舞のような技で先生を圧倒してた。そして一分もしないうちに勝負がついた。もちろん勝者はユアルスだ。
授業以外にもあんだけ注目されているのにボンヤリとした顔で普通にいる。俺だったら嫌だ。
明らかに聞こえる声で悪口を言われても黙って俺と普通にいる。なんなんだこいつ。
一度聞いたことがある。“どうしてあんだけ言われてんのに平気でいられんの?”ってな。そしたら“別に平気な訳じゃないけど……でもああいうのって言い返すだけ無駄なんだよね。逆にもっと酷くなるだろうし。黙ってるのが一番なんだよ。そのうち飽きて言わなくなるだろうしね。”だってさ。見た目は子供の癖に中身は大人ぶってやがる。
しかもこうも言ってきた。“ああいうのに構ってる暇があるんだったら自分磨きに精を出したほうが効率いいじゃん?”優等生だ。
けど、こんなユアルスはほんとにどこか抜けてる。
今だってお願い聞いてくれる?とか言ってるけどどんなお願いだと思う?
女顔負けの魅力をムンムンとだして
「僕……サボってみたいんだ」
だとよ!なんなんだこいつ!!
まぁ一緒にいて飽きないからいいんだけど。
それに隣をあるっているのが誇らしくなる。
時々惨めにもなるけど。
この国の第四王子だからって理由も最初はあった。
けど、今はユアルスの中身に触れてみて切実にそう思う。無表情でボンヤリしてて無口な奴だけど実際は優しくて努力家で必死なのを俺は知った。
この何日かでこのくらいのことがわかるんだ。
きっともっとこれからこいつといれば楽しいことがあるだろう。そんな気がした。
「サボってみてぇなんて変わったやつだな。」
そう変わったやつだホントに。
「だって……憧れるじゃん」
どんなとこに憧れをもってんだか呆れるぜ。
「屋上をさ探してみたんだけど……つかなくてさ」
こいつは極度の変わり者で方向音痴だった。
忘れてた。
「だけど授業出ねぇとダメなんじゃねぇのか?」
「先輩が……テストさえしっかりとれば大丈夫って。あと、授業に時々でれば。」
…………。
それでもいいのだろうか。こんな純粋そうなやつがサボりだなんて。
俺、こいつをサボらせた瞬間誰かを敵にまわしそうな気がする。
「でもなぁ……」
「ちょっとだけ!僕学園にはいったらまずやってみたかったんだ」
………今、学園に入る前からって言ったよな?
「お前って……なんのために学園に入ったんだ?」
「え?友達つくるためかなぁ」
当たり前じゃんとかいう顔をしている。
「勉強は……いいのか?」
「まぁ大丈夫なんじゃない?」
さらっと言ったけどここは学園であって遊び場じゃないとは思う。俺が言えたことではないけど。
………でも叶えてやりたくなる。こんな目をされても困る。
「~っ!わかった!わかったよ」
「やったー!ありがとうマルクル!!大好きだよ!」
いきなり飛び付いてきたユアルス。
俺の胸に顔をすり付けてくる。
現金なやつだと思った。
つーかこいつにこういうことされても逆に嬉しく思っている自分がいる。
俺ってそっち系だったっけ?
「でもさ、どこでサボんだよ」
え?という顔で俺を見上げてくるユアルス。
こいつ………やっぱり女じゃないのか。
「えぇっ……もちろん屋上でしょ!」
なにいってるの~と上機嫌に言っている。
あ、笑ってる。いつもは無表情なので笑うなんて珍しい。
こいつってこんな性格なんだ。一つ発見だな。
それにしても屋上か……開いてないんじゃねぇの?
「屋上を探すのだけ手伝ってくれればいいから!ほんとにありがとう」
俺の手をとりブンブン振りながら歩く。
こんなに嬉しくなるようなことなのか?
まぁユアルスだから違うのか………
途中の廊下でみんなに知られているユアルスは無表情の無口な少年として知られている。そんなユアルスが今輝くような笑みをうかべている。そのせいで周りが騒ぎ始めていた。“あの”ユアルスが、と。
なにげ失礼だけどな。
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「ここが屋上……」
屋上に着いた後鍵がかかっていたので難なく開けて入った。
屋上は庭園のようになっていた。
緑が一杯で花たちが咲き誇っている。
風が吹くとさわさわと揺れる木々。
目の前で先頭切って歩いていたユアルスはふと立ち止まった。
「あ、こんにちは」
「………?」
「僕はユアルスだよ。よろしく!こっちは僕の友達のマルクル」
誰に話しかけてんだこいつは?
頭に?を浮かべる俺にユアルスは俺をいきなり見てくる。
「え?なに……」
俺が戸惑ったような声を出すとユアルスは綺麗な眉毛を寄せた。
「マルクル…エリンが話しかけてるじゃん。無視はダメだよ?」
「…………え??」
なになにどういうこと?
エリンって誰?
心底わからないという顔をするとえ?驚くユアルス。
「も、もしかして精霊さん見えないの?」
「……精霊?」
精霊っていえば架空上の生き物というかなんというかだよな?
なんで精霊が……ってまさか
「お前精霊が見えんのか?!」
精霊が見えるやつって言えばエルフとかそこいらの森の民だろうけどまず人間には見えない。
心が汚いからだって言う話だ。
精霊が見える人は昔からとても重要視されている。
精霊に力を借りれれば強い味方となるからだ。
まさかユアルスが精霊が見えるとは……つくづく規格外らしい。
「そっか見えないんだ……ごめんエリン。マルクル見えないんだって」
なんか申し訳なくなってくる。
俯き気味にどこにいるかわからない精霊に謝る。
「悪いな見えなくて」
「見えるようになれればいいのにね」
「あぁ…ホントに見えるようになれればいいな」
その後俺らは精霊にサボれるいい感じのとこを教えてもらいこの日の座学の授業をサボった。
また一つ発見だな。精霊と友達の友達かぁ。
なんか響きいいな。でもこれは黙っとかなきゃな。
ユアルスに危険が及ぶかもしれないしな。
俺は心の中で決断するのだった。
今回はマルクルsideでしたがマルクル視点で書くとユアルスがすごく可愛く書かさっちゃいます。
気を付けようとは思うのですがついついですね……。
次回はユアルスに絡んでくる人です。
毎回読んでくださりありがとうございます。
これからもよろしくお願いいたします




